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許斐家で試験勉強 前編【挿絵付】
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翌日―自宅 居間
ちょうど勉強会が明日となった金曜日の夜。私は未だにその事を義母に言えずにいた。
元々会話も少なかったのに、あんな事件があって余計に話しかけづらくなっていたからだ。
居間で静かにテレビを見ている義母の背中を、ただ扉の外から見つめている私。
は、話しかけられない……。物凄く距離の遠さを感じるレベルよこれは。
そんなこんなでもたついていたら、義母が私の気配を察した。
「あら、どうしたの姫華? そんな所で……」
不思議そうな顔で私にそう問いかける義母。それもそうだろう、何せずっと部屋に入らず、ただ覗いていたのだから。
「え、えっと……その、明日なんだけど」
「――あ、お友達でもくるのかしら? あっ、そういう事ね分かったわ。明日はお出かけしてくればいいのね」
突然察知したように、義母が何やら謎な発言をした数秒後――すぐに私は意味を理解した。
「な、何か誤解をしているわ!! 別にやましい事なんて何もなければ、してもいないわ! ただ友達が遊びに来るだけよ!」
そう一方的に捲くし立ててみるも、あまり効果は見られない。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのよ姫華、私は全然そういうのには反対じゃないからね?」
いや全力で反対して欲しい。例え義理とはいえ……娘が変態で、さらに女の子が好きなのはいかがなものか。
「待って本当に、そういうのじゃないんだってば」
「強情ねぇ姫華も……別に女の子を好きになっても良いじゃない、おかしくなんてないのよ?」
た、確かにそれはそうなんだけど……。
「……子孫を繁栄させるためにも、人間は異性を好きになるべきとは思うんだけど?」
「……え? もしかして、姫華にはそそそその、彼氏とか……い、居るの?」
頬を赤く染め、凄く動揺をしながら、切羽詰まった表情で問いかけてくる義母。
「い、いやそうじゃ……ないけれど……」
「はぁ良かった……もしどこの馬の骨とも知らない男が、姫華をたぶらかしていたら私……何をするかわからなかったわ……」
怖い怖い……目が笑ってない、間違いなく本気で何かしでかす人の目をしていた……。いや、大切にしてくれるのは良い事だけど。
「当分は心配しなくて大丈夫よ、私は恋人を作る気なんてさらさらないもの」
「そうよね、美紀ちゃんが居るものね! 愛しの美紀ちゃんを裏切るわけにはいかないものね!」
凄い目がキラキラしていた。もはや嬉しそうだった。こんな嬉々とした義母を初めて見た気がしたレベルだ。
そこで私は理解した、きっとこの人は百合が好きなんだろう……と。
というか男は駄目だけど、女の恋人はアリなんだ……何とも複雑な気持ちねこれ。
まあでも、美紀なら…………なんて。
「はぁ……もういいわ、とりあえず明日二人友達来るから。変な事言わないでね」
二人という言葉に反応した義母の、黄色い声が飛び交う中、私は何も聞かなかった事にして自分の部屋に戻る。
もう、面倒臭くなってきた。別にいいわ、百合でもなんでも……いっそ獣もアリなんて思われてくれた方が清々しいわね。
自室に戻り、改めて我に返る。
「これは……明日終わったかもしれないわ、色んな意味で……」
そして迎えた勉強会の日、ちょうどお昼頃、藍と美紀が自宅前に到着する。
「綺麗な一軒家ー! いいなぁ、姫華のお家!」
ドアを開け、挨拶を終えた後に出てきた藍の台詞がそれだった。どことなく目が輝いている。
「いや、普通じゃないかしら? まあ、とりあえずあがって頂戴」
「やっほーお邪魔しまーす!」
快活な挨拶をしながら藍と共に入る美紀。
家に招くや否や、居間の方から顔を出してこちらを伺ってる義母を発見する。
アイドルを目の前でみて興奮してるファンの人達みたいな……そんな感じの顔をしていた。
「あ、こんにちは……!」
義母を見つけた藍がすぐさま挨拶をした。すると義母が嬉しそうにこちらへ来る。
「うふふ、こんにちは。美紀ちゃんと……あなたは初めましての子ね? どうも姫華の母、|彩華と申します」
うやうやしくそんな挨拶をする義母。よく見たら、服装もどっから引っ張り出してきたのか、本気の装いだ。
「あ、は、初めまして! 藤乃 藍です!」
「あらあら……そんなかしこまらなくていいのよーふふっ。今日はゆっくりしていってちょうだいね? お風呂、しっかり沸かしておくわね!」
「は、はぁ……お風呂……?」
当然の如く藍の頭の上には疑問符が浮かんだ。無理もない、常人なら誰だってそうなる。
「相変わらずだね、姫華のお義母さん……」
半ば呆れた様子の美紀。そしてすぐさま義母を睨む私。それに気づき、さっと扉を閉め逃げる義母。
「――何でもないわ、余程お風呂に入りたい年頃なのよ、きっと」
「そ、そうなんだ……よくわからないけどまあいいか……」
このままここに居たら危険と判断した私は、急かす様に二階の自室に案内した。
「ふぅ……さ、とりあえず本来の予定である勉強をやりましょう」
大きな丸テーブルの上に勉強道具を広げ、早速準備をする。
「何かもう姫華が疲れてるみたいだけど、そこは気にしたら負けなのかな?」
「うん、負けだね。姫華も大変なんだよきっと」
藍の疑問に、すかさず美紀のフォローが入る。流石美紀、感謝するわ。
「とりあえず各自勉強って事で、分からなかったら聞き合いましょう」
私の意見に二人は納得し、やがて勉強に取りかかった。
ちょうど勉強会が明日となった金曜日の夜。私は未だにその事を義母に言えずにいた。
元々会話も少なかったのに、あんな事件があって余計に話しかけづらくなっていたからだ。
居間で静かにテレビを見ている義母の背中を、ただ扉の外から見つめている私。
は、話しかけられない……。物凄く距離の遠さを感じるレベルよこれは。
そんなこんなでもたついていたら、義母が私の気配を察した。
「あら、どうしたの姫華? そんな所で……」
不思議そうな顔で私にそう問いかける義母。それもそうだろう、何せずっと部屋に入らず、ただ覗いていたのだから。
「え、えっと……その、明日なんだけど」
「――あ、お友達でもくるのかしら? あっ、そういう事ね分かったわ。明日はお出かけしてくればいいのね」
突然察知したように、義母が何やら謎な発言をした数秒後――すぐに私は意味を理解した。
「な、何か誤解をしているわ!! 別にやましい事なんて何もなければ、してもいないわ! ただ友達が遊びに来るだけよ!」
そう一方的に捲くし立ててみるも、あまり効果は見られない。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのよ姫華、私は全然そういうのには反対じゃないからね?」
いや全力で反対して欲しい。例え義理とはいえ……娘が変態で、さらに女の子が好きなのはいかがなものか。
「待って本当に、そういうのじゃないんだってば」
「強情ねぇ姫華も……別に女の子を好きになっても良いじゃない、おかしくなんてないのよ?」
た、確かにそれはそうなんだけど……。
「……子孫を繁栄させるためにも、人間は異性を好きになるべきとは思うんだけど?」
「……え? もしかして、姫華にはそそそその、彼氏とか……い、居るの?」
頬を赤く染め、凄く動揺をしながら、切羽詰まった表情で問いかけてくる義母。
「い、いやそうじゃ……ないけれど……」
「はぁ良かった……もしどこの馬の骨とも知らない男が、姫華をたぶらかしていたら私……何をするかわからなかったわ……」
怖い怖い……目が笑ってない、間違いなく本気で何かしでかす人の目をしていた……。いや、大切にしてくれるのは良い事だけど。
「当分は心配しなくて大丈夫よ、私は恋人を作る気なんてさらさらないもの」
「そうよね、美紀ちゃんが居るものね! 愛しの美紀ちゃんを裏切るわけにはいかないものね!」
凄い目がキラキラしていた。もはや嬉しそうだった。こんな嬉々とした義母を初めて見た気がしたレベルだ。
そこで私は理解した、きっとこの人は百合が好きなんだろう……と。
というか男は駄目だけど、女の恋人はアリなんだ……何とも複雑な気持ちねこれ。
まあでも、美紀なら…………なんて。
「はぁ……もういいわ、とりあえず明日二人友達来るから。変な事言わないでね」
二人という言葉に反応した義母の、黄色い声が飛び交う中、私は何も聞かなかった事にして自分の部屋に戻る。
もう、面倒臭くなってきた。別にいいわ、百合でもなんでも……いっそ獣もアリなんて思われてくれた方が清々しいわね。
自室に戻り、改めて我に返る。
「これは……明日終わったかもしれないわ、色んな意味で……」
そして迎えた勉強会の日、ちょうどお昼頃、藍と美紀が自宅前に到着する。
「綺麗な一軒家ー! いいなぁ、姫華のお家!」
ドアを開け、挨拶を終えた後に出てきた藍の台詞がそれだった。どことなく目が輝いている。
「いや、普通じゃないかしら? まあ、とりあえずあがって頂戴」
「やっほーお邪魔しまーす!」
快活な挨拶をしながら藍と共に入る美紀。
家に招くや否や、居間の方から顔を出してこちらを伺ってる義母を発見する。
アイドルを目の前でみて興奮してるファンの人達みたいな……そんな感じの顔をしていた。
「あ、こんにちは……!」
義母を見つけた藍がすぐさま挨拶をした。すると義母が嬉しそうにこちらへ来る。
「うふふ、こんにちは。美紀ちゃんと……あなたは初めましての子ね? どうも姫華の母、|彩華と申します」
うやうやしくそんな挨拶をする義母。よく見たら、服装もどっから引っ張り出してきたのか、本気の装いだ。
「あ、は、初めまして! 藤乃 藍です!」
「あらあら……そんなかしこまらなくていいのよーふふっ。今日はゆっくりしていってちょうだいね? お風呂、しっかり沸かしておくわね!」
「は、はぁ……お風呂……?」
当然の如く藍の頭の上には疑問符が浮かんだ。無理もない、常人なら誰だってそうなる。
「相変わらずだね、姫華のお義母さん……」
半ば呆れた様子の美紀。そしてすぐさま義母を睨む私。それに気づき、さっと扉を閉め逃げる義母。
「――何でもないわ、余程お風呂に入りたい年頃なのよ、きっと」
「そ、そうなんだ……よくわからないけどまあいいか……」
このままここに居たら危険と判断した私は、急かす様に二階の自室に案内した。
「ふぅ……さ、とりあえず本来の予定である勉強をやりましょう」
大きな丸テーブルの上に勉強道具を広げ、早速準備をする。
「何かもう姫華が疲れてるみたいだけど、そこは気にしたら負けなのかな?」
「うん、負けだね。姫華も大変なんだよきっと」
藍の疑問に、すかさず美紀のフォローが入る。流石美紀、感謝するわ。
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