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第四章
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「楓真、ちょっといい?」
悠真くんたちとバーベキューを楽しんでいる楓真に声をかけた。
話しかけるだけで、緊張しちゃう!
悠真くんとゆめのさんは、ちらっと顔を合わせた。
「おっ、あいかわらず仲が良くてなにより!」
「言い方、オジサンくさ」
ふたりはくすくすと笑う。そういえば、悠真くんは私と楓真が付き合ってると思っているんだった。
ウソだけど……ウソから出たまことにするんだ。
「ん? なに?」
お肉を口にしながら、楓真がもごもごと答える。
「あっちで、話そう」
私は、大きな池の方を指す。
「いいよ」
楓真は不思議そうにしながらも、お肉をごくんと飲み込んで私についてきてくれた。
ふたりで、緑豊かな公園を歩いていく。
ぎこちない距離感が、今の私たちの関係そのものって感じだ。
空いているベンチを見つけて、そこに座る。公園内の池の水面が、太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。
私は今日、楓真に謝るつもりだった。
悠真くんのかわりにしてしまったこと。まずはきちんと謝らないといけないって、乙輝先輩を見て思った。
謝罪って、謝る側がスッキリするだけかもしれない。でも私は、乙輝先輩に謝ってもらえたことはうれしかったし、これから私たちの関係がいいほうに変わるって思えた。
でも、うまく切り出せない。
「えっと……勉強、どう?」
当たり障りのなさそうな話題を振る。
「順調……と言いたいけど、だいぶ苦戦中」
楓真は、照れ笑いを浮かべる。
「そっか」
陸上をやめてまでやりたい勉強って、なんだろうか。
聞きたいけど、その前に。
「あの、謝りたいことがあって」
「なんかあったっけ?」
本気で分からなさそうな顔で楓真は首をかしげる。
「悠真くんの代わりに、彼氏って紹介したこと」
ああ、と声をもらした。
「別に、気にしてないよ」
「ごめんなさい、イヤな思いしたよね」
「ま、楽しかったし」
気にすんな、と楓真が笑顔を見せた。
優しいなぁ。どうしてこんなに、優しいんだろう。
どうしてその優しさに、気付けなかったんだろう。
私が子どもだから? それとも、性格?
ますます罪の意識が重くのしかかる。
「そうそう、桜と小梅は元気?」
私が黙ってしまったからか、それとも謝罪を受けたことで私が呼び出した目的を果たしたと思ったのか、楓真は話題をかえてきた。
「元気だよ」
二匹のこと、覚えてたんだ。かわいいかわいいって、撫でまわしてたもんね。
「よかった。あのさ、俺、動物すっごい好きなんだよね」
「そうなんだね、なんか意外。楓真の家って動物飼ってないよね?」
「忙しい両親だからなかなかね。でも、ずっと好きで、保護犬のボランティア活動もしてるんだ」
保護犬のボランティア活動? まったく、知らなかった。
私、楓真のことを好きなくせに、本当に何も知らない……。
「けど、ボランティアだけじゃ、救えない命もあって」
楓真が視線を落とす。その表情に胸が痛んだ。
テレビで、保護犬について見ることはよくある。保護犬の中には、病気になって里親を見つける前に死んでしまう犬もいる。
しばらく無言が続いた後、楓真は池を眺めながらぽつりとつぶやいた。
「なんか、恥ずかしくて言ってなかったけどさ。俺、獣医になりたくて」
「獣医!?」
思いもよらない言葉に、私は思わず立ち上がる。
獣医って、動物のお医者さんのことだよね?
「ヘンだよな。頭も良くない俺が獣医なんて」
「そんなことないよ! すごくすてきだよ!」
おもいっきり拒否する。
「たしかに楓真は、勉強が得意なほうじゃないかもしれない。でも、一度決めたことはやりとげる人だし、努力家だから大丈夫だよ!」
私の言葉に、楓真はぷっと吹き出した。
「フォローしてくれているのか、ディスられているのかどっちだよ」
「あ、いや……褒めてるよ」
私はすとんとベンチに座りなおす。
「もしかして、陸上をやめたのも、それ?」
「まあ、ね。陸上はもう、燃え尽きたからいいかなって思ったのもある」
「そっか……」
楓真は、新しい夢を見つけたんだ。陸上をやり切って。
そんな中、私は見栄を張ってウソをついてばかりで……なんだか、情けない。
無言になった私たちの間を、普段は聞けない野鳥の声が通り過ぎる。
「楓真は大人だね。私なんて子どもすぎるよ」
「そんなことないだろ。波奈も、ずいぶん大人になったよ」
「そう?」
「今日みたいにバーベキューを企画するなんて、俺はできないよ」
「別に、難しいことじゃないでしょ。誰でもできるよ」
私自身、これがすごいことだと思ってない。みんなに声をかけて、キャンプ場予約して、両親に必要なものを伝えて……ってやっただけ。
「難しいよ。友達だけならともかく、兄ちゃんとか、乙輝とかまで呼んでさ。……乙輝と、なんかあった?」
私たちの雰囲気を見ていれば、なにかしらの関係性であったことは想像できちゃうよね。でも、ここで乙輝先輩にされたことを言ったところで意味はない。だってもう、謝ってもらったし。
「なにも。ちょっとした縁で最近仲良くなっただけ」
これはウソじゃない。楓真が縁でいろいろ揉めた結果、今はマシュマロを焼く仲になった。
私が口を割らないと気付いて、楓真は「ふぅん」とだけ答えた。
「やっぱり、波奈はじゅうぶん大人だよ。でも、中1なんだから無理に大人になろうと思わなくていいんだよ」
「だって……」
「俺はさ、無邪気で見栄っ張りで、思いついたらまっすぐ突き進んじゃう波奈が好きだから」
待って。
好き、って今言った?
反射的に楓真の顔を見ると、手で顔を覆っている。
「ごめん、ウソ。忘れて」
手で覆ったせいで、くぐもった声になっている。
「やだ、忘れない!」
楓真が、私を好きって。でも、どういう種類の好き? 幼なじみとして? それとも女の子として? どっち?
どっちにしろ、私は嫌われてないってこと。うれしい!
「あっ、あの、楓真!」
告白するなら、今がチャンス! かも!
ウソから出たまことにするには、行くしかない!
いけー波奈ー!
と思ったけど、楓真が先に口をひらいた。
「いやほんと、忘れて。俺、志望校に合格するまでは勉強以外しないって決めたから。今日のバーベキューは特別」
そういうと、楓真はすっと立ち上がった。
「そろそろ戻ろう。最後、焼きそば作るっておじさん言ってた」
え、え、え……えー! 待ってよ! どういうこと!?
ここまで話しておいて、受験が終わるまでなにもなし?
「ねぇねぇ、楓真ってどういう意味で私のこと好きなの? それだけは教えてよ」
キャンプ場に向かって歩き出す楓真にまとわりつくようにして、私は必死に質問する。
「いやだ。俺のこと兄ちゃんの身代わりにするような人には教えない」
「それは本当にごめんなさい、二度としないから教えて!」
「いやでーす」
「ねー待ってよー」
悠真くんの身代わりにしたことで、今後楓真とはゼッタイに付き合えないと思っていた。でも、もしかしたら……チャンスはある?
とはいえ、まだ6月。楓真の受験が終わるのは、来年2月とか3月?
それまでは、どちらにせよゼッタイに付き合えない!
おわり
悠真くんたちとバーベキューを楽しんでいる楓真に声をかけた。
話しかけるだけで、緊張しちゃう!
悠真くんとゆめのさんは、ちらっと顔を合わせた。
「おっ、あいかわらず仲が良くてなにより!」
「言い方、オジサンくさ」
ふたりはくすくすと笑う。そういえば、悠真くんは私と楓真が付き合ってると思っているんだった。
ウソだけど……ウソから出たまことにするんだ。
「ん? なに?」
お肉を口にしながら、楓真がもごもごと答える。
「あっちで、話そう」
私は、大きな池の方を指す。
「いいよ」
楓真は不思議そうにしながらも、お肉をごくんと飲み込んで私についてきてくれた。
ふたりで、緑豊かな公園を歩いていく。
ぎこちない距離感が、今の私たちの関係そのものって感じだ。
空いているベンチを見つけて、そこに座る。公園内の池の水面が、太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。
私は今日、楓真に謝るつもりだった。
悠真くんのかわりにしてしまったこと。まずはきちんと謝らないといけないって、乙輝先輩を見て思った。
謝罪って、謝る側がスッキリするだけかもしれない。でも私は、乙輝先輩に謝ってもらえたことはうれしかったし、これから私たちの関係がいいほうに変わるって思えた。
でも、うまく切り出せない。
「えっと……勉強、どう?」
当たり障りのなさそうな話題を振る。
「順調……と言いたいけど、だいぶ苦戦中」
楓真は、照れ笑いを浮かべる。
「そっか」
陸上をやめてまでやりたい勉強って、なんだろうか。
聞きたいけど、その前に。
「あの、謝りたいことがあって」
「なんかあったっけ?」
本気で分からなさそうな顔で楓真は首をかしげる。
「悠真くんの代わりに、彼氏って紹介したこと」
ああ、と声をもらした。
「別に、気にしてないよ」
「ごめんなさい、イヤな思いしたよね」
「ま、楽しかったし」
気にすんな、と楓真が笑顔を見せた。
優しいなぁ。どうしてこんなに、優しいんだろう。
どうしてその優しさに、気付けなかったんだろう。
私が子どもだから? それとも、性格?
ますます罪の意識が重くのしかかる。
「そうそう、桜と小梅は元気?」
私が黙ってしまったからか、それとも謝罪を受けたことで私が呼び出した目的を果たしたと思ったのか、楓真は話題をかえてきた。
「元気だよ」
二匹のこと、覚えてたんだ。かわいいかわいいって、撫でまわしてたもんね。
「よかった。あのさ、俺、動物すっごい好きなんだよね」
「そうなんだね、なんか意外。楓真の家って動物飼ってないよね?」
「忙しい両親だからなかなかね。でも、ずっと好きで、保護犬のボランティア活動もしてるんだ」
保護犬のボランティア活動? まったく、知らなかった。
私、楓真のことを好きなくせに、本当に何も知らない……。
「けど、ボランティアだけじゃ、救えない命もあって」
楓真が視線を落とす。その表情に胸が痛んだ。
テレビで、保護犬について見ることはよくある。保護犬の中には、病気になって里親を見つける前に死んでしまう犬もいる。
しばらく無言が続いた後、楓真は池を眺めながらぽつりとつぶやいた。
「なんか、恥ずかしくて言ってなかったけどさ。俺、獣医になりたくて」
「獣医!?」
思いもよらない言葉に、私は思わず立ち上がる。
獣医って、動物のお医者さんのことだよね?
「ヘンだよな。頭も良くない俺が獣医なんて」
「そんなことないよ! すごくすてきだよ!」
おもいっきり拒否する。
「たしかに楓真は、勉強が得意なほうじゃないかもしれない。でも、一度決めたことはやりとげる人だし、努力家だから大丈夫だよ!」
私の言葉に、楓真はぷっと吹き出した。
「フォローしてくれているのか、ディスられているのかどっちだよ」
「あ、いや……褒めてるよ」
私はすとんとベンチに座りなおす。
「もしかして、陸上をやめたのも、それ?」
「まあ、ね。陸上はもう、燃え尽きたからいいかなって思ったのもある」
「そっか……」
楓真は、新しい夢を見つけたんだ。陸上をやり切って。
そんな中、私は見栄を張ってウソをついてばかりで……なんだか、情けない。
無言になった私たちの間を、普段は聞けない野鳥の声が通り過ぎる。
「楓真は大人だね。私なんて子どもすぎるよ」
「そんなことないだろ。波奈も、ずいぶん大人になったよ」
「そう?」
「今日みたいにバーベキューを企画するなんて、俺はできないよ」
「別に、難しいことじゃないでしょ。誰でもできるよ」
私自身、これがすごいことだと思ってない。みんなに声をかけて、キャンプ場予約して、両親に必要なものを伝えて……ってやっただけ。
「難しいよ。友達だけならともかく、兄ちゃんとか、乙輝とかまで呼んでさ。……乙輝と、なんかあった?」
私たちの雰囲気を見ていれば、なにかしらの関係性であったことは想像できちゃうよね。でも、ここで乙輝先輩にされたことを言ったところで意味はない。だってもう、謝ってもらったし。
「なにも。ちょっとした縁で最近仲良くなっただけ」
これはウソじゃない。楓真が縁でいろいろ揉めた結果、今はマシュマロを焼く仲になった。
私が口を割らないと気付いて、楓真は「ふぅん」とだけ答えた。
「やっぱり、波奈はじゅうぶん大人だよ。でも、中1なんだから無理に大人になろうと思わなくていいんだよ」
「だって……」
「俺はさ、無邪気で見栄っ張りで、思いついたらまっすぐ突き進んじゃう波奈が好きだから」
待って。
好き、って今言った?
反射的に楓真の顔を見ると、手で顔を覆っている。
「ごめん、ウソ。忘れて」
手で覆ったせいで、くぐもった声になっている。
「やだ、忘れない!」
楓真が、私を好きって。でも、どういう種類の好き? 幼なじみとして? それとも女の子として? どっち?
どっちにしろ、私は嫌われてないってこと。うれしい!
「あっ、あの、楓真!」
告白するなら、今がチャンス! かも!
ウソから出たまことにするには、行くしかない!
いけー波奈ー!
と思ったけど、楓真が先に口をひらいた。
「いやほんと、忘れて。俺、志望校に合格するまでは勉強以外しないって決めたから。今日のバーベキューは特別」
そういうと、楓真はすっと立ち上がった。
「そろそろ戻ろう。最後、焼きそば作るっておじさん言ってた」
え、え、え……えー! 待ってよ! どういうこと!?
ここまで話しておいて、受験が終わるまでなにもなし?
「ねぇねぇ、楓真ってどういう意味で私のこと好きなの? それだけは教えてよ」
キャンプ場に向かって歩き出す楓真にまとわりつくようにして、私は必死に質問する。
「いやだ。俺のこと兄ちゃんの身代わりにするような人には教えない」
「それは本当にごめんなさい、二度としないから教えて!」
「いやでーす」
「ねー待ってよー」
悠真くんの身代わりにしたことで、今後楓真とはゼッタイに付き合えないと思っていた。でも、もしかしたら……チャンスはある?
とはいえ、まだ6月。楓真の受験が終わるのは、来年2月とか3月?
それまでは、どちらにせよゼッタイに付き合えない!
おわり
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