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15話~魔法なんて見よう見真似で出来ますけど何か?

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 ファティナの家の外に出たコウとクリスティ。

 視界から見える範囲には、建物や遮断物がないので外の景色はここから一望できた。


「アリス。アンタは家で全員分のメシの支度をしときな」

「えっ? でも」

「アリスは特別コースだ。勇者と一緒のことをする必要はない。これから1カ月みっちり泊まり込みで魔法の勉強と実践、それからフロ掃除、洗濯等もやってもらう。メシと必要な物はこっちで用意するから安心しな」


「分かりました。料理はあり合わせの物でいいでしょうか?」


「適当でいいよ、好きに作りな。それからアタシの研究室は立ち入り禁止だ。分かったね」

 アリスはうなずくと、パタパタと家の中に入って家事の準備をしにいった。家事に対しても泊まり込みに対しても、前向きそうで嫌そうな様子は見られない。

 あの魔女と1カ月ずっと一緒か……俺なら耐えられんな。とコウは思った。

「さて勇者。魔法のことはどれくらい知ってるんだいアンタ?」

「いえ何も。どうやって魔法を使うのかも知りません」


「……そっからかい。アンタそもそもアリスほど魔法の素養はなさそうだし、こりゃ骨が折れるね」

 と、面倒くさそうに頭をかく魔女ファティナ。


「まあいい。一応教えるだけ教えてやろう、魔法に必要なのは魔力制御と魔法制御だ。神官の娘、さすがにこれくらいアンタ知ってるだろ?」

 とクリスティに話を振る。

「はい。勇者様、簡単に説明しますね。魔法制御は魔法のコントロールです、魔力制御は魔法の強弱をコントロールします」

 と言われてもちんぷんかんぷんのコウは「んん?」と首を横にひねるばかり。

「説明が簡単すぎるだろ。勇者が石になってるじゃないか。もう1回説明するよ」


「いいかい、魔力制御ってのは手元から離れた魔法の微細なコントロールのだ」

 といい魔女ファティナは手のひらを上にし、手元からボゥッと炎を出した。

 それは一瞬で消えた。

「アタシの手、火傷も何もしてないだろ。だが、これをずっと手元に置いとくと手が熱くなるだろ、温度や魔法の流れをコントロールするのが魔力制御だ。さらに分かりやすく言うと、自分の魔法でケガをしないための制御だ。強力な魔法ほど、自身を巻き込む可能性が高いから気をつけるんだね」

「なるほど。分かりやすい」


「それから魔法によって起こった現象は、自然界の現象とは異なった動きをする。これが魔法制御だ。まっ、見てもらった方が分かりやすいかね」



「トリ二ティボルト」



 魔女ファティナがそう口ずさむと、周囲から尾びれのような性質をもった3つの雷がぐるぐると螺旋を描くように広がりを見せ、ファティナが手を翳すと速度と性質が変わり、レーザーガンのような速度で地面を穿つ。

 衝撃はコウの前髪を揺らし、辺りに火花が飛び土煙を起こした。


「すっげえ威力……」


 トリニティボルトをストックしました。

 その機会的な音声はコウにしか聞こえなかった。
 ポケットから謎のデバイスを出し操作すると、アクションのところに魔法があり、雷魔法というジャンルの中にトリニティボルトという項目があった。

(……まさかね)

 コウはストックリプレイを指でスクロールし、トリニティボルトのところにリプレイを配置すると、カチッという静かな音がした。ここまできたら、疑問はもはや確信に変わりつつある。


 目についた一本松を標的に定め手をかざし「トリニティボルト!」と叫ぶ。

 別に魔法を発動するのに叫ぶ必要はないのだが、気合を入れた方が魔法威力が高くなる。なんて偏見からくる行動であった。

 雷はコウの手とは全く別の頭上から放たれた。一瞬、空が暗転し順に落ちた。一つ目の雷は一本松を縦に真っ二つにし、二つ目で枝を破壊し、三つ目の雷が一本松を根本からポキリと折り、ずしいいいぃいんと
 音を立てて一本松は砕けたのだった。


「え? え?」

 驚きの声を上げるクリスティ。
 同様に魔女ファティナは声こそ上げないが、驚愕の表情を顔に張り付けていた。


「こんな感じであってますかね?」

 とコウが、満足そうな表情で感想を問うと――


「な……何やってんだい!? あの松は知り合いから取り寄せてもらったもんだよ」

 と予想外の回答がきて、コウの顔が真っ青になった。

「まさか、いきなり松の木を破壊されるとは、さすがのアタシも想定外だ。しゃあない、マケにマケて銀貨5枚! アリスの訓練費に上乗せしておくからね」

「俺、ちょっと神社に急用を思い出しました」

 とコウが逃げようとすると襟首を掴まれ――「逃がさないよ。払うもんはきっちりと払ってもらうからね」

 と念押しされるコウであった。



「にしても……ワケが分からないね。1日で出来る簡単なやつを教えてくれ。そう言ってたね。何で比較的難しいトリニティボルトを見てすぐ出来ちまうんだい?」

「今のは反則技みたいなものですから。自分自身で魔法を使いこなしたいんですよ、簡単なやつをね」


「まあ乗りかかった船だし仕方ないね」

 魔女ファティナの実践訓練が始まった。


 まず訓練は裸足になり瞑想することから始まった。

 魔法を行使するのに、イメージがとても大事らしい。

 その後に一時的に魔力を高める、エーテルという飲み物を飲まされた。エーテルは死ぬほど不味かった。
 コウはこんなもの二度と飲むかと誓った。

 コウが訓練してる間、クリスティは初老の男とチェス盤でチェスの試合をしていた。
 クリスティが三度連続勝利し、かなりの腕前じゃなと褒められていた。


 訓練は半日近く続き、魔法を行使するまでには至らずとも、コウは自らの力で、炎くらいはおこせるようになった。

「ふぅ。まあこんなもんだね。で、火を起こせるくらいになったくらいで満足なのかい?」


「十分です。訓練すればその内、魔法も自力で使えると思います、それより」

 コウは自身の持つツヴァイハンターを取り出した。
 そして、手から炎を出し剣を手でなぞるようにすると。

 たちまち燃え盛る炎の剣が出来上がる。

「よし! イメージどおりだ! 火剣とでも名付けよう」

 と燃える剣を見て言った。

「こいつは驚いた……勇者アンタ、それはエンチャント魔法の領域だよ。特に神官が使う上級クラスの魔法だ。物質に魔法を付与するってのは、自分で魔法を使うのとワケが違うからね。何でできるんだい?」


「と言われましても、やってみようと思ったら出来ただけで、詳しい原理とかはさっぱりです」

「あちちちちっ、あっちいぃって!」

 炎の勢いが強くなりすぎて、たまらずコウは剣を放り出す。

「フッ……つくづく面白い奴らだね」

「さて実践ごっこは終わりだ! メシにするよメシ」



 アリスが料理した肉じゃがのスープや、焼いた白パン、ベーコンエッグやサラダがテーブルに並べられ料理を食べる。

 料理好きを自負するだけあって、アリスの料理は美味かった。

 交渉し、アリスの訓練費用は60日ほどのツケで待ってもらえることになった。

 その夜に、アリスにしばしの別れを告げ、コウ達は居宅の神殿へと戻っていった。

 金になる仕事をとってこないとな――コウはそんなことを考えていた。

 王子アーレスとの御前試合まで残り――3日
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