初老の戯言

かぴも

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初老の戯言

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 私は毎日通勤で片道2時間半ほど、猛スピードで地を滑る箱に監禁される。往復で5時間だ。1日24時間の内、睡眠は7時間程なので、起床時間はトータルで18時間。仕事は9時間、食事や風呂などのルーティンは合わせて2時間とすると、残りは7時間。たったの7時間だ。そこからさらに通勤の5時間を引くと、、と考えているとやりきれない思いで苛まれ、私は通勤のために生きているのでは無いかとすら思う。よくもまぁこんな生活を続けられているものだ。
 朝も夕も常に頭の中で通勤時間が長いから早く支度をしなくては、という動機で体が勝手に動いてる。渡り鳥は長距離飛行するので寝ながら飛ぶというが、人間も極限状態では可能なのでは無いかとすら思う。少なくとも私は、起床してから電車に乗るまでの定型的な動作の間、脳が労働を怠っている。朝食べたものなぞ細かく覚えていない。
 さて、今朝もいつも通り6時21分の電車に乗るために数分前からホームに並ぶ。こんな朝早いのに、乗客がわんさかいて何だか励まされる。ホント、ご苦労なこったよ。運良く座席に座れると秒でうたた寝をかます。いや、座れなくても吊り革を握ったまま仮眠している。若い頃は、読書をしたり、ニュースに目を通したり、通勤時間を有効に活用しよう!と意気込んでいた。しかし今は、電車にゆらゆら揺られる内に、私はゆりかごに揺られる赤子のようにスヤスヤと寝息をたててしまう。最近は電車の中で良質な睡眠をとる方法を試行錯誤している。そういえば、電車に枕は持ち込み可能だろうか。
 早いもので、私はもうアラフォーだ。おじさんではないか、何だか虚しくなってくる。若い頃は歳を重ねることに何の抵抗もなかったが、数年前の誕生日から何とも言えない不快なモヤモヤを感じるようになった。若い頃に想像していたアラフォーよりも中身は全く未熟なんだもの。先日、会社の部下と飲みに行ったが、ベロベロに酔って「上司、マジで尊敬してます」とか熱い視線を送ってきやがった。やめてくれ、私はそんな大層な大人じゃ無いんだ、と苦笑いしながら溜息を吐いた。年功序列のうちの会社では、私も例外無くそれなりの役職を持っていた。それ故だろうか、部下の言う言葉は満更でもなかった。
 歳をとるにつれ、時の流れが早い。大人は子供より感覚が鈍いのでピーマンの苦みがさほど気にならないように、血気盛んな少年の頃と比べ、感情の起伏も緩やかになった。ここまで聞くと、老いるということは一見つまらないように感じるかもしれない。だが実際は、なんというか、生きるのが楽になった。人生は一度きりだとかいうが、そんなの考えなくたって今日と変わらない平凡な明日がやって来るのは普遍の事実だ。例え明日死ぬとしても、そうとは知らず、今の次の今が続くと思っているのだろう。
 総じて、虚しいおじさんは毎日通勤に2時間半もかけている、という嘆きをタラタラと語られ、甚だ迷惑だと思われてしまっては、ここまで読んだ甲斐がないだろう。だが、前置きが長くて大したことでも無いことを勿体ぶる、それがおじさんになるということなのだよ。
 つまりだな、毎日頑張るためには、上手に手を抜くことだ。生き急ぐな、何もしなくたって年の功が付いてくるし、悪知恵も付く。訂正、寛容になるのだ。無意識下で養った力は意識下よりも遥かに強固で身体に馴染む。それが何年も毎日6時21分の電車に乗って、懲りずに無遅刻無欠勤を達成している秘訣なのだ。
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