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8.鈴蘭のひみつ
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翌日の教室で鈴蘭に話しかけてみようとしていたけど、きっかけがつかめずになかなか話しかけられなかった。
だってさ……「お話しようよ!」とかいうのもアヤシイし。「なにか悩みある?」って聞くのもヤバいし。
どうやって話していいかわかんなくなってしまったの。
こういうとき、スマートにスムーズに話しかけられる人だったらなぁ……。
悩んでいるうちに、もうお昼休み。
給食を食べたら話しかけるんだ! と心に決めて、パンを牛乳で流し込む。
配膳台を配膳室に返却し、意を決して教室に戻ると……鈴蘭をおしゃべりするどころではなくなっていた。
教室が、なにやら騒然としていたから。
「なに、どうしたの?」
「あ、委員長……」
クラスの子たちが、なんと言っていいか分からない様子で立ち尽くしていた。ざわざわと話し声はするけれど、はっきりとはなにを話しているか聞こえない。遠巻きに、教室の中心を見つめている。
あたしは教室の中央に進み出る。
鈴蘭が、床に視線を落として立っていた。
今にも消えてしまいそうなほど、頼りなげな雰囲気で。
足元に目を移してみると、フタの開かれたランドセルと……クマのぬいぐるみが床に投げ出されていた。
白い毛並みのぬいぐるみは、あむちゃんよりも小さく手のひらに収まる大きさだった。
「ぬいぐるみ……」
かわいいぬいぐるみを見て、おもわず声がもれた。
どうして、教室にクマのぬいぐるみが?
鈴蘭も、ぬいぐるみが大好きな子なの?
鈴蘭に視線を向ける。顔を真っ赤にして、涙ぐんだ顔をしていて、どこか恨みのこもった目であたしを見つめた。
「どうしたの鈴蘭、何があったの……」
鈴蘭は、目の前にいた男子——いつも鈴蘭にちょっかいをかける野澤にゆっくりと視線を向け、にらみつけた。
にらまれた野澤は、おもいっきり首を振った。
「わざとじゃないんだ。鈴蘭ちゃんがランドセルの中をごそごそいじってたから、なに入ってるのーって気になって……それだけだよ」
鈴蘭は、野澤が言い訳を言い終える前にランドセルの中にクマのぬいぐるみを入れて、それを持って走って廊下に出てしまった。
「鈴蘭……!」
悪気があったわけじゃなさそうだけど、鈴蘭の反応を見るにぬいぐるみは『ぜったいに見られたくないもの』だったと分かる。
「野澤! 人のものをしつこく見ようとしたらだめでしょ!」
あたしは野澤をしかりつけるけど、悪びれた様子もなく自分の席に戻ってしまった。なんで鈴蘭が怒って教室を飛び出してしまったか、理解できてないんだろう。
どうして、人の悲しみもわからないヤツに鈴蘭が傷つけられなきゃいけないの?
あたしはどうしようもなく腹が立ったけどどうにか気持ちを落ち着け、状況を見ていた女子たちに事情を聞くことにした。
野澤が鈴蘭のランドセルの中を強引に見ようとして、拒否されて、ランドセルの取り合いになって、教室の真ん中にクマのぬいぐるみとランドセルが飛んで行った……らしい。
「べつに、ぬいぐるみくらいいいのにね~」
「私も、ランドセルにいっぱいマスコットつけてるし」
「ねー。ウチの高校生のお姉ちゃんの部屋もぬいぐるみだらけだよ。たまにひとりでしゃべってるし」
「ぬいぐるみが理由じゃないんじゃない?」
女子たちもまた、なぜ鈴蘭が怒っていたのか理解していない様子だった。
ぬいぐるみを好きで学校に持ってきていても、気にされてないってことなのかな……?
てか、みんな家にぬいぐるみいるの? しゃべってもいいの? 小六でも好きでいていいの?
みんなの話を聞いて、あたし自身少し気が抜けちゃった。
今日もくらげのマスコットのクララは、ランドセルの中に入れられていて、誰の目にも触れないようにしていたけど、気にしなくてよかったの?
「小六になってもぬいぐるみが好きなんてヘン!」っていう呪いをかけていたのは、自分だけ?
でも、誰が何と言おうと「隠したい、秘密にしたい」っていう気持ちも否定していいわけじゃないだろうし……。
だってさ……「お話しようよ!」とかいうのもアヤシイし。「なにか悩みある?」って聞くのもヤバいし。
どうやって話していいかわかんなくなってしまったの。
こういうとき、スマートにスムーズに話しかけられる人だったらなぁ……。
悩んでいるうちに、もうお昼休み。
給食を食べたら話しかけるんだ! と心に決めて、パンを牛乳で流し込む。
配膳台を配膳室に返却し、意を決して教室に戻ると……鈴蘭をおしゃべりするどころではなくなっていた。
教室が、なにやら騒然としていたから。
「なに、どうしたの?」
「あ、委員長……」
クラスの子たちが、なんと言っていいか分からない様子で立ち尽くしていた。ざわざわと話し声はするけれど、はっきりとはなにを話しているか聞こえない。遠巻きに、教室の中心を見つめている。
あたしは教室の中央に進み出る。
鈴蘭が、床に視線を落として立っていた。
今にも消えてしまいそうなほど、頼りなげな雰囲気で。
足元に目を移してみると、フタの開かれたランドセルと……クマのぬいぐるみが床に投げ出されていた。
白い毛並みのぬいぐるみは、あむちゃんよりも小さく手のひらに収まる大きさだった。
「ぬいぐるみ……」
かわいいぬいぐるみを見て、おもわず声がもれた。
どうして、教室にクマのぬいぐるみが?
鈴蘭も、ぬいぐるみが大好きな子なの?
鈴蘭に視線を向ける。顔を真っ赤にして、涙ぐんだ顔をしていて、どこか恨みのこもった目であたしを見つめた。
「どうしたの鈴蘭、何があったの……」
鈴蘭は、目の前にいた男子——いつも鈴蘭にちょっかいをかける野澤にゆっくりと視線を向け、にらみつけた。
にらまれた野澤は、おもいっきり首を振った。
「わざとじゃないんだ。鈴蘭ちゃんがランドセルの中をごそごそいじってたから、なに入ってるのーって気になって……それだけだよ」
鈴蘭は、野澤が言い訳を言い終える前にランドセルの中にクマのぬいぐるみを入れて、それを持って走って廊下に出てしまった。
「鈴蘭……!」
悪気があったわけじゃなさそうだけど、鈴蘭の反応を見るにぬいぐるみは『ぜったいに見られたくないもの』だったと分かる。
「野澤! 人のものをしつこく見ようとしたらだめでしょ!」
あたしは野澤をしかりつけるけど、悪びれた様子もなく自分の席に戻ってしまった。なんで鈴蘭が怒って教室を飛び出してしまったか、理解できてないんだろう。
どうして、人の悲しみもわからないヤツに鈴蘭が傷つけられなきゃいけないの?
あたしはどうしようもなく腹が立ったけどどうにか気持ちを落ち着け、状況を見ていた女子たちに事情を聞くことにした。
野澤が鈴蘭のランドセルの中を強引に見ようとして、拒否されて、ランドセルの取り合いになって、教室の真ん中にクマのぬいぐるみとランドセルが飛んで行った……らしい。
「べつに、ぬいぐるみくらいいいのにね~」
「私も、ランドセルにいっぱいマスコットつけてるし」
「ねー。ウチの高校生のお姉ちゃんの部屋もぬいぐるみだらけだよ。たまにひとりでしゃべってるし」
「ぬいぐるみが理由じゃないんじゃない?」
女子たちもまた、なぜ鈴蘭が怒っていたのか理解していない様子だった。
ぬいぐるみを好きで学校に持ってきていても、気にされてないってことなのかな……?
てか、みんな家にぬいぐるみいるの? しゃべってもいいの? 小六でも好きでいていいの?
みんなの話を聞いて、あたし自身少し気が抜けちゃった。
今日もくらげのマスコットのクララは、ランドセルの中に入れられていて、誰の目にも触れないようにしていたけど、気にしなくてよかったの?
「小六になってもぬいぐるみが好きなんてヘン!」っていう呪いをかけていたのは、自分だけ?
でも、誰が何と言おうと「隠したい、秘密にしたい」っていう気持ちも否定していいわけじゃないだろうし……。
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