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ようこそ部活支援部へ!
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「さて、まずは部活の説明からするべきかな」
見事してやられた私は、『部活支援部』とやらに体験入部をする羽目となった。
いやぁ……まさか本当に実行出来るなんて。
「部活支援部……でしたっけ? 名前から推測すると、部活を助ける部……みたいですけど」
「簡単に言ってしまえばそうだな。今多いのは、夏の忙しい運動部の支援。定期的にあるのは文化部ってところだ」
「も、もしかして補欠として参加したりするんですか?!」
「いや、それは基本ない。流石に技量が違いすぎるからな。あくまで備品の補充ぐらいさ。スポーツ飲料やタオル、制汗スプレーとかを練習で時間のない部員に代わって買ったりするのが、主な仕事だ」
「マネージャーだけじゃ手が足りないんですね」
しかし、物分かりの良い返事をしたものの……これってただのパシリなんじゃないかと、ふと思ってしまった。
「もちろん費用は相手が負担する。まあ何というか、慈善事業のようなものさ」
一通り簡単な説明を受けて、一つの疑問が生まれた。
「あの……ちょっと気になったんですけど、ここの部活って部員いるんですか?」
そう、部員である。支援するにしても、それなりの人数がいなくては何もまともに出来ないのでは。
「ああ、もちろんいるさ。生徒会のメンバーもちらほらいるが、将来海外へボランティア活動に行きたいなんて言ってる人もいるぞ。人数は大体十人ぐらいかな」
全然いた。なんなら人間的に立派な人までいた。
「割といますね……正直びっくりしました」
「まあ、この部屋に私しかいなかったわけだしな。少ないと思われていても、おかしくはない」
見抜かれていたようだった。なるほど、黒メガネは伊達ではなかったらしい。
「さて、簡単にこの部活の仕組みが分かった所で、早速活動を始めるとしようか」
「えっ? これからどこかの部を助けに行くんですか?」
「まあそんな所だ。ちょうど十六時半に予定があってね、悪いけど手伝ってもらうよ?」
そういって渡されたのは、一つの段ボール。
「女性に荷物を持たせるという事は気が引けるが……そんなに重くはない。よろしく頼む」
私に説明をしながら、如月先輩自身は二個の段ボールを易々と持ち上げ、行く準備を済ませる。
「これぐらいの重さだったら大丈夫ですよ、たまに四十五キロを抱える時があるので」
大丈夫だという事を伝えながら、私も軽々とその段ボールを持ち上げた。おそらく十キロあるかないかだろう。
ちなみに四十五キロというのは……言わずもがな、姫華の事である。
何故抱えるような事があるのかは、またの機会にでも。
「ほう……それは人間かな?」
「その通りです。色々ありまして」
「ふふ、そこは詮索しないでおくとしよう」
他愛のない会話を交えながら、私は如月先輩と共にグラウンドへと向かった。
相変わらずの掛け声の喧騒。主に野球部やサッカー部らの方から聞こえてくる。
そんな中、私達がその段ボールを持って行った所は、何と陸上部の所だった。
グラウンドからすぐ近くの所にあるプレハブの前に来ると、一人の部員がこちらに気付いてくれた。
「あっ! いつもありがとうございます! 今日は……ってああ! 美紀ー!」
「って、誰かと思えば藍じゃん! 何でこんな所に!」
部員自体をあまり気にしていなかったので、正直かなり驚いた。まさか知り合いに会うなんて。
「いやいや、私陸上部だし! むしろ美紀こそ何でこんな所に如月先輩と? しかも荷物を一緒に持ってここにいるなんて!」
……ごもっともだった。そういえば前に、陸上部に入ってると言っていたような気がする。
しかし、流石に友達とはいえ、補習の半不正行為を言っていいものか……。
「ああ、彼女が困っていた私を助けてくれると言ってね……お言葉に甘えさせてもらっているんだよ」
まさかの如月先輩のフォローに、思わず口をポカンと開けながら驚く私。
「優しいね美紀! いやぁ……人間の鑑! うん! 友達として誇らしいなぁ」
凄くベタ褒めされてしまった。心が痛む、実は補習サボリの代償なんですーなんていったら。
「い、いやあそれほどでもーハハハ……」
ダメだった、本心は言えなかった。言えるはずもなかった。いや、言わなくてよかったんだきっと、そうだそうに違いない。
半ば自分をそう言い聞かせ、罪悪感を心から追いやった。
「部活の時間を奪うのも可哀想だからね、早速だけど部室の扉を開けてもらっても良いかな?」
「そんなこちらこそ申し訳ないです! わざわざ持ってきていただいて……」
そう言いながらプレハブの扉を開け、藍が答える。
「大会が近いんだろう。少しの時間も大事なんだから、こういう事は私達に任せて、練習に励むべきさ」
荷物を渡しながら、如月先輩と藍がそんな会話のやりとりをしていた。
やがて、荷物を全て渡し終え、藍はお礼を言うと、足早に練習へ戻っていった。
ちょうど八月に地区大会があり、そこで勝てると十二月の県大会に出場出来るという、重要な大会らしい。
そんな中、陸上部はマネージャーがおらず、全員が選手として大会を目指し練習している為、部活支援部に要請があったのだという。
「普段は、マネージャー的活動は下級生がやる様なんだがな。大会が近い時にそんな事までやらされてちゃ、満足いく結果も掴めやしないだろう? そういう時、私達が支援してあげる事で、下級生もしっかり練習が出来、部活に打ち込める。案外大事な部活なんだ、ここは」
如月先輩の言葉と、実際に今日体験をしたことで、最初のパシリだとかいう考えはどこかに消えていた。
本当はそんなものではなく、大事な大会へ向けて頑張っている部活や、人手の足りない部活に対して助けてあげたいという純粋な気持ちと、それに感謝をしてくれる人たちがいるという事。
雑用ばかりやらされて、辞めていく下級生もいない。この部活が行っている事は、非常に大きな意味があると私には感じられた。
「私、少し勘違いしていました。人に感謝されるって……良いですね、凄く」
私は本心から、そう呟いた。如月先輩は、どこか嬉しそうだ。
「ああ、悪くないだろう? こういうのも、さ」
落ちていく夕日を背に、私達は部室へと帰っていった。
結局その日は、あの後書類を少し片づけたぐらいで、部活は終わった。
如月先輩に買ってもらったコーラを飲みながら、私はいちょう並木道を一人歩いていた。
「一時は後悔したけど……何か良い気持ち。ああいうのも、悪くないかも」
あまり、人を助けるなんて経験は少ない。だからなのかもしれないが、人に感謝される事が凄く嬉しい事と思えた。
「私も何だかんだで、姫華としかほとんど一緒にいなかったし。そういうのが無かったから、余計新鮮なのかも」
人を助ける、偽善だなんていう人も居るかもしれないけど、それは違う。
あの光景を見た後なら、はっきりそう思える。
たった一回体験しただけで、感化されちゃって。と、姫華に言われちゃうかもしれないけど。
姫華は、何よりも偽善や嘘には敏感で、嫌いだから。
「また明日も体験入部、か。案外追試も悪くなかったかも、なーんて……ね」
ほんのちょっとだけ、追試も悪くないと思えた私だった。
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