委員長はかわいいものに癒されたい!

花梨

文字の大きさ
上 下
4 / 29
3.にじいろにあらわれたのは

1

しおりを挟む
 翌日。今日も学校が終わり次第にじいろに向かう。
 でも、雨だからかお客さんはいなかった。
「ただいま」
「おかえり、陽乃葉ちゃん。今日は退屈よ~」
 おばあちゃんはキッチンの中のイスに座り、くるくると回転させて遊んでいた。
「そうだ、悪いけど段ボールをあけて棚に入れておいてくれる?」
 おばあちゃんは言いながら、ヒザをなでていた。寒い雨の日は痛みが強いんだって。
「わかった。ほかにもやってほしいことがあったら、えんりょなくいってね」
 段ボールから、クレープ包装紙が数百枚とでてきた。重い。
「にじいろのクレープ包装紙、かわいいよね。学校のみんなも好きって言ってるよ」
「うれしい。おばあちゃんなのにこんなかわいらしいデザインにするなんて、恥ずかしいかなって思ったんだけどね。やってみてよかった」
 やさしいほほ笑みを浮かべながら、手を胸にあててうれしそうに言った。
 おばあちゃんはよく「私はおばあちゃんなのに」って言う。
 おばあちゃんなのにかわいいものが好きってヘン、おばあちゃんなのにお店をオープンするなんてムリ。
 でもあたしは、「おばあちゃんなのに」でやりたいことをあきらめてほしくなくて、お店のオープンも後押ししたんだ。
 にじいろは、二年前にオープンした新しいお店。売り上げはギリギリらしいけど、なんとか続けてこれている。
 「おばあちゃんなのに」なんて関係ないって、おばあちゃんがあたしに見せてくれたんだよ。
 ……あたしは、「委員長なのに」「お姉ちゃんなんだから」っていわれても受け入れちゃってて、なにも打開できてないけどね。
 ぽつぽつとしかお客さんが来ないから、ヒマな時間はあたしはおばあちゃんに今日の学校での出来事などを話していた。家だと、だれともゆっくり話す時間がないからね。雨の日のにじいろも、あたしにとっては癒しの時間なんだ。おばあちゃんは、あたしのよき理解者だから。
 ざぁざぁ降っていた雨も、音がしなくなってきた。
 せっかく雨がやんだけれど、もうすぐ閉店の時間……というところで、あたしは立ち上がった。
「出入口の掃除、しておこうかな」
 雨の日は泥がはねて、出入口の引き戸が汚れる。飲食店で不潔なところがあるのはよくないから、今日のうちに掃除しておきたかった。
「ありがとね、陽乃葉ちゃん」
「いいってことよ!」
 あたしは掃除用具を手に店の外にでた。
 雨上がりで、ヒヤッとした空気感に思わず身震いする。四月は、夏みたいに暑い日もあれば、冬みたいに寒い日もある。
 泥のはねたガラスを拭いていると、背後から水気を帯びた足音が聞こえてきた。通行人かと思ったけど、こちらに近づいてくる。お客さんかも。
 ジャマになってはいけないと、あたしは掃除の手を止めて立ち上がる。
「いらっしゃいませー」
 あたしは元気よくあいさつした。それからお客さんの顔を見ると……
「桐ケ谷!?」
「あれ、なんで委員長が」
 さいきん、あたしの中で話題の桐ケ谷が、あいかわらず不愛想な雰囲気をまとって立っていた。
「そっか、委員長ってここの……」
 あたしがにじいろの孫娘だといまさら気付いたようで、お店とあたしを交互に見ていた。
 桐ケ谷、クレープ好きなんだ。
「クレープ、買いにきてくれたんだ。どうぞどうぞ」
 あたしは出入口から少し身を離す。でも、桐ケ谷は動かない。
「いや、俺は客じゃないんだけど……」
 桐ケ谷はそこまで言って、言葉を切った。そして、沈黙。
「……え、どうしたの? なにか用があったんじゃないの?」
「いや、いい」
 桐ケ谷は、くるっとあたしに背を向けて来た道を戻ろうとした。
「待て待て待て」
 あたしは、桐ケ谷のジャージの首根っこをぎゅっとひっぱった。
「ちょ、ひっぱんなよ」
 めずらしく感情の乗った声で、桐ケ谷は立ち止まる。
「ごめん、なんか気になって」
 桐ケ谷がなにをしににじいろに来たのか、まったく想像がつかない。
「おばあちゃんに用があるんでしょ。あたしは話を聞かないよう外にいるから、遠慮しなくていいよ」
 あたしの言葉に、桐ケ谷はすぅっと息を吸って、止まった。
「……あ、ありがと」
 しかし桐ケ谷はそこから動かず、少し迷うようにお店とあたしを見ていた。それから小さく首を振る。
「いや、どうせバレるから。委員長も聞いてくれていいよ」
「え、いいの!?」
「ただし、クラスのやつらにはぜーったい言うなよ」
 桐ケ谷が、すごみを見せて言う。
 ガタイがいいから、ちょっとこわい。
 でも、委員長をなめないでほしい。桐ケ谷に対して何回も「早く宿題出して!」「え?(不機嫌)」ってやりとりしてきたんだからね! こんなことでは恐れません。
「はいはい、言わないよ。委員長には守秘義務があるからね」
「ないだろそんなの」
 あたしたちは軽い口調でやりとりしつつ、桐ケ谷を店の中に押し込んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

突然、お隣さんと暮らすことになりました~実は推しの配信者だったなんて!?~

ミズメ
児童書・童話
 動画配信を視聴するのが大好きな市山ひなは、みんなより背が高すぎることがコンプレックスの小学生。  周りの目を気にしていたひなは、ある日突然お隣さんに預けられることになってしまった。  そこは幼なじみでもある志水蒼太(しみずそうた)くんのおうちだった。  どうやら蒼太くんには秘密があって……!?  身長コンプレックスもちの優しい女の子✖️好きな子の前では背伸びをしたい男の子…を見守る愉快なメンバーで繰り広げるドタバタラブコメ!  

タツキーランド勇者のつるぎ

たっちゃんプラス2
児童書・童話
いつの時平和な平和なタツキーランド王国に魔界の大魔王の侵略の手が伸ばされてきた。この国には、昔から「この国の危機には勇者の血を引く若者が現れ、伝説の剣で平和を護り抜く」という言い伝えがあった。まさに危機が迫り来る中、長く眠っていた勇者の血に目覚めたのは・・・。 これは、「たっちゃん」という話すことが苦手な10歳の少年が、2年かけてつむいできた「語りおろし」の長編冒険ファンタジーです。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

大好きなのにゼッタイ付き合えない

花梨
児童書・童話
中1の波奈は、隣の家に住む社会人の悠真に片思いしていた。でも、悠真には婚約者が!失恋してしまったけれど、友達に「年上の彼氏に会わせてあげる」なんて見栄を張ってしまった。そこで、悠真の弟の中3の楓真に「彼氏のフリをして」とお願いしてしまう。 作戦は無事成功したのだけど……ウソのデートをしたことで、波奈は楓真のことを好きになってしまう。 でも、ウソの彼氏として扱ったことで「本当の彼氏になって」と言えなくなってしまい……『ゼッタイ付き合えない』状況に。 楓真に恋する先輩や友達にウソをつき続けていいの? 波奈は、揺れる恋心と、自分の性格に向き合うことができるのか。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

猫神学園 ~おちこぼれだって猫神様になれる~

景綱
児童書・童話
「お母さん、どこへ行っちゃったの」 ひとりぼっちになってしまった子猫の心寧(ここね)。 そんなときに出会った黒白猫のムムタ。そして、猫神様の園音。 この出会いがきっかけで猫神様になろうと決意する。 心寧は猫神様になるため、猫神学園に入学することに。 そこで出会った先生と生徒たち。 一年いわし組担任・マネキ先生。 生徒は、サバトラ猫の心寧、黒猫のノワール、サビ猫のミヤビ、ロシアンブルーのムサシ、ブチ猫のマル、ラグドールのルナ、キジトラのコマチ、キジ白のサクラ、サバ白のワサビ、茶白のココの十人。 (猫だから十匹というべきだけどここは、十人ということで) はたしてダメダメな心寧は猫神様になることができるのか。 (挿絵もあります!!)

悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~

天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。 ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!

処理中です...