大好きなのにゼッタイ付き合えない

花梨

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第四章

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 みんなの予定が合った6月の土曜日。いよいよバーベキューが開催されることとなった。
 まだまだ春の気配が残っていて、暑すぎなくてちょうどよいバーベキュー日和!
 私たち家族は、バーベキュー道具や食材を持って車でバーベキュー場へ。楓真と悠真くんと彼女は悠真くんの車、まりなちゃんたちはバスや自転車を使って来てくれることに。
 乙輝先輩が来るかどうか、答えはまだ聞いていない。楓真は伝えてくれたけど、行くとは言わなかったんだって。
 来てくれたらいいのに……と思っていると。まさかの一番に乙輝先輩が来てくれた! あいかわらずちゃんと時間より早めに来るというまじめさ。
「来てくれたんですね、乙輝先輩!」
 私が小走りで迎えると、乙輝先輩はふん、と顔をそらした。
「楓真とバーベキューできるチャンスだし? 楓真の誘いは断りたくないっていうか」
 やっぱり、乙輝先輩って悪い人じゃないと思うんだよなぁ。
 私服の乙輝先輩ははじめて見た。
 スキニータイプのジーンズと肩だしの黒トップスが似合っている。乙輝先輩、スタイルいいんだな。
「今日はお招きいただきましてありがとうございます」
 お父さんとお母さんに、すっごく丁寧にあいさつする。乙輝先輩、ほんと私の前以外だとちゃんとしてるんだよなぁ。
「あらあらご丁寧に……。部活もやってない波奈に年上のお友だちができるなんて。どういった経緯で?」
「え。いや、楓真くんと共通の知り合いっていうか……」
 乙輝先輩はもごもごと答える。私も、へらへらと愛想笑いした。
 ……本当のことは、言えないよね……。
 楓真に誘われたときの乙輝先輩、どんな雰囲気だったんだろう。あわてふためいて照れていたのかな? 見てみたかったなと思うのは、性格悪いことかもしれないけど、気になる!
「波奈ちゃーん!」
 準備を続けていると、また声をかけられた。声の方を見ると、悠真くんと、見知らぬ女性が歩いてくる。あれが、悠真くんの婚約者か。なんていうか……悠真くんより背が高くて、日焼していて、金髪ポニーテールで。白いTシャツがこんなに似合う人、そうそういなさそうな元気な女性だった。
 正直言って、「悠真くんの彼女像」とはかけ離れていた。勝手に、清楚そうな女性だと思っていたから。
「こんにちは! あなたが波奈ちゃん? 私、ゆめのっていうの! よろしく!」
 白い歯がまぶしい笑顔で、ハキハキと自己紹介してくれた。
「今日は来てくださりありがとうございます」
「こっちこそ呼んでくれてありがとー! めちゃうれしい! ウチ、バーベキュー好きなんだよね。だからはりきってて! ウチ、力あるからなんでも頼んで! あ、波奈ちゃんのご両親ですか! 今日はありがとうございます! お手伝いします!」
 勢いよくしゃべりながら、お母さんたちの方にあいさつへ言った。
 す、すごい。元気すぎて圧倒されてしまった。
「びっくりしただろ?」
 悠真くんに声をかけられて、少しほっとする。
「あ、うん。でも明るくてすてきな人」
 その場にいるだけで明るく照らしてくれるタイプの人だ。ゆめのさんがしゃべるだけで、元気がわいてくるような。
「でしょ?」
 自慢気に、悠真くんは笑った。
 悠真くんは、そういうタイプの人が好きだったんだな。タイプの違う私がいくら大人になったところで、好きにはなってもらえないね。
 とっくにふっきれたつもりだったけど、今日ゆめのさんを見てわずかに残っていた昔の想いが、本当の本当にふっきれた気がした。
「ところで、楓真は……」
 駐車場から歩いてきたのは、ふたりだけだったみたい。
「駐車場のとこにあったトイレ行ってからくるって。俺も手伝おうっと」
 悠真くんは、ゆめのさんと合流して私の親の手伝いを始めた。
 ゆめのさんと悠真くんが楽しそうに準備する姿、すごくお似合いだ。
 これでよかったんだな。
「波奈ちゃん!」
 まりなちゃん栞奈ちゃんメグちゃんが来てくれた。
「へぇ、波奈ちゃんが本当に好きだった人はあの人か」
 栞奈ちゃんが、悠真くんを見ながら小声で言う。
「あまり人をジロジロみてはダメですよ」
 メグちゃんが栞奈ちゃんをたしなめるけれど、気になるようでちらちらと見ていた。
「でも、見てのとおり私が出る幕じゃなかった」
 ゆめのさんの姿を見て、三人とも「だねー」と納得してくれた。見た感じ、私とは生き方が違う人だ。
「で、今の想い人の楓真先輩は?」
 まりなちゃんがあたりを見回す。
「トイレいってから来るって」
「ヒーローは遅れてやってくるってね」
「波奈ちゃんにとってのヒーロー!」
 3人は、きゃっきゃと喜んでいる。
 私にとってのヒーローかぁ……。
 楓真にとって、今の私はヒロインになれていないんだろうけど。挽回できるチャンスはあるかな……。
「あ、楓真おそーい!」
 ゆめのさんの威勢のよい声に、はっとなる。楓真がきた!
「ごめん、トイレ混んでて」
 久しぶりに、楓真を見た。ちょっと痩せて、色も白くなった気がする。学校のジャージ姿なのも、なんだか楓真らしい。
「来てくれてありがとう」
 私が出迎えると、楓真は優しい笑顔を浮かべてくれた。
「こっちこそ。久々に、太陽の下に出た気がするな」
 林に囲まれたキャンプ場をぐるりと見回す。
「学校には通ってるのに。大げさ~」
 私は、楓真と普通におしゃべりしていることにすら感動してしまう。この時間、すっごく大切で尊い時間!
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