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1.委員長でお姉ちゃん
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「委員長! ごめん提出物忘れた!」
「委員長! 今日塾だから、かわりにコレおねがい!」
「委員長! 先生が呼んでる!」
朝から何回も、委員長って呼ばれては教室や廊下をかけずりまわる。
小学校に入ってから、気が付いたら班長や学級委員長をやるようになって、それは小六になったばかりの今も続いてる。
勉強も運動もそこそこ。容姿もコミュ力もそこそこ。真面目なだけがとりえ。
……真面目って、とりえ? ほめ言葉じゃないと思うんだけどね。
そうは思っていても、委員長をやめたら存在意義がない気がして、今にいたる。
「はあ、疲れた!」
放課後になるころには、いつもくたくた。
呼びつけられていた職員室から急ぎ足で教室に戻る。あたしはさっさと帰らないといけないんだ!
学校は、部活動のない子はほとんど帰宅していてなんだかガランとしている。日中はあんなに騒がしいのにね。
教室に向かっていると、クラスメイトの鈴蘭がほうきを持って廊下を掃除していた。
「お疲れ! 掃除当番?」
「そうなの。陽乃葉ちゃんもお疲れさま。今から帰るの?」
たいして親しいわけじゃないけど、あたしを「委員長」ではなく名前で呼んでくれる数少ない子。顔も整っているけど心も整っている、天の神様にひいきされている子。
「うん、鈴蘭も早く帰りなね」
あたしは嫉妬を隠すよう、笑顔で言った。
ボブの髪はツヤッツヤのキラッキラなまっすぐな黒髪に、くりっとした目と白い肌。羨ましいしかない天使!
ランドセルを取りに教室に入ろうとすると、ちょうど男子とぶつかりそうになる。相手は、お調子者の野澤だ。
天使の鈴蘭に、教室から出てきた野澤が声をかける。
「鈴蘭ちゃーん、まだ終わんないのー? 掃除当番なんて委員長にまかせて、いっしょに帰ろう!」
あたしは思わず身構える。
まーたあたしに押し付けようとして!
でも、鈴蘭は拒否した。
「そんなわけにはいかないよ。私が掃除当番なんだから」
「鈴蘭ちゃんはオレの推しだからさ! 一緒に帰りたいんだ」
「推しって……」
鈴蘭は、顔をこわばらせてしまった。あきらかにおびえている。
「ちょっと、鈴蘭が困ってるじゃん! それに、推しって言葉を使って一方的に好きを押し付けるのは迷惑だよ。鈴蘭は芸能人じゃないんだから」
「なんだよ、委員長が掃除当番代わりたくないからって、ジャマすんな」
「ちがう!」
あたしは鈴蘭が持っていたほうきをなかば強引にうばう。
「鈴蘭、先に帰んな。掃除はあたしがやっとくから。そして野澤にも話をつけておく」
「委員長、こわー! まぁいいや、鈴蘭ちゃんまたね!」
野澤は、あたしに背を向けて逃げ出すように走って帰っていった。
「逃げるな!」
負けじと追っかけようとする。でも、鈴蘭があたしの服のすそを掴んでいたみたいで、後ろに引っ張られて思わずコケそうになった。
「ちょ、鈴蘭……」
「あ、ごめん。えっと……ありがとう。陽乃葉ちゃんのおかげで助かった。もう、追いかけなくていいよ」
ほっとしたように、鈴蘭はほほえむ。
「かわいい子も大変だよね。あたしは気楽だなぁ」
これは、嫉妬を隠しているわけではない。あんな男に好かれるくらいなら、モテないほうがマシ!
「気楽だなぁって。陽乃葉ちゃんには、もっとすてきな人がいるはずだよ!」
満面の笑みで、鈴蘭が言った。たぶん、本心で。
すてきな人、か。
まぁ……桐ケ谷みたいな人だったら、好かれたいかもだけど……。
桐ケ谷っていうのは、あたしのとなりの席の男子。「顔はいいけど愛想なし」で、女子からの人気はない。いつも眠そうにしてるか、ぼーっと空をながめている。で、いっつも人の話を聞いていないんだ。
毎回提出物を忘れてあたしが催促する。困るよね、ぼーっとするのはいいけど、人の話は聞いてほしい。
でも、かわいい子にデレデレして迷惑をかける男子より、よっぽどいい。
ああいうヤツだったら、まぁ………………って、勝手に妄想してしまった。
「あたしみたいに、ポニーテール振り回して男子を追いかける女子に、すてきな人ねぇ」
いまのとこ、あたしの周りにいるいちばんすてきな人は鈴蘭な気がするけど。
「だって、陽乃葉ちゃんはかっこいいもん!」
かわいいとかキレイって言われたら、絶対ウソじゃんって思う。でも、かっこいいって言われると……内面をほめられたみたいでうれしかった。
すてきな人か。
また、桐ケ谷の顔がうかぶ。クールで、背が高くて、常に話しかけるなオーラを身にまとっていて、まわりからちょっと恐れられている。すてきな人かはわからないけど……イイ奴ではある、とおもう。なんとなく。
「委員長! 今日塾だから、かわりにコレおねがい!」
「委員長! 先生が呼んでる!」
朝から何回も、委員長って呼ばれては教室や廊下をかけずりまわる。
小学校に入ってから、気が付いたら班長や学級委員長をやるようになって、それは小六になったばかりの今も続いてる。
勉強も運動もそこそこ。容姿もコミュ力もそこそこ。真面目なだけがとりえ。
……真面目って、とりえ? ほめ言葉じゃないと思うんだけどね。
そうは思っていても、委員長をやめたら存在意義がない気がして、今にいたる。
「はあ、疲れた!」
放課後になるころには、いつもくたくた。
呼びつけられていた職員室から急ぎ足で教室に戻る。あたしはさっさと帰らないといけないんだ!
学校は、部活動のない子はほとんど帰宅していてなんだかガランとしている。日中はあんなに騒がしいのにね。
教室に向かっていると、クラスメイトの鈴蘭がほうきを持って廊下を掃除していた。
「お疲れ! 掃除当番?」
「そうなの。陽乃葉ちゃんもお疲れさま。今から帰るの?」
たいして親しいわけじゃないけど、あたしを「委員長」ではなく名前で呼んでくれる数少ない子。顔も整っているけど心も整っている、天の神様にひいきされている子。
「うん、鈴蘭も早く帰りなね」
あたしは嫉妬を隠すよう、笑顔で言った。
ボブの髪はツヤッツヤのキラッキラなまっすぐな黒髪に、くりっとした目と白い肌。羨ましいしかない天使!
ランドセルを取りに教室に入ろうとすると、ちょうど男子とぶつかりそうになる。相手は、お調子者の野澤だ。
天使の鈴蘭に、教室から出てきた野澤が声をかける。
「鈴蘭ちゃーん、まだ終わんないのー? 掃除当番なんて委員長にまかせて、いっしょに帰ろう!」
あたしは思わず身構える。
まーたあたしに押し付けようとして!
でも、鈴蘭は拒否した。
「そんなわけにはいかないよ。私が掃除当番なんだから」
「鈴蘭ちゃんはオレの推しだからさ! 一緒に帰りたいんだ」
「推しって……」
鈴蘭は、顔をこわばらせてしまった。あきらかにおびえている。
「ちょっと、鈴蘭が困ってるじゃん! それに、推しって言葉を使って一方的に好きを押し付けるのは迷惑だよ。鈴蘭は芸能人じゃないんだから」
「なんだよ、委員長が掃除当番代わりたくないからって、ジャマすんな」
「ちがう!」
あたしは鈴蘭が持っていたほうきをなかば強引にうばう。
「鈴蘭、先に帰んな。掃除はあたしがやっとくから。そして野澤にも話をつけておく」
「委員長、こわー! まぁいいや、鈴蘭ちゃんまたね!」
野澤は、あたしに背を向けて逃げ出すように走って帰っていった。
「逃げるな!」
負けじと追っかけようとする。でも、鈴蘭があたしの服のすそを掴んでいたみたいで、後ろに引っ張られて思わずコケそうになった。
「ちょ、鈴蘭……」
「あ、ごめん。えっと……ありがとう。陽乃葉ちゃんのおかげで助かった。もう、追いかけなくていいよ」
ほっとしたように、鈴蘭はほほえむ。
「かわいい子も大変だよね。あたしは気楽だなぁ」
これは、嫉妬を隠しているわけではない。あんな男に好かれるくらいなら、モテないほうがマシ!
「気楽だなぁって。陽乃葉ちゃんには、もっとすてきな人がいるはずだよ!」
満面の笑みで、鈴蘭が言った。たぶん、本心で。
すてきな人、か。
まぁ……桐ケ谷みたいな人だったら、好かれたいかもだけど……。
桐ケ谷っていうのは、あたしのとなりの席の男子。「顔はいいけど愛想なし」で、女子からの人気はない。いつも眠そうにしてるか、ぼーっと空をながめている。で、いっつも人の話を聞いていないんだ。
毎回提出物を忘れてあたしが催促する。困るよね、ぼーっとするのはいいけど、人の話は聞いてほしい。
でも、かわいい子にデレデレして迷惑をかける男子より、よっぽどいい。
ああいうヤツだったら、まぁ………………って、勝手に妄想してしまった。
「あたしみたいに、ポニーテール振り回して男子を追いかける女子に、すてきな人ねぇ」
いまのとこ、あたしの周りにいるいちばんすてきな人は鈴蘭な気がするけど。
「だって、陽乃葉ちゃんはかっこいいもん!」
かわいいとかキレイって言われたら、絶対ウソじゃんって思う。でも、かっこいいって言われると……内面をほめられたみたいでうれしかった。
すてきな人か。
また、桐ケ谷の顔がうかぶ。クールで、背が高くて、常に話しかけるなオーラを身にまとっていて、まわりからちょっと恐れられている。すてきな人かはわからないけど……イイ奴ではある、とおもう。なんとなく。
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