25 / 26
第四章
2
しおりを挟む
私の親が用意してくれたお肉や野菜を焼いていく。
わいわいとおしゃべりしながらのバーベキューは、すっごく楽しい!
楓真は、悠真くんとゆめのさんと楽しそうに話している。乙輝先輩は……なぜか私の親とめっちゃしゃべっている。年上の人と交流する方が向いているタイプなのかな。
それでいいのかな……せっかく楓真がいるのに。余計なお世話かな。
私は、使い終わった紙皿を集めたりゴミを拾ったりして、みんなが快適に過ごせるようにした。クーラーボックスから、2リットルペットボトルのオレンジジュースを取り出す。
「ジュースおかわりほしい人ー!」
「はいはーい!」
栞奈ちゃんが元気に手をあげる。紙コップに注いで回る。
「波奈、俺も!」
少し離れた席で、楓真が手をあげる。
「ちょっと待って!」
これは、チャンスかも。私は、私の親としゃべっていた乙輝先輩にペットボトルを手渡す。
「乙輝先輩、楓真に持って行ってください」
「は? 私が?」
急な押し付けに、乙輝先輩が目を丸くする。
「大人としゃべってないで、あっちの輪に加わってください。私からのお願いです」
「……イヤよ。大人といる方が安心する」
乙輝先輩は、視線をあげずに言った。
両親が、心配そうに私たちを見ている。
「乙輝先輩、ちょっと」
少し離れたところに乙輝先輩をひっぱっていく。
「何、おせっかいするつもり?」
「そのつもりです。乙輝先輩、楓真を好きなのに、どうしてしゃべらないんですか?」
「……しゃべって、嫌われたくない。あなたも知ってのとおり、私、イヤな奴だから。バレたら嫌われる」
「それはそうですけど……」
「そうですけど、じゃなくて否定しなさいよ」
思わず本音が。乙輝先輩がヤバくてイヤな奴なのは事実だし。
「否定されるのは、怖いですよね」
乙輝先輩の気持ちは、わかる。誰だって、好きな人に否定されたくない。
「こんな私にも優しくしてくれた楓真にがっかりされたくない。がっかりされるくらいなら、一生話さなくていい」
乙輝先輩の決意は固いみたい。
「乙輝先輩がそう決めたのなら、もう何も言いません。そのかわり、私が楓真とどうなろうが、もう盗撮とかするのやめてくださいね」
私の言葉に、乙輝先輩ははっとした顔をした。
「そうだよね。楓真と自然に話せるあなたを憎らしく思っていたけれど……自分は嫌われるリスクを追わずに他人を羨ましがっているなんて、よくなかった」
乙輝先輩は私の顔をジッと見て、頭をさげた。
「ごめんなさい。もうしません」
「乙輝先輩……ちゃんと謝れるんですね」
「失礼ね」
ぱっと顔をあげた乙輝先輩と目が合う。なんだかおかしくて、私たちはぷっと吹き出してしまった。
みっちゃんが言っていた「昨日の敵は今日の友」になれるかもしれない。
「じゃ、みんなにも謝りましょう」
「あの子たちには何もしてないけど」
「ウチのクラスに来て私を脅しつけたじゃないですか。あれは立派なパワハラです」
「そ、そうなの……?」
「とりあえず、みんなのところへ行きましょう!」
私は乙輝先輩をまりなちゃんたちの輪に連れていく。3人に緊張が走ったから、私はあえて明るい声を出した。
「みんなー! 乙輝先輩が謝りたいって! 許さなくてもいいけどね!」
3人は、顔を見合わせる。
「あ、あの……」
もじもじと、乙輝先輩が自分の手をいじってなかなか話し出さない。
「乙輝先輩」
まりなちゃんが話しかける。乙輝先輩は、びくりと肩を震わせた。
まりなちゃんは栞奈ちゃんとメグちゃんの顔を見て、うなずいたのを見てから乙輝先輩に声をかける。
「私たちは特に何もされてないので謝る必要はないです。でも、波奈ちゃんには謝ってください」
みんな……。かなりうれしいよ。私のことを考えて言ってくれるなんて。
「私は、さっき謝ってもらったからだいじょうぶ」
「えー、乙輝先輩って謝れるんですね!」
栞奈ちゃんが心底驚いたように大きな声をあげる。
「こら栞奈ちゃん!」
メグちゃんが慌てたようにシーとやる。
「……それ、さっきこの人にも言われた」
ちらりと私の顔を見る。
「だって、乙輝先輩ってゼッタイ謝れない人だと思うよねー?」
栞奈ちゃんの言葉に、まりなちゃんもメグちゃんも頷いている。みんな……。
「……ごめんなさい。もう酷いことしないから」
乙輝先輩は、ぺこっと頭をさげる。すぐに顔をあげると、そのままその場を去ろうとした。
「待ってください」
まりなちゃんが声をかける。手には、マシュマロの袋があった。
「いっしょに、スモア作りましょう」
マシュマロを使った、バーベキューの定番スイーツの名前を出す。
「いいの? 私の性格、わかってる?」
乙輝先輩の言葉に、まりなちゃんは栞奈ちゃんとメグちゃんの意見を聞くように視線を送る。
「言いたいこと言い合えそうだし。あたしは話してみたい」
栞奈ちゃんは、メグちゃんの意見を聞くために顔を見る。
メグちゃんは、うーんと少し悩んだあと、乙輝先輩を見た。
「謝罪で私たちの関係が終わるのもイヤなので。とりあえず今日は楽しくやりましょう」
「よっし、じゃあ決まりね!」
まりなちゃんが、乙輝先輩の手を引いて火のある方へ誘導していく。
「波奈ちゃんも来て!」
「あ、ごめん。私ちょっと」
楓真たちのグループに目をやる。みんなは、私の言いたいことを察してくれたみたいで、親指を立てて見送ってくれた。
ありがとう。いい友だち。
わいわいとおしゃべりしながらのバーベキューは、すっごく楽しい!
楓真は、悠真くんとゆめのさんと楽しそうに話している。乙輝先輩は……なぜか私の親とめっちゃしゃべっている。年上の人と交流する方が向いているタイプなのかな。
それでいいのかな……せっかく楓真がいるのに。余計なお世話かな。
私は、使い終わった紙皿を集めたりゴミを拾ったりして、みんなが快適に過ごせるようにした。クーラーボックスから、2リットルペットボトルのオレンジジュースを取り出す。
「ジュースおかわりほしい人ー!」
「はいはーい!」
栞奈ちゃんが元気に手をあげる。紙コップに注いで回る。
「波奈、俺も!」
少し離れた席で、楓真が手をあげる。
「ちょっと待って!」
これは、チャンスかも。私は、私の親としゃべっていた乙輝先輩にペットボトルを手渡す。
「乙輝先輩、楓真に持って行ってください」
「は? 私が?」
急な押し付けに、乙輝先輩が目を丸くする。
「大人としゃべってないで、あっちの輪に加わってください。私からのお願いです」
「……イヤよ。大人といる方が安心する」
乙輝先輩は、視線をあげずに言った。
両親が、心配そうに私たちを見ている。
「乙輝先輩、ちょっと」
少し離れたところに乙輝先輩をひっぱっていく。
「何、おせっかいするつもり?」
「そのつもりです。乙輝先輩、楓真を好きなのに、どうしてしゃべらないんですか?」
「……しゃべって、嫌われたくない。あなたも知ってのとおり、私、イヤな奴だから。バレたら嫌われる」
「それはそうですけど……」
「そうですけど、じゃなくて否定しなさいよ」
思わず本音が。乙輝先輩がヤバくてイヤな奴なのは事実だし。
「否定されるのは、怖いですよね」
乙輝先輩の気持ちは、わかる。誰だって、好きな人に否定されたくない。
「こんな私にも優しくしてくれた楓真にがっかりされたくない。がっかりされるくらいなら、一生話さなくていい」
乙輝先輩の決意は固いみたい。
「乙輝先輩がそう決めたのなら、もう何も言いません。そのかわり、私が楓真とどうなろうが、もう盗撮とかするのやめてくださいね」
私の言葉に、乙輝先輩ははっとした顔をした。
「そうだよね。楓真と自然に話せるあなたを憎らしく思っていたけれど……自分は嫌われるリスクを追わずに他人を羨ましがっているなんて、よくなかった」
乙輝先輩は私の顔をジッと見て、頭をさげた。
「ごめんなさい。もうしません」
「乙輝先輩……ちゃんと謝れるんですね」
「失礼ね」
ぱっと顔をあげた乙輝先輩と目が合う。なんだかおかしくて、私たちはぷっと吹き出してしまった。
みっちゃんが言っていた「昨日の敵は今日の友」になれるかもしれない。
「じゃ、みんなにも謝りましょう」
「あの子たちには何もしてないけど」
「ウチのクラスに来て私を脅しつけたじゃないですか。あれは立派なパワハラです」
「そ、そうなの……?」
「とりあえず、みんなのところへ行きましょう!」
私は乙輝先輩をまりなちゃんたちの輪に連れていく。3人に緊張が走ったから、私はあえて明るい声を出した。
「みんなー! 乙輝先輩が謝りたいって! 許さなくてもいいけどね!」
3人は、顔を見合わせる。
「あ、あの……」
もじもじと、乙輝先輩が自分の手をいじってなかなか話し出さない。
「乙輝先輩」
まりなちゃんが話しかける。乙輝先輩は、びくりと肩を震わせた。
まりなちゃんは栞奈ちゃんとメグちゃんの顔を見て、うなずいたのを見てから乙輝先輩に声をかける。
「私たちは特に何もされてないので謝る必要はないです。でも、波奈ちゃんには謝ってください」
みんな……。かなりうれしいよ。私のことを考えて言ってくれるなんて。
「私は、さっき謝ってもらったからだいじょうぶ」
「えー、乙輝先輩って謝れるんですね!」
栞奈ちゃんが心底驚いたように大きな声をあげる。
「こら栞奈ちゃん!」
メグちゃんが慌てたようにシーとやる。
「……それ、さっきこの人にも言われた」
ちらりと私の顔を見る。
「だって、乙輝先輩ってゼッタイ謝れない人だと思うよねー?」
栞奈ちゃんの言葉に、まりなちゃんもメグちゃんも頷いている。みんな……。
「……ごめんなさい。もう酷いことしないから」
乙輝先輩は、ぺこっと頭をさげる。すぐに顔をあげると、そのままその場を去ろうとした。
「待ってください」
まりなちゃんが声をかける。手には、マシュマロの袋があった。
「いっしょに、スモア作りましょう」
マシュマロを使った、バーベキューの定番スイーツの名前を出す。
「いいの? 私の性格、わかってる?」
乙輝先輩の言葉に、まりなちゃんは栞奈ちゃんとメグちゃんの意見を聞くように視線を送る。
「言いたいこと言い合えそうだし。あたしは話してみたい」
栞奈ちゃんは、メグちゃんの意見を聞くために顔を見る。
メグちゃんは、うーんと少し悩んだあと、乙輝先輩を見た。
「謝罪で私たちの関係が終わるのもイヤなので。とりあえず今日は楽しくやりましょう」
「よっし、じゃあ決まりね!」
まりなちゃんが、乙輝先輩の手を引いて火のある方へ誘導していく。
「波奈ちゃんも来て!」
「あ、ごめん。私ちょっと」
楓真たちのグループに目をやる。みんなは、私の言いたいことを察してくれたみたいで、親指を立てて見送ってくれた。
ありがとう。いい友だち。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
マダム・シレーヌの文房具
猫宮乾
児童書・童話
マダム・シレーヌの文房具という巨大な文房具を使って、突如現実から招かれるマホロバの街で戦っているぼくたち。痛みはないけど、意識を失うか、最後の一人になるまで勝つかしないと、現実には戻れない。ぼくの武器は最弱とからかわれる定規だ。いつも強いコンパスなどに殺されている。ある日、現実世界に戻ってから、「大丈夫か?」と男の子に声をかけられた。※不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる