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5.マスコットは売れた?

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「陽乃葉って、俺と仲良くするのを恥ずかしいと思ってる?」
「え、なんで?」
 昇降口を出てしばらくすると、桐ケ谷はぽつりと口を開いた。
「なんか、人目を気にしているっていうか」
 スネたような、つまらなそうな。
 ぬいぐるみみたいな大きな瞳で、あたしを覗き込んでくる。
 午前中は眠そうで無愛想だったのに、時間が経つにつれちゃんと感情のある男子になる。なんだか別の人と話しているみたいでドキドキしてしまう。
 あたしにとっての桐ケ谷は、いつも隣の席でぼーっとしている人だった。いつも眠そうな目だったから、こんなにぱっちり開いているところを見たことがない。
 無気力状態から、スネてかわいいところを見せるなんて反則だよ。
「それは……桐ケ谷だからとかじゃないよ」
 あたしは、うつむいて自分の指先を見つめた。
「昨日も言ったけどさ。委員会の肩書きに疲れてるって。でも、疲れてはいるけど、失いたくはないの」
 桐ケ谷は、とくに返事をすることはなかった。ただ、あたしの歩くペースにあわせてとなりを歩いてくれている。
「みんなから頼りにされて、真面目にがんばっている自分が好きなの。委員長っていう記号でいいから、あたしのことを認めてほしい。だから……」
 うまく言えなくて、あたしは口ごもる。
 特定のだれかと仲が良い=ひいきしている=委員長にふさわしくない、ってことになると思っていた。
 あたしの考えすぎなのはわかっている。
 でも、最初くらいは委員長としてクラス全体に気を配らないといけないって考えていたの。そうしていたらいつのまにか仲良しグループが出来上がっていて、あたしの入るスキはなくなっていたんだ。
 あたしたちの小学校は、クラス替えを三年生と五年生でおこなう。つまり、今のクラスも担任の先生も、五年生と六年生の二年間固定される。五年生の一学期にうまく立ち回れないと、どうにもならない。
 小四まで仲の良かった子たちが、ほかのクラスになってしまったんだよね。
 この二年、あたしはだれかの友だちにはなれず「委員長」という記号しか残らなかった。
 ほかのクラスの人たちは、委員長をしていても友だち関係を築ける人ばかりだから、問題は「委員長」ではなく「あたし」なんだけどね。じょうずなバランスで自分と付き合えない。
「ま、陽乃葉には陽乃葉の考えがあるだろうし。いいんだけどさみしいなって」
「ご、ごめん……」
「俺だって、マスコットを作っていることは知られたくないし。いくら多様性だのなんだの言う時代でもさ、男子が夜な夜なマスコットを作ってニヤニヤしているっていうのは……ねぇ」
「……そう、だね」
 マスコットを作りながらニヤニヤしてんのか。それは怖いかも。
「桐ケ谷がいつも学校で眠そうなのって、夜中までマスコットを作っているから?」
 あたしの問いかけに、桐ケ谷はにやっと笑って手を頭のうしろにやって。
「そういうこと」
「でも、あたしとテストの点があまり変わらないよね?」
「あ、そうなの?」
 しまった。桐ケ谷はこれまでのあたしのことなんてなんにも興味がない人だから、テストの点なんて見たことなかったのか。あたしはこっそり、見えちゃってたんだけど。
「いや、あたしの方が圧倒的に上です」
「急に学力変えるのやめろよ」
 桐ケ谷が、けらけらと明るい声で笑う。
 たのしいな。
 名前で呼ばれると、委員長でいなきゃっていう気負いをしないですむからかな。すごく楽なんだよね。
 桐ケ谷といられる時間、あたしは「委員長」や「お姉ちゃん」ではなく、「陽乃葉」になれるのかも。
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