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第三章

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 まりなちゃんと乙輝先輩と、そして栞奈ちゃんとメグちゃんの4人と私とで、みっちゃんの家に行くことにした。さすがに人数が多いから、事前に連絡はしておいた。
 新しい自分になるには、ここで過去を清算したほうがよいかもしれないって思ったんだ。
「みなさん、いらっしゃい」
 みっちゃんの話はみんなにしていたから、乙輝先輩以外は「あのみっちゃんに会えた!」とテンションが上がっている。乙輝先輩は「あなたのおばあちゃんじゃないの?」って驚いていたけど。
 物珍し気に縁側を見ていたり桜や小梅と遊んでいたみんなが、みっちゃんが持ってきた和菓子にくぎ付けになる。
「今日は、透明和菓子だよ」
「キレー!」
「寒天ゼリーの中に、青く色づけた白あんこが入っているの」
「かわいい!」
「キラキラがついてる!」
「銀箔もまぶしてあるのよ。さ、召し上がって」
 宇宙に浮かぶ地球みたい、と思った。こんなにかわいくておしゃれな和菓子があるなんて知らなかった。
 あたたかいほうじ茶を飲みながら、冷えた透明和菓子を食べる。
 いきなり知らないおばあちゃんの家に連れてこられた乙輝先輩も、おいしそうに透明和菓子を食べていた。
「いつもはスナック菓子やチョコレートばかり食べているから、新鮮でいいですね。どちらで購入されたのでしょうか」
「これは、私の手作りなの」
「え、手作り? 大変すばらしいです!」
 今朝の乙輝先輩の様子とは打って変わり、落ち着いた上級生のふるまいでみっちゃんとしゃべっている。人格変わっててすごい。どっちが本当の乙輝先輩なんだろうと思うけれど、どちらも本当の乙輝先輩なんだろうな。
 早くも食べ終えた栞奈ちゃんが、庭で桜と小梅とかけっこをしはじめた。まりなちゃんは透明和菓子の写真を撮ってばかりでなかなか食べ始めなくて、メグちゃんに「せっかく冷やしていただいたのにぬるくなるよ」と注意されていた。
 私は、その光景がなんだか平和で、うれしかった。
 今から私は、見栄を張ってしまったことについてみんなに謝ろうと思っている。でも、本当のことを話したら嫌われちゃうかもしれない。そうしたら、学校に行けなくなるかも。
 怖いけど、みんなをだましたまま生活することが難しいと感じ始めていた。
 ウソから出たまことにするにしても、人間万事塞翁が馬であるとしても、そこから始めないと……きっと楓真にも、私がずるいってことは伝わってしまっている気がして。
 正々堂々と、楓真に認めてもらいたい。
 そのためには、ズルい人間でいちゃいけないって思った。
「波奈ちゃん」
 思い悩んでいる最中に、みっちゃんに声をかけられる。
「あ……何?」
「ちょっと、お手伝いしてもらっていい?」
 よいしょ、とみっちゃんが立ち上がり、キッチンに向かっていく。私は、そのあとをついていった。
 キッチンに入ると、みっちゃんはくるりとこちらを向いた。
「私はね、言わなくてもいいと思う」
 前置きなしに言われ、驚く。みっちゃんは、私がこれからなにを言うかお見通しってことみたい。
「もちろん、後から知られた方がよほどダメージは大きいかもしれないけれどね。でも知られないままでいられる可能性も高いし……とにかく心配なのよ」
 心配するみっちゃんの姿に、胸が痛くなる。それと同時に、おかしさもある。
「そうだけど……こういうとき、大人って「正直でいなさい」って言うものじゃないの?」
「私はね、長い間生きてきて正しい行動をすることが良いとは限らないという場面を何度も見てきたの。言うほうも言われたほうも、真実をつまびらかにしたところでお互いつらいだけになるかもしれない」
 つまびらか。詳しくってこと。みっちゃんがよく使う難しい言葉、覚えてきたよ。それだけ、長い期間私のことを見てくれていたみっちゃんが、親身になって助言してくれている。すっごく、うれしいことだなとおもった。家族でなくても、家族みたいに心配してくれる人がいるって、心強い。
「そうだけど……見栄を張るためにに 『私の彼氏は楓真』ってウソをついたのは私だからさ。その結果嫌われても仕方ないし」
「みんなに、波奈ちゃんをきらいになるかウソをついたことを許すか、選ばせるのよ? 真実を話して自分だけスッキリすることが正解?」
「それは……」
 今まで、平和に楽しく過ごしてきたのに。友だちを嫌いになるかもって選択肢を、みんなに与えてしまうのは……イヤだった。
「そっか、そうなるのか」
 自分だけがスッキリしたくて、みんなに負担を与えるっていうのは違う気がした。
 全部謝らないと、前に進めないしかっこいい人になれないって思ってたけど、私のエゴなのかも……。
 言うべきか、言わないべきか……。
 その時、背後でカタンと音がした。私が振り返るとそこには乙輝先輩がいた。
「ごめんなさい、聞いちゃった」
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