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3.にじいろにあらわれたのは
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翌日。今日も学校が終わり次第にじいろに向かう。
でも、雨だからかお客さんはいなかった。
「ただいま」
「おかえり、陽乃葉ちゃん。今日は退屈よ~」
おばあちゃんはキッチンの中のイスに座り、くるくると回転させて遊んでいた。
「そうだ、悪いけど段ボールをあけて棚に入れておいてくれる?」
おばあちゃんは言いながら、ヒザをなでていた。寒い雨の日は痛みが強いんだって。
「わかった。ほかにもやってほしいことがあったら、えんりょなくいってね」
段ボールから、クレープ包装紙が数百枚とでてきた。重い。
「にじいろのクレープ包装紙、かわいいよね。学校のみんなも好きって言ってるよ」
「うれしい。おばあちゃんなのにこんなかわいらしいデザインにするなんて、恥ずかしいかなって思ったんだけどね。やってみてよかった」
やさしいほほ笑みを浮かべながら、手を胸にあててうれしそうに言った。
おばあちゃんはよく「私はおばあちゃんなのに」って言う。
おばあちゃんなのにかわいいものが好きってヘン、おばあちゃんなのにお店をオープンするなんてムリ。
でもあたしは、「おばあちゃんなのに」でやりたいことをあきらめてほしくなくて、お店のオープンも後押ししたんだ。
にじいろは、二年前にオープンした新しいお店。売り上げはギリギリらしいけど、なんとか続けてこれている。
「おばあちゃんなのに」なんて関係ないって、おばあちゃんがあたしに見せてくれたんだよ。
……あたしは、「委員長なのに」「お姉ちゃんなんだから」っていわれても受け入れちゃってて、なにも打開できてないけどね。
ぽつぽつとしかお客さんが来ないから、ヒマな時間はあたしはおばあちゃんに今日の学校での出来事などを話していた。家だと、だれともゆっくり話す時間がないからね。雨の日のにじいろも、あたしにとっては癒しの時間なんだ。おばあちゃんは、あたしのよき理解者だから。
ざぁざぁ降っていた雨も、音がしなくなってきた。
せっかく雨がやんだけれど、もうすぐ閉店の時間……というところで、あたしは立ち上がった。
「出入口の掃除、しておこうかな」
雨の日は泥がはねて、出入口の引き戸が汚れる。飲食店で不潔なところがあるのはよくないから、今日のうちに掃除しておきたかった。
「ありがとね、陽乃葉ちゃん」
「いいってことよ!」
あたしは掃除用具を手に店の外にでた。
雨上がりで、ヒヤッとした空気感に思わず身震いする。四月は、夏みたいに暑い日もあれば、冬みたいに寒い日もある。
泥のはねたガラスを拭いていると、背後から水気を帯びた足音が聞こえてきた。通行人かと思ったけど、こちらに近づいてくる。お客さんかも。
ジャマになってはいけないと、あたしは掃除の手を止めて立ち上がる。
「いらっしゃいませー」
あたしは元気よくあいさつした。それからお客さんの顔を見ると……
「桐ケ谷!?」
「あれ、なんで委員長が」
さいきん、あたしの中で話題の桐ケ谷が、あいかわらず不愛想な雰囲気をまとって立っていた。
「そっか、委員長ってここの……」
あたしがにじいろの孫娘だといまさら気付いたようで、お店とあたしを交互に見ていた。
桐ケ谷、クレープ好きなんだ。
「クレープ、買いにきてくれたんだ。どうぞどうぞ」
あたしは出入口から少し身を離す。でも、桐ケ谷は動かない。
「いや、俺は客じゃないんだけど……」
桐ケ谷はそこまで言って、言葉を切った。そして、沈黙。
「……え、どうしたの? なにか用があったんじゃないの?」
「いや、いい」
桐ケ谷は、くるっとあたしに背を向けて来た道を戻ろうとした。
「待て待て待て」
あたしは、桐ケ谷のジャージの首根っこをぎゅっとひっぱった。
「ちょ、ひっぱんなよ」
めずらしく感情の乗った声で、桐ケ谷は立ち止まる。
「ごめん、なんか気になって」
桐ケ谷がなにをしににじいろに来たのか、まったく想像がつかない。
「おばあちゃんに用があるんでしょ。あたしは話を聞かないよう外にいるから、遠慮しなくていいよ」
あたしの言葉に、桐ケ谷はすぅっと息を吸って、止まった。
「……あ、ありがと」
しかし桐ケ谷はそこから動かず、少し迷うようにお店とあたしを見ていた。それから小さく首を振る。
「いや、どうせバレるから。委員長も聞いてくれていいよ」
「え、いいの!?」
「ただし、クラスのやつらにはぜーったい言うなよ」
桐ケ谷が、すごみを見せて言う。
ガタイがいいから、ちょっとこわい。
でも、委員長をなめないでほしい。桐ケ谷に対して何回も「早く宿題出して!」「え?(不機嫌)」ってやりとりしてきたんだからね! こんなことでは恐れません。
「はいはい、言わないよ。委員長には守秘義務があるからね」
「ないだろそんなの」
あたしたちは軽い口調でやりとりしつつ、桐ケ谷を店の中に押し込んだ。
でも、雨だからかお客さんはいなかった。
「ただいま」
「おかえり、陽乃葉ちゃん。今日は退屈よ~」
おばあちゃんはキッチンの中のイスに座り、くるくると回転させて遊んでいた。
「そうだ、悪いけど段ボールをあけて棚に入れておいてくれる?」
おばあちゃんは言いながら、ヒザをなでていた。寒い雨の日は痛みが強いんだって。
「わかった。ほかにもやってほしいことがあったら、えんりょなくいってね」
段ボールから、クレープ包装紙が数百枚とでてきた。重い。
「にじいろのクレープ包装紙、かわいいよね。学校のみんなも好きって言ってるよ」
「うれしい。おばあちゃんなのにこんなかわいらしいデザインにするなんて、恥ずかしいかなって思ったんだけどね。やってみてよかった」
やさしいほほ笑みを浮かべながら、手を胸にあててうれしそうに言った。
おばあちゃんはよく「私はおばあちゃんなのに」って言う。
おばあちゃんなのにかわいいものが好きってヘン、おばあちゃんなのにお店をオープンするなんてムリ。
でもあたしは、「おばあちゃんなのに」でやりたいことをあきらめてほしくなくて、お店のオープンも後押ししたんだ。
にじいろは、二年前にオープンした新しいお店。売り上げはギリギリらしいけど、なんとか続けてこれている。
「おばあちゃんなのに」なんて関係ないって、おばあちゃんがあたしに見せてくれたんだよ。
……あたしは、「委員長なのに」「お姉ちゃんなんだから」っていわれても受け入れちゃってて、なにも打開できてないけどね。
ぽつぽつとしかお客さんが来ないから、ヒマな時間はあたしはおばあちゃんに今日の学校での出来事などを話していた。家だと、だれともゆっくり話す時間がないからね。雨の日のにじいろも、あたしにとっては癒しの時間なんだ。おばあちゃんは、あたしのよき理解者だから。
ざぁざぁ降っていた雨も、音がしなくなってきた。
せっかく雨がやんだけれど、もうすぐ閉店の時間……というところで、あたしは立ち上がった。
「出入口の掃除、しておこうかな」
雨の日は泥がはねて、出入口の引き戸が汚れる。飲食店で不潔なところがあるのはよくないから、今日のうちに掃除しておきたかった。
「ありがとね、陽乃葉ちゃん」
「いいってことよ!」
あたしは掃除用具を手に店の外にでた。
雨上がりで、ヒヤッとした空気感に思わず身震いする。四月は、夏みたいに暑い日もあれば、冬みたいに寒い日もある。
泥のはねたガラスを拭いていると、背後から水気を帯びた足音が聞こえてきた。通行人かと思ったけど、こちらに近づいてくる。お客さんかも。
ジャマになってはいけないと、あたしは掃除の手を止めて立ち上がる。
「いらっしゃいませー」
あたしは元気よくあいさつした。それからお客さんの顔を見ると……
「桐ケ谷!?」
「あれ、なんで委員長が」
さいきん、あたしの中で話題の桐ケ谷が、あいかわらず不愛想な雰囲気をまとって立っていた。
「そっか、委員長ってここの……」
あたしがにじいろの孫娘だといまさら気付いたようで、お店とあたしを交互に見ていた。
桐ケ谷、クレープ好きなんだ。
「クレープ、買いにきてくれたんだ。どうぞどうぞ」
あたしは出入口から少し身を離す。でも、桐ケ谷は動かない。
「いや、俺は客じゃないんだけど……」
桐ケ谷はそこまで言って、言葉を切った。そして、沈黙。
「……え、どうしたの? なにか用があったんじゃないの?」
「いや、いい」
桐ケ谷は、くるっとあたしに背を向けて来た道を戻ろうとした。
「待て待て待て」
あたしは、桐ケ谷のジャージの首根っこをぎゅっとひっぱった。
「ちょ、ひっぱんなよ」
めずらしく感情の乗った声で、桐ケ谷は立ち止まる。
「ごめん、なんか気になって」
桐ケ谷がなにをしににじいろに来たのか、まったく想像がつかない。
「おばあちゃんに用があるんでしょ。あたしは話を聞かないよう外にいるから、遠慮しなくていいよ」
あたしの言葉に、桐ケ谷はすぅっと息を吸って、止まった。
「……あ、ありがと」
しかし桐ケ谷はそこから動かず、少し迷うようにお店とあたしを見ていた。それから小さく首を振る。
「いや、どうせバレるから。委員長も聞いてくれていいよ」
「え、いいの!?」
「ただし、クラスのやつらにはぜーったい言うなよ」
桐ケ谷が、すごみを見せて言う。
ガタイがいいから、ちょっとこわい。
でも、委員長をなめないでほしい。桐ケ谷に対して何回も「早く宿題出して!」「え?(不機嫌)」ってやりとりしてきたんだからね! こんなことでは恐れません。
「はいはい、言わないよ。委員長には守秘義務があるからね」
「ないだろそんなの」
あたしたちは軽い口調でやりとりしつつ、桐ケ谷を店の中に押し込んだ。
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