大好きなのにゼッタイ付き合えない

花梨

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第三章

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 スーパーでの買い物は、なんだか同棲カップルみたいな気がしてドキドキした。
 ドラマで見る雰囲気。まぁ、制服姿だからほかの人からしたら「家のおつかいで来た子どもたち」って感じなんだろうけど。私のイメージの中では大人の同棲カップルってことで妄想を楽しんじゃった。
 自宅に戻り、さっそく夕食作りを開始。私ももちろん手伝うつもりでしれっとキッチンに立つ。
 お母さんは「じゃあお風呂掃除してくるから、わからないことがあったら聞いてね」とキッチンを出た。
「えっと、今日は……野菜炒めとポテトサラダを作るんだよね」
 買い出し中に、作るものを聞いた。派手さはない普通の家庭料理。
「うん。調理器具の場所とか教えてくれたら、それ以上は手伝わなくていいから」
 くぎを刺されてしまった。ひとりでがんばりたいってことか……。
「今日は、俺がちゃんと料理ができるところを見てほしいから。あと、いつもお世話になってるみんなにお礼もしたいし」
「はーい」
 楓真は立派だ。自立心があって、我が家の家族への感謝も惜しみない。
 こんな素敵な人と、私は釣り合うんだろうかって思ってしまう。
 客観的に考えれば、乙輝先輩のような人のほうが、見た目的には似合う……かも。
 中身だったら、もっと大人で頭が良くて、楓真を傷つけないような人。
 私はどちらも当てはまらない。見た目は子どもだし、見栄を張るためだけに楓真を傷つけてしまうような心も幼い女の子だもん……。
「波奈?」
「わっ!」
 いけない、また自己嫌悪して意識が飛んでいた。
「ザルってどこにある?」
「ここだよ」
 あーびっくりした。
 シンク下の扉を開いて中を見る。あれ、いつもここにしまってる気がしたんだけど……。
「ないなぁ」
「ここにあるの?」
 楓真がしゃがんで、私のすぐ隣でシンク下を覗き込む。
 近いし! 暗いし! なんなら指先がちょっと触れてますけど?
 ダメだよ、これじゃあ心臓がもたない。はやくザル出てこーい!
 願ったところで、ザルが「探しました?」と出てくるわけもない。
「よく見えないなぁ」
 楓真はボウルやフライパンをどかしながら中を捜索している。
 腕が触れる。吐息がかかる。
 なんか……なんか……なんか!
 どうしていいかわからなくて、ザルを探すことなく私はぎゅっと目を閉じた。こんなにドキドキのシチュエーションなのに、探しているのがザルっていうの、ちょっとおもしろいなんて思いながら。
「なに笑ってんの、波奈」
「えっ」
 楓真に声をかけられ、思わず目をあける。
 目の前に、楓真の顔があった。
 こんなに近くで楓真の顔を見るのは、お互い小学生時代にまでさかのぼる……かな。
 気付かないうちに少しずつ大人になって、それぞれパーソナルスペースを守るようになっていたんだ。
 どうしよう。息ができない。暗いのにきれいに輝く瞳が、じっと私をとらえて離さない。
 なぜ、そんなに私を見つめるの……?
「波奈」
 楓真が口を開いた途端。
「ただいまー! 今日楓真くんが来るって言うから駅前でチキン買ってきちゃった!」
 お父さんの声が響いた。
 驚きすぎた私は立ち上がろうとして、後頭部をシンクのヘリに頭をぶつけてしまう。
「いっ……たぁ」
 楓真を見ると、同じように後頭部を抑えて言葉もなくうずくまっている。
「あれ、どうしたのこんなところで」
 お父さんがキッチンを覗き込む。私は頭をおさえながら、言い訳めいた声で説明する。
「楓真が使うっていうから、ザルを、探してて。あ、今日は楓真が料理するっていうから」
「ふーん、そうなんだ」
 納得していない様子で、私と楓真を交互に見ている。なんとなく、怪しさを感じているみたい。勘の鋭いお父さん。
「あ、あった」
 頭をぶつけた拍子に、ころりとザルが出てきた。私をあざわらうかのように。「アタシのおかげでいい思いしたんじゃない?」なんて言っていそうな気がしないでもない。
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