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第四章

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 私の親が用意してくれたお肉や野菜を焼いていく。
 わいわいとおしゃべりしながらのバーベキューは、すっごく楽しい!
 楓真は、悠真くんとゆめのさんと楽しそうに話している。乙輝先輩は……なぜか私の親とめっちゃしゃべっている。年上の人と交流する方が向いているタイプなのかな。
 それでいいのかな……せっかく楓真がいるのに。余計なお世話かな。
 私は、使い終わった紙皿を集めたりゴミを拾ったりして、みんなが快適に過ごせるようにした。クーラーボックスから、2リットルペットボトルのオレンジジュースを取り出す。
「ジュースおかわりほしい人ー!」
「はいはーい!」
 栞奈ちゃんが元気に手をあげる。紙コップに注いで回る。
「波奈、俺も!」
 少し離れた席で、楓真が手をあげる。
「ちょっと待って!」
 これは、チャンスかも。私は、私の親としゃべっていた乙輝先輩にペットボトルを手渡す。
「乙輝先輩、楓真に持って行ってください」
「は? 私が?」
 急な押し付けに、乙輝先輩が目を丸くする。
「大人としゃべってないで、あっちの輪に加わってください。私からのお願いです」
「……イヤよ。大人といる方が安心する」
 乙輝先輩は、視線をあげずに言った。
 両親が、心配そうに私たちを見ている。
「乙輝先輩、ちょっと」
 少し離れたところに乙輝先輩をひっぱっていく。
「何、おせっかいするつもり?」
「そのつもりです。乙輝先輩、楓真を好きなのに、どうしてしゃべらないんですか?」
「……しゃべって、嫌われたくない。あなたも知ってのとおり、私、イヤな奴だから。バレたら嫌われる」
「それはそうですけど……」
「そうですけど、じゃなくて否定しなさいよ」
 思わず本音が。乙輝先輩がヤバくてイヤな奴なのは事実だし。
「否定されるのは、怖いですよね」
 乙輝先輩の気持ちは、わかる。誰だって、好きな人に否定されたくない。
「こんな私にも優しくしてくれた楓真にがっかりされたくない。がっかりされるくらいなら、一生話さなくていい」
 乙輝先輩の決意は固いみたい。
「乙輝先輩がそう決めたのなら、もう何も言いません。そのかわり、私が楓真とどうなろうが、もう盗撮とかするのやめてくださいね」
 私の言葉に、乙輝先輩ははっとした顔をした。
「そうだよね。楓真と自然に話せるあなたを憎らしく思っていたけれど……自分は嫌われるリスクを追わずに他人を羨ましがっているなんて、よくなかった」
 乙輝先輩は私の顔をジッと見て、頭をさげた。
「ごめんなさい。もうしません」
「乙輝先輩……ちゃんと謝れるんですね」
「失礼ね」
 ぱっと顔をあげた乙輝先輩と目が合う。なんだかおかしくて、私たちはぷっと吹き出してしまった。
 みっちゃんが言っていた「昨日の敵は今日の友」になれるかもしれない。
「じゃ、みんなにも謝りましょう」
「あの子たちには何もしてないけど」
「ウチのクラスに来て私を脅しつけたじゃないですか。あれは立派なパワハラです」
「そ、そうなの……?」
「とりあえず、みんなのところへ行きましょう!」
 私は乙輝先輩をまりなちゃんたちの輪に連れていく。3人に緊張が走ったから、私はあえて明るい声を出した。
「みんなー! 乙輝先輩が謝りたいって! 許さなくてもいいけどね!」
 3人は、顔を見合わせる。
「あ、あの……」
 もじもじと、乙輝先輩が自分の手をいじってなかなか話し出さない。
「乙輝先輩」
 まりなちゃんが話しかける。乙輝先輩は、びくりと肩を震わせた。
 まりなちゃんは栞奈ちゃんとメグちゃんの顔を見て、うなずいたのを見てから乙輝先輩に声をかける。
「私たちは特に何もされてないので謝る必要はないです。でも、波奈ちゃんには謝ってください」
 みんな……。かなりうれしいよ。私のことを考えて言ってくれるなんて。
「私は、さっき謝ってもらったからだいじょうぶ」
「えー、乙輝先輩って謝れるんですね!」
 栞奈ちゃんが心底驚いたように大きな声をあげる。
「こら栞奈ちゃん!」
 メグちゃんが慌てたようにシーとやる。
「……それ、さっきこの人にも言われた」
 ちらりと私の顔を見る。
「だって、乙輝先輩ってゼッタイ謝れない人だと思うよねー?」
 栞奈ちゃんの言葉に、まりなちゃんもメグちゃんも頷いている。みんな……。
「……ごめんなさい。もう酷いことしないから」
 乙輝先輩は、ぺこっと頭をさげる。すぐに顔をあげると、そのままその場を去ろうとした。
「待ってください」
 まりなちゃんが声をかける。手には、マシュマロの袋があった。
「いっしょに、スモア作りましょう」
 マシュマロを使った、バーベキューの定番スイーツの名前を出す。
「いいの? 私の性格、わかってる?」
 乙輝先輩の言葉に、まりなちゃんは栞奈ちゃんとメグちゃんの意見を聞くように視線を送る。
「言いたいこと言い合えそうだし。あたしは話してみたい」
 栞奈ちゃんは、メグちゃんの意見を聞くために顔を見る。
 メグちゃんは、うーんと少し悩んだあと、乙輝先輩を見た。
「謝罪で私たちの関係が終わるのもイヤなので。とりあえず今日は楽しくやりましょう」
「よっし、じゃあ決まりね!」
 まりなちゃんが、乙輝先輩の手を引いて火のある方へ誘導していく。
「波奈ちゃんも来て!」
「あ、ごめん。私ちょっと」
 楓真たちのグループに目をやる。みんなは、私の言いたいことを察してくれたみたいで、親指を立てて見送ってくれた。
 ありがとう。いい友だち。
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