俺を救ってくれた女の子はカフェの店員だった 〜癒しの空間に居た天使は俺の……〜

徳田雄一

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 カフェの帰り道だった。オーナーは可愛らしい笑みを浮かべて言った。

「楽しかったあ!」
「こちらこそ、楽しかったです」
「えへへ。またカフェに来てね?」
「もちろん」
「あ、ウチもちゃんとジム通うから!」
「えぇ、是非」
「えへへへ」

 俺はオーナーと別れて、ひとり本屋に立ち寄った。欲しい本を買い終えて本屋から出た時だった。

「あれ?!」
「……え?」
「ユウジくん?!」
「……」
「あ、ごめん」

 俺に声をかけてきたのは、元彼女だった。散々浮気をした挙句、俺に唾を吐きかけてきた女だ。最悪の思い出しかないのによく人に声をかけられるなと思っていると、その子は反省した顔で言った。

「どれだけユウジくんが良い人なのか痛感したよ。浮気してごめん。躊躇したんだよ。声かけるの」
「は?」
「ね、彼女居る?」
「てめぇのせいでどれだけ嫌な思いしたか分かってて言ってんのかよ」

 思わず俺は笑ってしまっていた。

「ごめん……」
「出たよ、その反省したようでしてない顔。どれだけ騙されたか」
「……」
「もう声掛けてくんな」
「うん」

 セリフを吐き捨てた後に急ぎ足で家に帰ろうとした時だった。腕を思いっきり掴まれる。

「……ん?」
「ユウジくん。待ってよ」
「……なぁ離せよ」
「やり直して。私と」
「誰が浮気女と」
「……ごめんなさい。本当に反省しているの。私ユウジくんとじゃなきゃ生きていけないよ」
「浮気相手と仲良しこよししてろよ」

 掴まれていた腕を思いっきり解く。俺は全速力で走りながら逃げる。家に着いた頃、本をじっくり読もうと袋を開けたがあの女と出逢ってしまったモヤモヤで本に集中出来ず、イライラが募る。

 翌朝を迎えてしまっていた。いつも通り仕事をこなして日比谷カフェに行った時だった。そこの店員にあの女が居た。

「あ、ユウジくん!!」
「……は?」
「いらっしゃい。お席へどーぞ!」

 俺は店から出ていた。自分の癒し空間が凄まじい地獄と化した。すると視界が真っ暗になる。

「んあ?!」
「だーれだ」
「あぁ。声でわかりました。オーナーさん」
「当たりっ。新人さんの可愛さにびっくりしちゃった?」
「違いますよ。俺の元カノで浮気して別れた奴です」
「あちゃあ。居ずらいね……」
「復縁求められてんで、もっと会いたくないんですよ」
「そかそか。まぁ接客はさせないからどうぞお席へ」
「はい」

 オーナーの配慮もあり、本当に接客は別の従業員であの女は近づく素振りも無かった。コーヒーとティラミスを嗜み、1時間ほど居座ると、お客がどんどんきて混み始めた。俺は会計を済ませて店を出た。

 その時だった。

「……ユウジくん」
「……」
「待ってよ。付き合って。お願い」
「無理だから」
「オーナーに言い付けるから」
「は?」
「店に二度と来ないって言ってたって」
「ふざけんなよ!!!」

 俺は店先で思いっきり声を荒げてしまった。すると女は泣き始める。オーナーや他の従業員が飛び出してくる。女はニヤッと笑った。

「どうしたの、スミカちゃん」
「この人に急に怒鳴られて……」
「……お客様、店先で、しかも外に出て従業員を怒鳴るのはやめて頂けませんか」
「違いますよ!!!」
「泣いているじゃないですか!」
「……ッ!」
「オーナー、出禁にしてください」
「……え? お兄さんは出禁にはしないよ??」
「そうですか。これだから若いオーナーは」

 俺だけじゃなく従業員はオーナーの若さまで指摘し始めた。俺はオーナーを守るために自分からこのカフェとの縁を切った。

「二度と来ませんよ。これで満足ですか」
「オーナー。お客様自ら言いましたよ」
「……」

 オーナーは何も言わずに立ち去った。そして俺も急ぎ足でカフェから遠のいた。

 そこから数年間、そのカフェに行くことは無かった。そしてオーナーもジムに来ることもなくなり、会員登録も消されていた。

 完全に縁が切れてしまったなと後悔していた。
 そんな時だった。

「ユウジくん。お客さんからの評判も良くて最高だね」
「オーナー。ありがとうございます」
「そこでなんだけど、僕の2号店をオープンするんだけど、そこの店長としてやっていかない?」
「え、そんな大役宜しいのですか?!」
「もちろん。君の実力は買っているからね!」
「ありがとうございます。是非お願いします!!」

 俺は2号店の店長を任されることになった。数年前なら嬉しいことがあれば日比谷カフェに行っていたが今は別のカフェの常連になり、そこで報告をしていた。

「店長になることが出来まして」
「凄いですねー!」
「ありがとうございます。コーヒーいつも美味しいです」
「ありがとうございますっ!」
「それじゃあ。また来ますね」
「お待ちしております!」 

 楽しいカフェでの会話を終えて家に着く。
 さらに数週間が経った。2号店オープンまでの間評価が落ちないようにいつも以上に真剣に働く。来る客も俺を信頼してくれているのか、文句1つ言わず着いてきてくれていた。

「体重落ちてませんね」
「す、すみません」
「いえ、停滞期は誰にでもありますし、謝ることなんかじゃありません。どう停滞期を乗り越えるか僕と考えて行きましょう!」
「は、はい!!」

 もうひとり担当している女性客は顔が真っ青になっていた。

「あれ、どうしました?」
「ごめんなさい。私今日ちょっと」
「……なるほど。ならやらずにちゃんとお家で休んでください。タクシー呼びますね」
「でも運動しないと」
「今運動しても減るもんも減らなくなりますし、体調悪化しちゃいます。ゆっくり治してからまた来てください」
「ごめんなさい。ありがとう」
「謝らなくていいんですよ」

 チラッと中鼻オーナーが目に移り後ろを振り向くと、にこやかな笑みでグッと親指を立ててくれる。俺はひとつ会釈するとオーナーはルンルンとスキップしながら奥の事務所に向かった。

 色々と仕事を終えた後に、俺は何故か日比谷カフェに着いていた。俺のことを知っている従業員なんて数年間で入れ替わって居ないだろうと思い入る。

「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」
「はい」

 連れていかれたのは以前座っていた席。いつもの定位置に安心感が凄かった。するとものすごい勢いでこちらに向かってくる従業員が居た。

「おにいさんっっっっ!!!」
「うわっ。オーナー?!」
「……よく来てくれたね」
「いや、迷惑なら出ますよ」
「んなわけないじゃんっっ!!」
「……ならいつものいいかな」
「もちろんっ!!」

 オーナーは俺のことを許してくれているのか、快く以前頼んでいたモカコーヒーとティラミスを出してくれた。

「美味しい」
「ありがとうございます」
「……あの飲みずらいのですが」
「お客様、以前は大変申し訳ございませんでした」
「え?」
「私のお店の防犯カメラは集音機能がありまして、確認すると従業員が粗相を働いたようで本当に申し訳ございません」
「……店先で暴れたのは僕が先です。謝るのは僕ですよ」
「……また来てくださって嬉しいです」

 オーナーは泣きながら言っていた。ハンカチを渡すとオーナーはボロ泣きしてしまう。他の従業員に頼みオーナーを奥へ連れて行って貰う。

「……また来よう」

 自分に出来る償いはこの店に通うことだと思い、俺は情けないが再びこの日比谷カフェに舞い戻っていた。

 1時間ほど居座り、お代を払って家に帰る。頭がスッキリしていた。数年分のモヤモヤが晴れていた。

 日比谷カフェに舞い戻ってから、2号店オープンの日が訪れていた。

「店長のユウジと言います。皆さん今日からオープンです。お客様がどれほど来て下さるか分かりませんが、良い接客を心がけ満足して帰っていただけるように致しましょう」
「はい!!」

 従業員たちは1号店の中鼻オーナーの計らいで既存の従業員2名を派遣してくれていた。他の従業員は新たに雇った従業員だったが全員が筋トレインストラクターだった。
 オープンの日、お客様はどんどんと来てくださり嬉しい悲鳴だった。

 全員がインストラクターのおかげで休憩を回しながらお客様の対応をしていくことが出来ていた。夜19時を回った頃、営業を終える。

「お疲れ様でした。忙しかったですね」
「お疲れしたあ。オーナー頑張っていきましょー!」
「ん、そうだね!」
「オーナーお疲れ様でした。私も働きがいあって好きですよ」
「あ、ナツコさんお疲れ様でした」

 ナツコという従業員は中鼻オーナーお墨付きの働き者でカッコイイ女性だった。腹筋もすごくジムに来る女性の大半はナツコさんを目当てに来るほどだった。

 するとナツコさんは帰らずに居座っていた。かと思えばなにか質問があるのか声をかけてくる。

「オーナーって」
「ナツコさん帰らないんですか?」
「質問の途中です!」
「あ、すみません」
「オーナーって彼女居るの?」
「居ませんよ」
「好きな人は?」
「んー、特にですかね」
「なら私狙ってもいい?」
「……はい?」
「……私さ、オーナーが働いてるとこずっと見ててさ。初めて入ったときからね。いいなぁって思ってたんだ」
「……すみません」
「振られちゃったか」
「嬉しいんすけどね。今は彼女とか作る気ないっていうか……」
「そりゃそうだ。でも覚えておいて。私ずっと狙ってるから」

 女性からのストレートな狙います宣言にドキッとしていた。
 ふと脳裏に浮かんだのは日比谷カフェのオーナー。ルイさんだった。なんで浮かんだのかは分からなかった。

「ナツコさん、シャッター降ろしてくれますか」
「もちろん」

 シャッターを降ろし終えて、ナツコさんが帰ったのを確認した後に俺も店全てを戸締りして日比谷カフェに向かった。

「あ、いらっしゃいませー!」
「どうもこんばんは」
「えへへ、おにいさん来てくれて嬉しい」
「あはは。いつものください」
「はーい!」

 モカコーヒーとティラミスが運ばれてくる。いつもの美味しさに満足していると、向かい側にオーナーが座る。

「オーナーさん?」
「えへへ、休憩」
「そうですか」
「おにいさん、なんかあった?」
「え?」
「なーんか雰囲気が」
「バレバレですか?」
「うん」
「いやちょっとね、告白されて」
「え……?」

 オーナーは顔を真っ青にしていた。
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