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6.みんなの癒しの時間は

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 イベントへの申し込みは、おばあちゃんが町内会の水田さんに聞いてやってくれることになった。参加費も、おばあちゃんが持ってくれることに。助かる~!
 あたしはイベントの日まで、それまでと変わらず過ごすつもり……だったんだけど。
「陽乃葉、こんど手芸屋さん行かない?」
 翌朝、目を輝かせた桐ケ谷が、席に着くなり小さな声で言った。
「手芸屋さん?」
「マスコット作りの材料を買いに」
「……なんであたしが?」
 妙な誘いに、あたしは困惑する。忙しいんだけど。
「にじいろのおばあちゃんに、陽乃葉とデートしてあげてって頼まれたし」
「デ、デートぉ?」
 思わず大きな声を出してしまう。あわてて口をおさえて周囲を見回すけど、先生が来る前の騒がしい教室では誰も気にとめてないみたいで安心。
「デートしてなんて、おばあちゃん頼んでたっけ? 仲良くして、じゃなかったっけ」
「たのしいよ、手芸屋さん」
 あたしの質問には答えず、桐ケ谷がにこにこと答えた。
 笑うと、かわいいんだよなぁ。
「たのしいの? 材料売ってるだけでしょ?」
「いやいや、けっこう癒される空間なんだよね」
 あたしのイメージの手芸屋さんは、大きな布が巻かれて置いてあったり糸や針が並んでいたりで、とくに癒される部分はないように思うんだけど……。
「じゃあ、そういうことで。今週の土曜日ね」
 桐ケ谷は勝手にスケジュールを決めると、机に突っ伏して寝てしまった。
 土曜日か……いつもならにじいろの手伝いか、妹たちの世話をするかで、誰かと遊びに行くことはなかった。遊びに行く相手もいないしね。それが当たり前であたしのすべきことだから、急にお出かけの予定が入るとなると……キンチョーする。
 待って。着る服なくない? ジャージじゃまずいよね。いや、別にいいのか。手芸屋さんにおしゃれして行く人はあんまりいない……よね?
 授業が始まっても、どきどきしてそわそわして落ち着かなかった。
 ただでさえ勉強が苦手なのに、あんまり頭に入ってこない!
 委員長の仕事もあっていつも通り慌ただしいし、休み時間とはいえ自分の時間はないのに、ずっと自分のことと桐ケ谷のことを考えちゃう。
 こういう時間、ここ数年なかったかも……。
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