委員長はかわいいものに癒されたい!

花梨

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4.桐ケ谷の正体は……

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「おばあちゃん、この人桐ケ谷って言って、クラスの人なの。おばあちゃんに用があるって」
 桐ケ谷を紹介すると、おばあちゃんは不思議そうに顔をかしげた。
「たまに、買いに来てくれてるけど……どうしたの?」
 あたしが知らないうちに、顔を覚えられる程度にはクレープを買いに来ていたらしい。甘党なのか。
「すみません、今日はお願いがあって来ました」
 あたしと話すのとは違う、かしこまった口調がみょうに大人っぽくて、少しどきどきした。
「じつは僕、こういうものを作っていまして」
 桐ケ谷は、かばんの中から白いきんちゃく袋を取り出す。布ではなく、不織布でできているみたい。その中から、小さなマスコットがいくつか出てきた。どれも手のひらに乗るサイズで、動物をモチーフにした見たことのないキャラクターだった。
 桐ケ谷の持ち物から、マスコット?????
 あたしの理解が及ばず、桐ケ谷&マスコットのカップリングに言葉が出なかった。
「可能であれば、マスコットをお店で売っていただけないでしょうか」
 あたしは、桐ケ谷の手のひらに置かれたマスコットを手に取る。どうやら、ぜんぶフエルトでできているみたい。
 やさしい表情のクラゲは、頭のところが淡いみずいろになっていて、かわいい。
 まっしろなポメラニアンは、ニコニコ笑顔でみているあたしも笑顔になる。
 時計を持った白うさぎは、不思議の国のアリスモチーフかな。
 その中で、あたしはかわいいクラゲのマスコットが気に入った。すっごくかわいくて癒される!
 ほしいかも……。桐ケ谷に返したくない。
「これ、なんかのキャラクター?」
 あたしは、クラゲのマスコットを見せながら聞いてみた。
「いや、俺のオリジナル」
「え、すご! 自分でデザインしたの?」
「そう。イラストを描いて、色合いを考えて、型紙を作って、フェルトを縫ってる」
「ほえ~すごすぎる。桐ケ谷、才能ありすぎじゃない?」
 あたしの言葉に、桐ケ谷が目をぱちくりさせて、うつむいた。
「あ、ありがと……」
 消え入るような声。もしや、照れてる? 桐ケ谷が?
「桐ケ谷くんのマスコットを、にじいろで売りたいっていうのはどういうこと?」
 おばあちゃんも、急な申し出に驚いているみたい。様子を確認するように問いただした。
「自分の作ったものを、だれかに買ってほしくて。でもどこで売ったらいいかわからなくて……。それで、よくいくお店におねがいしてみようかと思ったんです」
 小学生が思いついた販売場所が、近所の個人商店ってことか。
「あまりお金がなくて場所代は出せないのですが、売り上げはお店のものにしてもらってかまいません」
 売り上げはにじいろのものにしていい……。どうして?
「それじゃあ、桐ケ谷くんの儲けにはならないんじゃないかしら」
 おばあちゃんが、あたしと同じ質問をしてくれる。
 桐ケ谷は、小さく首を振った。
「いまは修行中の身なので、お金儲けとか考えてません」
「修行中……って、なんの?」
 思わずあたしが口をはさむ。桐ケ谷は、はずかしそうに、あたしと目を合わせずに言った。
「俺、将来はマスコットやぬいぐるみの作家になりたくて」
 ぬぬぬ、ぬいぐるみぃ~?
 まさか、桐ケ谷はぬいぐるみ仲間ってこと?
「あ、そうなんだ~……」
 あたしのひみつを知られたくなくて、そっけない返事をしてしまった。
 つまり……あたしと同じようにかわいいものに癒されているのかな?
 それとも、かわいいマスコットを作るだけでそういうわけではないの?
 どっちだろー。聞きたいけど、聞けない!
 あたしがもやもやしている間に、桐ケ谷はおばあちゃんに向かってきらきらした目ではっきりと夢を語った。
「今は小学生だからマスコットだけしか作れないけど、将来はテディベアとかオリジナルキャラクターのぬいぐるみも作りたいと思っています。かわいいものが好きなんです」
 桐ケ谷は「小学生なのに」「近寄りがたい雰囲気なのに」「男子なのに」一般的には、そう言われる属性なのに、ぬいぐるみが好きで仕事にしたくて、丁寧に売り込みをしている。
 「なのに」を全部なくして、桐ケ谷は自分のやりたいことをやっていた。
「……桐ケ谷、めちゃくちゃかっこいいじゃん!」
 あたしは、桐ケ谷の背中をバンと叩いた。
 いてっと小さな声で言う桐ケ谷をムシして、あたしはおばあちゃんにおねがいする。
「あたしからもおねがい! レジ横に置けばそんなにジャマにならないしさ」
「まぁ、陽乃葉ちゃんがそういうなら……」
 おばあちゃんは了承してくれた。
 でも……このクラゲが誰かに買われたら、いやかも。
 だったら!
「このクラゲちゃん、あたしが買っていい? いくら?」
「え、いいの? 気をつかってる?」
 桐ケ谷がおどろいた顔であたしとクラゲを見比べる。
「気なんてつかってないよ。この子の顔に癒されるからほしいだけ」
「うれしい。委員長にあげるよ。今日のお礼に」
 ニコっと、桐ケ谷が笑った。
 思わず、ドキッとしてしまう。
 あ、そうか。いつも眠そうで無愛想なところに隠れていたけど、もしかしてけっこう……かっこいいんだよね。
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