上 下
18 / 29
8.鈴蘭のひみつ

1

しおりを挟む
 翌日の教室で鈴蘭に話しかけてみようとしていたけど、きっかけがつかめずになかなか話しかけられなかった。
 だってさ……「お話しようよ!」とかいうのもアヤシイし。「なにか悩みある?」って聞くのもヤバいし。
 どうやって話していいかわかんなくなってしまったの。
 こういうとき、スマートにスムーズに話しかけられる人だったらなぁ……。
 悩んでいるうちに、もうお昼休み。
 給食を食べたら話しかけるんだ! と心に決めて、パンを牛乳で流し込む。
 配膳台を配膳室に返却し、意を決して教室に戻ると……鈴蘭をおしゃべりするどころではなくなっていた。
 教室が、なにやら騒然としていたから。
「なに、どうしたの?」
「あ、委員長……」
 クラスの子たちが、なんと言っていいか分からない様子で立ち尽くしていた。ざわざわと話し声はするけれど、はっきりとはなにを話しているか聞こえない。遠巻きに、教室の中心を見つめている。
 あたしは教室の中央に進み出る。
 鈴蘭が、床に視線を落として立っていた。
 今にも消えてしまいそうなほど、頼りなげな雰囲気で。
 足元に目を移してみると、フタの開かれたランドセルと……クマのぬいぐるみが床に投げ出されていた。
 白い毛並みのぬいぐるみは、あむちゃんよりも小さく手のひらに収まる大きさだった。
「ぬいぐるみ……」
 かわいいぬいぐるみを見て、おもわず声がもれた。
 どうして、教室にクマのぬいぐるみが?
 鈴蘭も、ぬいぐるみが大好きな子なの?
 鈴蘭に視線を向ける。顔を真っ赤にして、涙ぐんだ顔をしていて、どこか恨みのこもった目であたしを見つめた。
「どうしたの鈴蘭、何があったの……」
 鈴蘭は、目の前にいた男子——いつも鈴蘭にちょっかいをかける野澤にゆっくりと視線を向け、にらみつけた。
 にらまれた野澤は、おもいっきり首を振った。
「わざとじゃないんだ。鈴蘭ちゃんがランドセルの中をごそごそいじってたから、なに入ってるのーって気になって……それだけだよ」
 鈴蘭は、野澤が言い訳を言い終える前にランドセルの中にクマのぬいぐるみを入れて、それを持って走って廊下に出てしまった。
「鈴蘭……!」
 悪気があったわけじゃなさそうだけど、鈴蘭の反応を見るにぬいぐるみは『ぜったいに見られたくないもの』だったと分かる。
「野澤! 人のものをしつこく見ようとしたらだめでしょ!」
 あたしは野澤をしかりつけるけど、悪びれた様子もなく自分の席に戻ってしまった。なんで鈴蘭が怒って教室を飛び出してしまったか、理解できてないんだろう。
 どうして、人の悲しみもわからないヤツに鈴蘭が傷つけられなきゃいけないの?
 あたしはどうしようもなく腹が立ったけどどうにか気持ちを落ち着け、状況を見ていた女子たちに事情を聞くことにした。
 野澤が鈴蘭のランドセルの中を強引に見ようとして、拒否されて、ランドセルの取り合いになって、教室の真ん中にクマのぬいぐるみとランドセルが飛んで行った……らしい。
「べつに、ぬいぐるみくらいいいのにね~」
「私も、ランドセルにいっぱいマスコットつけてるし」
「ねー。ウチの高校生のお姉ちゃんの部屋もぬいぐるみだらけだよ。たまにひとりでしゃべってるし」
「ぬいぐるみが理由じゃないんじゃない?」
 女子たちもまた、なぜ鈴蘭が怒っていたのか理解していない様子だった。
 ぬいぐるみを好きで学校に持ってきていても、気にされてないってことなのかな……?
 てか、みんな家にぬいぐるみいるの? しゃべってもいいの? 小六でも好きでいていいの?
 みんなの話を聞いて、あたし自身少し気が抜けちゃった。
 今日もくらげのマスコットのクララは、ランドセルの中に入れられていて、誰の目にも触れないようにしていたけど、気にしなくてよかったの?
 「小六になってもぬいぐるみが好きなんてヘン!」っていう呪いをかけていたのは、自分だけ?
 でも、誰が何と言おうと「隠したい、秘密にしたい」っていう気持ちも否定していいわけじゃないだろうし……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...