委員長はかわいいものに癒されたい!

花梨

文字の大きさ
上 下
16 / 29
7.目をきらきらさせて語る桐ケ谷

2

しおりを挟む
 桐ケ谷は軽い足取りで、ひょいとショッピングモール内のエスカレーターに乗る。あたしもそれに続いた。
「陽乃葉にとっても、俺が理解者になれてたら嬉しいけど」
 エスカレーターの上の段に立っているから、桐ケ谷はいつもより背が大きく見えてしまい、けっこうドキドキする。あたし自身、女子の中では背が高い方だし、見降ろされることに慣れてないっていうのもある。
「陽乃葉?」
 いけない、黙ってしまっていた!
「え? あ、理解者ね。なってくれてるよ! うん!」
 やだもー、いつもの調子が出ない! はずかしい!
 エスカレーターを何度も乗り継ぎ、ようやく五階の手芸用品のお店まで来た。とにかく広いショッピングモールは、賑わいを見せていた。
「お、ついた。こっちこっち」
 フロアを歩くと、広大なエリアの手芸用品店が現れた。
 出入りしているお客さんは、中高年の女性が多いみたい。その次に若い女性や、あたしたちより小さい子を連れたママさん。女性ばかりで、男性は家族連れのパパが少しいるくらい。男子は桐ケ谷しかいなかった。
「ここ来るの初めて?」
「あ、うん。手芸用品がほしかったら、百均に行っちゃうから」
「百均は少量で買えるからムダになりにくいのがいいよね。でも、本格的に作るなら手芸用品店が一番」
 桐ケ谷は目的のエリアに向かって歩きながら解説してくれる。
「品揃えの良さは、アイデアに直結するからね。たとえば」
 ふわふわの生地がたくさん置かれたコーナーで、桐ケ谷は立ち止まった。たたまれた色とりどりの布が、ラックに並べられている。桐ケ谷は「ぬいぐるみ・ドール用ファブリック 45cm×30cm」と書いてある紙の巻かれた生地を指さした。茶色で、ふわふわした毛足の布だ。
「このカットクロスにしても、色がたくさんあるでしょ。頭の中では、白とか茶色とか大雑把な選択肢しかないけど、実際見てみると、『茶色』といってもミルクティーみたいな茶色、オレンジっぽい茶色、コーヒー牛乳みたいな茶色……いろいろあるでしょ。こういうのを見てるとどんどんイメージが湧いてくるんだ」
 イキイキとした目をして、カットクロスを見ている。
 茶色以外にも、さまざまな色がモザイク画のように均等に並べられていた。
 たしかに……このコーヒー牛乳みたいな茶色のカットクロスはあむちゃんっぽい。いつもは「茶色のクマ」としか思ってなかったことが恥ずかしい。
「今は、フエルトのマスコットを作っているんだっけ」
 あたしは、五色セットで二百円ほどのフエルトセットを手に取る。百均にも同じようなセットはあるけど、手芸用品店は色のバリエーションが豊富だ。フエルトは飼いやすい値段だけど、ぬいぐるみ用のカットクロスは五百円以上する。たしかに、小学生ともなると少しビビる価格差だ。
「ぬいぐるみ用の毛足の長いカットクロスはフエルトにくらべて扱いも難しいし、失敗したら……って思うとなかなかね。でも、挑戦してみるつもり」
 桐ケ谷はやる気満々の様子でカットクロスを見ていた。
 ぬいぐるみ用のカットクロスは、手で触れるとほわほわ柔らかくてあたたかい。触っているだけで癒される。
 あむちゃんの毛並みは、長年愛用してきたからだいぶヘタってきている。それはそれで愛着が増してかわいいけど、新しい布の手触りもすごく良い!
「陽乃葉、それ気に入った?」
 桐ケ谷はあたしがずーっと撫でていた一枚のカットクロスを見る。
「えっと……手触りがいいなって」
 ふわふわで、ミルクティー色のカットクロス。あむちゃんよりも淡い色合いだ。
 桐ケ谷はあたしが手にしているカットクロスをひょいと手に取り、価格やサイズを見てから手にしていたカゴに入れた。
「最初のクマのぬいぐるみはこれで作るよ」
 桐ケ谷が、あたしの気に入ったカットクロスでぬいぐるみを作ると。
「な、なんで?」
 驚いて、理由を尋ねてしまう。
「え、理由を聞く?」
 照れたように、桐ケ谷は頬をかいた。
「聞くでしょ、理由。どうして?」
「……陽乃葉、わざと聞いてる?」
「わざと???」
 桐ケ谷がなにを言っているかわからなくて、あたしはただ首をひねった。
「……まぁいいや。ほかに必要なものを見に行こう!」
 桐ケ谷はスキップでもしかねない動きで、お店の中を移動する。桐ケ谷、すっごくたのしそう。リボンやフエルト、目や鼻に使うパーツなどを見て、頭の中でイメージを膨らませていっているのかな。
 でも、それだけじゃなかった。
「陽乃葉の好きな色はどれ?」
「陽乃葉ならどれが好み?」
 めちゃくちゃあたしの好みを聞いてくる。自分で決めるのは難しいのかな?
 広い店内を動き回り、マスコットやクマのぬいぐるみ作りに必要なアイテムを次々にカゴに投入していく。
 手芸用品店での買い物なんて、数十分で終わるでしょって思ってた。でも実際は、二時間以上もかけて選んでいる。お店も広いし、あっちにいったりこっちに行ったりしているうちにけっこう疲れてきた。
「こんなもんかな。会計してくる」
 スマホの時計を見ると、午後一時を過ぎていた。
「買ってくるから待ってて。お昼も食べよう」
 桐ケ谷はレジの行列に並んだ。大混雑している。
 みんな、手芸が好きなんだなぁ。
 あたしはお店のすぐ外の、ショッピングモールの通路にあるベンチに座ることにした。買い物に付き合わされているパパたちが、疲れ切った表情で座っていることに定評があるベンチ。
 ヒマだから、行き交う人たちを眺める。
 これだけいたら、同じクラスの子もいるかも。桐ケ谷といるところを見られたらどうしよう……。からかわれたくないけど、否定することで「桐ケ谷といっしょにいることが恥ずかしい」って、桐ケ谷にまた勘違いさせたくない。
 からかわれても、恥ずかしがらないようにしないと! やましいことなんて何もない!
 ひとり決意を固めていると……同世代の女の子が手芸用品店の中から出てくるのを見つけた。
 顔を見ると、鈴蘭だった。手には手芸用品店のショップ袋を持っていて、隣にはお母さんと思われる女性。楽しそうに会話しながら、エスカレーターに乗って降りていった。
 あたしには気付いていないみたい。
 あのレジの行列にいたんだね。手芸好きだなんて、知らなかったよ。
 鈴蘭、あんな顔で笑うんだ……去年から同じクラスだけど、あんな笑顔見たことない気がする。
 やっぱり、学校は息苦しいんだろうか。
 それから数分たち、桐ケ谷も戻ってきた。
 桐ケ谷は、大きなショップ袋を持っている。
「これだけお金を使ったら、しばらくはにじいろのクレープ食べられないな」
 残念そうな、でも満ち足りた表情で桐ケ谷はいう。
「桐ケ谷、クレープ好きなんだね」
「まぁね」
 桐ケ谷の意外な面が次々見つかる。甘党なんだなぁ。
「お腹すいたし、お昼食べよう! 陽乃葉、ファミレスでいい?」
「もちろん、ドリンクバーでお腹をふくらませよう!」
「そうしよう!」
 おー、と意気込んで、ショッピングモール内のファミレスへ向かった。
 すごい、普通のデートみたいなことしてる。
 でも、その間もずっと鈴蘭の笑顔が頭に残っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

ななちゃんと友達

マキ
児童書・童話
初めての幼稚園の友達のお話

ペンギン・イン・ザ・ライブラリー

深田くれと
児童書・童話
小学生のユイがペンギンとがんばるお話! 図書委員のユイは、見慣れた図書室の奥に黒い塊を見つけた。 それは別の世界を旅しているというジェンツーペンギンだった。 ペンギンが旅をする理由を知り、ユイは不思議なファンタジー世界に足を踏み入れることになる。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

北風くん

こぐまじゅんこ
児童書・童話
さむいさむいふゆになりました。 北風くんは、お友達をさがしています。 お友達、できるかな?

悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~

天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。 ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

処理中です...