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6.みんなの癒しの時間は

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 いつも通りにじいろと家の手伝いをして、ようやく夜になった。つまり、あむちゃんとゆっくりできる時間。
 枕元にいつも置いている、クマのぬいぐるみのあむちゃんを手に取る。
 ふわふわしていて、茶色い毛がかわいくて、中につめてある綿ももちっとした感触で癒される。毎日触れていても飽きないんだ。
「あむちゃーん、桐ケ谷きりがやがデ、デェ……トに行こうって言うんだけど」
 デートっていう言葉が恥ずかしくて、つい言い淀んでしまう。
 あむちゃんは、そんなあたしを心配そうに見つめている。
 ぬいぐるみってすごく不思議。こっちのメンタルによっては心配そうな顔をしたりニコニコ笑顔になったりしているように見える。もちろん、表情は変わってないんだけど、そう見えるんだよ。
 ぬいぐるみは、あたしの心に寄り添ってくれる。ぜったいに否定しないし、世話を望むこともない。あむちゃんの前では、あたしはただの小学生になれる。
 あむちゃんをぎゅっと抱きしめる。むかしは、抱きしめると腕いっぱいになるくらい大きかったのに、今は小さく感じてしまう。ぎゅっとすると壊れてしまいそうでつい力をゆるめた。
 あたしも大人になったのかな。中学生、高校生になっても、ぬいぐるみってかわいがってもいいのかな?
 ちょっと不安な気持ちにもなる。ぬいぐるみって、やっぱり子どものものっていう偏見はあるし。
 でも、桐ケ谷はこれからぬいぐるみ作家になろうとしている。年齢も性別も関係なく。
 かわいいものが好きで、寝る間も惜しんでマスコットを作っていて……。
 その姿はすごく。
「かっこいいな……」
 ぽそりと呟いて、ハッとなる。
「べ、べつに人としてすてきっていうだけで、男の子としてかっこいいってわけじゃないから!」
 つい、あむちゃんに言い訳をしてしまう。
 あむちゃんは当たり前に、茶化すこともせずかわいい顔のまま側にいてくれた。
 ふと、みんなの夜の過ごし方が気になった。小学生なりにいろいろストレスもあるけど、どうやって解消しているんだろう?
 あたしは、桐ケ谷にもらったクラゲのマスコットを手に取る。名前は、クラゲだから「クララ」にした。ランドセルに入れて学校に持って行ったり、あむちゃんのとなりに置いたりしているんだ。
 かわいい物の隣にかわいい物があるって、癒され度が何倍にもなる!
 桐ケ谷にとって、マスコットを作ることが癒しの時間なのかな?
 それとも、寝る間も惜しんで作っているからけっこう大変なのかな?
 ふと、鈴蘭れいらの暗い表情が思い出される。
 ……鈴蘭って、家で何してるんだろう? ちゃんと、癒しの時間はあるのかな?
 最近、鈴蘭のことが気になっちゃうんだよね。
 いろいろ悩んでいるんじゃないか、って。でも、そんな悩みを打ち明けるほど仲良しでもないし。委員長だからってなんでも聞いていいわけでもないし。
 男子にちょっかいを出されているのはあれからも見かける。目に余る行為、とまではいかないけど、「かわいいから」みたいな理由で自由がなさそうに見えてしまうことはある。
 かわいいから、適当に話しかけてもいい。
 かわいいから、じろじろ見つめてもいい。
 かわいいから、からかってもいい。
 ……そんなこと、あるわけないんだけど。
 鈴蘭と、ちょっと雑談くらいはしてもいいかも?
 そういえば、あたしは鈴蘭のことなにも知らない。去年から同じクラスなのにな。
 委員長ではなく、「陽乃葉ひのはちゃん」って言ってくれる数少ない子。やっぱり、ひいきしちゃうよね! 委員長だってただの女の子だもん。
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