5 / 29
4.桐ケ谷の正体は……
1
しおりを挟む
「おばあちゃん、この人桐ケ谷って言って、クラスの人なの。おばあちゃんに用があるって」
桐ケ谷を紹介すると、おばあちゃんは不思議そうに顔をかしげた。
「たまに、買いに来てくれてるけど……どうしたの?」
あたしが知らないうちに、顔を覚えられる程度にはクレープを買いに来ていたらしい。甘党なのか。
「すみません、今日はお願いがあって来ました」
あたしと話すのとは違う、かしこまった口調がみょうに大人っぽくて、少しどきどきした。
「じつは僕、こういうものを作っていまして」
桐ケ谷は、かばんの中から白いきんちゃく袋を取り出す。布ではなく、不織布でできているみたい。その中から、小さなマスコットがいくつか出てきた。どれも手のひらに乗るサイズで、動物をモチーフにした見たことのないキャラクターだった。
桐ケ谷の持ち物から、マスコット?????
あたしの理解が及ばず、桐ケ谷&マスコットのカップリングに言葉が出なかった。
「可能であれば、マスコットをお店で売っていただけないでしょうか」
あたしは、桐ケ谷の手のひらに置かれたマスコットを手に取る。どうやら、ぜんぶフエルトでできているみたい。
やさしい表情のクラゲは、頭のところが淡いみずいろになっていて、かわいい。
まっしろなポメラニアンは、ニコニコ笑顔でみているあたしも笑顔になる。
時計を持った白うさぎは、不思議の国のアリスモチーフかな。
その中で、あたしはかわいいクラゲのマスコットが気に入った。すっごくかわいくて癒される!
ほしいかも……。桐ケ谷に返したくない。
「これ、なんかのキャラクター?」
あたしは、クラゲのマスコットを見せながら聞いてみた。
「いや、俺のオリジナル」
「え、すご! 自分でデザインしたの?」
「そう。イラストを描いて、色合いを考えて、型紙を作って、フェルトを縫ってる」
「ほえ~すごすぎる。桐ケ谷、才能ありすぎじゃない?」
あたしの言葉に、桐ケ谷が目をぱちくりさせて、うつむいた。
「あ、ありがと……」
消え入るような声。もしや、照れてる? 桐ケ谷が?
「桐ケ谷くんのマスコットを、にじいろで売りたいっていうのはどういうこと?」
おばあちゃんも、急な申し出に驚いているみたい。様子を確認するように問いただした。
「自分の作ったものを、だれかに買ってほしくて。でもどこで売ったらいいかわからなくて……。それで、よくいくお店におねがいしてみようかと思ったんです」
小学生が思いついた販売場所が、近所の個人商店ってことか。
「あまりお金がなくて場所代は出せないのですが、売り上げはお店のものにしてもらってかまいません」
売り上げはにじいろのものにしていい……。どうして?
「それじゃあ、桐ケ谷くんの儲けにはならないんじゃないかしら」
おばあちゃんが、あたしと同じ質問をしてくれる。
桐ケ谷は、小さく首を振った。
「いまは修行中の身なので、お金儲けとか考えてません」
「修行中……って、なんの?」
思わずあたしが口をはさむ。桐ケ谷は、はずかしそうに、あたしと目を合わせずに言った。
「俺、将来はマスコットやぬいぐるみの作家になりたくて」
ぬぬぬ、ぬいぐるみぃ~?
まさか、桐ケ谷はぬいぐるみ仲間ってこと?
「あ、そうなんだ~……」
あたしのひみつを知られたくなくて、そっけない返事をしてしまった。
つまり……あたしと同じようにかわいいものに癒されているのかな?
それとも、かわいいマスコットを作るだけでそういうわけではないの?
どっちだろー。聞きたいけど、聞けない!
あたしがもやもやしている間に、桐ケ谷はおばあちゃんに向かってきらきらした目ではっきりと夢を語った。
「今は小学生だからマスコットだけしか作れないけど、将来はテディベアとかオリジナルキャラクターのぬいぐるみも作りたいと思っています。かわいいものが好きなんです」
桐ケ谷は「小学生なのに」「近寄りがたい雰囲気なのに」「男子なのに」一般的には、そう言われる属性なのに、ぬいぐるみが好きで仕事にしたくて、丁寧に売り込みをしている。
「なのに」を全部なくして、桐ケ谷は自分のやりたいことをやっていた。
「……桐ケ谷、めちゃくちゃかっこいいじゃん!」
あたしは、桐ケ谷の背中をバンと叩いた。
いてっと小さな声で言う桐ケ谷をムシして、あたしはおばあちゃんにおねがいする。
「あたしからもおねがい! レジ横に置けばそんなにジャマにならないしさ」
「まぁ、陽乃葉ちゃんがそういうなら……」
おばあちゃんは了承してくれた。
でも……このクラゲが誰かに買われたら、いやかも。
だったら!
「このクラゲちゃん、あたしが買っていい? いくら?」
「え、いいの? 気をつかってる?」
桐ケ谷がおどろいた顔であたしとクラゲを見比べる。
「気なんてつかってないよ。この子の顔に癒されるからほしいだけ」
「うれしい。委員長にあげるよ。今日のお礼に」
ニコっと、桐ケ谷が笑った。
思わず、ドキッとしてしまう。
あ、そうか。いつも眠そうで無愛想なところに隠れていたけど、もしかしてけっこう……かっこいいんだよね。
桐ケ谷を紹介すると、おばあちゃんは不思議そうに顔をかしげた。
「たまに、買いに来てくれてるけど……どうしたの?」
あたしが知らないうちに、顔を覚えられる程度にはクレープを買いに来ていたらしい。甘党なのか。
「すみません、今日はお願いがあって来ました」
あたしと話すのとは違う、かしこまった口調がみょうに大人っぽくて、少しどきどきした。
「じつは僕、こういうものを作っていまして」
桐ケ谷は、かばんの中から白いきんちゃく袋を取り出す。布ではなく、不織布でできているみたい。その中から、小さなマスコットがいくつか出てきた。どれも手のひらに乗るサイズで、動物をモチーフにした見たことのないキャラクターだった。
桐ケ谷の持ち物から、マスコット?????
あたしの理解が及ばず、桐ケ谷&マスコットのカップリングに言葉が出なかった。
「可能であれば、マスコットをお店で売っていただけないでしょうか」
あたしは、桐ケ谷の手のひらに置かれたマスコットを手に取る。どうやら、ぜんぶフエルトでできているみたい。
やさしい表情のクラゲは、頭のところが淡いみずいろになっていて、かわいい。
まっしろなポメラニアンは、ニコニコ笑顔でみているあたしも笑顔になる。
時計を持った白うさぎは、不思議の国のアリスモチーフかな。
その中で、あたしはかわいいクラゲのマスコットが気に入った。すっごくかわいくて癒される!
ほしいかも……。桐ケ谷に返したくない。
「これ、なんかのキャラクター?」
あたしは、クラゲのマスコットを見せながら聞いてみた。
「いや、俺のオリジナル」
「え、すご! 自分でデザインしたの?」
「そう。イラストを描いて、色合いを考えて、型紙を作って、フェルトを縫ってる」
「ほえ~すごすぎる。桐ケ谷、才能ありすぎじゃない?」
あたしの言葉に、桐ケ谷が目をぱちくりさせて、うつむいた。
「あ、ありがと……」
消え入るような声。もしや、照れてる? 桐ケ谷が?
「桐ケ谷くんのマスコットを、にじいろで売りたいっていうのはどういうこと?」
おばあちゃんも、急な申し出に驚いているみたい。様子を確認するように問いただした。
「自分の作ったものを、だれかに買ってほしくて。でもどこで売ったらいいかわからなくて……。それで、よくいくお店におねがいしてみようかと思ったんです」
小学生が思いついた販売場所が、近所の個人商店ってことか。
「あまりお金がなくて場所代は出せないのですが、売り上げはお店のものにしてもらってかまいません」
売り上げはにじいろのものにしていい……。どうして?
「それじゃあ、桐ケ谷くんの儲けにはならないんじゃないかしら」
おばあちゃんが、あたしと同じ質問をしてくれる。
桐ケ谷は、小さく首を振った。
「いまは修行中の身なので、お金儲けとか考えてません」
「修行中……って、なんの?」
思わずあたしが口をはさむ。桐ケ谷は、はずかしそうに、あたしと目を合わせずに言った。
「俺、将来はマスコットやぬいぐるみの作家になりたくて」
ぬぬぬ、ぬいぐるみぃ~?
まさか、桐ケ谷はぬいぐるみ仲間ってこと?
「あ、そうなんだ~……」
あたしのひみつを知られたくなくて、そっけない返事をしてしまった。
つまり……あたしと同じようにかわいいものに癒されているのかな?
それとも、かわいいマスコットを作るだけでそういうわけではないの?
どっちだろー。聞きたいけど、聞けない!
あたしがもやもやしている間に、桐ケ谷はおばあちゃんに向かってきらきらした目ではっきりと夢を語った。
「今は小学生だからマスコットだけしか作れないけど、将来はテディベアとかオリジナルキャラクターのぬいぐるみも作りたいと思っています。かわいいものが好きなんです」
桐ケ谷は「小学生なのに」「近寄りがたい雰囲気なのに」「男子なのに」一般的には、そう言われる属性なのに、ぬいぐるみが好きで仕事にしたくて、丁寧に売り込みをしている。
「なのに」を全部なくして、桐ケ谷は自分のやりたいことをやっていた。
「……桐ケ谷、めちゃくちゃかっこいいじゃん!」
あたしは、桐ケ谷の背中をバンと叩いた。
いてっと小さな声で言う桐ケ谷をムシして、あたしはおばあちゃんにおねがいする。
「あたしからもおねがい! レジ横に置けばそんなにジャマにならないしさ」
「まぁ、陽乃葉ちゃんがそういうなら……」
おばあちゃんは了承してくれた。
でも……このクラゲが誰かに買われたら、いやかも。
だったら!
「このクラゲちゃん、あたしが買っていい? いくら?」
「え、いいの? 気をつかってる?」
桐ケ谷がおどろいた顔であたしとクラゲを見比べる。
「気なんてつかってないよ。この子の顔に癒されるからほしいだけ」
「うれしい。委員長にあげるよ。今日のお礼に」
ニコっと、桐ケ谷が笑った。
思わず、ドキッとしてしまう。
あ、そうか。いつも眠そうで無愛想なところに隠れていたけど、もしかしてけっこう……かっこいいんだよね。
2
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
知ったかぶりのヤマネコと森の落としもの
あしたてレナ
児童書・童話
ある日、森で見つけた落としもの。
動物たちはそれがだれの落としものなのか話し合います。
さまざまな意見が出ましたが、きっとそれはお星さまの落としもの。
知ったかぶりのヤマネコとこわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシが、困難に立ち向かいながら星の元へと落としものをとどける旅に出ます。
全9話。
※初めての児童文学となりますゆえ、温かく見守っていただけましたら幸いです。
コボンとニャンコ
魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。
その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。
放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。
「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」
三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。
そばにはいつも、夜空と暦十二神。
『コボンの愛称以外のなにかを探して……』
眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。
残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。
※縦書き推奨
アルファポリス、ノベルデイズにて掲載
【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23)
【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24)
【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25)
【描写を追加、変更。整えました】(2/26)
筆者の体調を破壊()3/
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~
天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。
ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。
【完結】小さな大冒険
衿乃 光希
絵本
動物の子供たちが、勇気を出して一歩を踏み出す、小さくても大きな冒険物語。主人公は毎回変わります。作者は絵を描けないので、あなたの中でお好きな絵を想像して読んでくださいね。漢字にルビは振っていません。絵本大賞にエントリーしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる