想い出キャンディの作り方

花梨

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第四章

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「梨緒子も学校で大変なんだろうけれど、私の前では好きなことしゃべりなさい。大丈夫、ちょっとやそっとで傷つくような、ぬるい人生送ってないから。ババアって、いちいち傷ついていられないの。でもその代わり、私も思うことを言うわよ。お互い様ね」
 体が温まり頬を赤く染めた瑠々は、頼もしいことを言った。
 本当に、中身は六十九歳のおばあちゃん……なんだろうか。
 ありがたいな、と思っていると、瑠々は私の顔を覗き込んだ。何を、と思うとニヤニヤと人の悪い笑顔をしている。
「あのさ、梨緒子は淳悟のこと、好き?」
 サイダーを口に入れていなくて良かった。噴き出してしまう所だった。私は大慌てでコップを浴槽の縁に置く。
「そ、そんなことは……」
「いいじゃない、私にはなんでも言って。もちろん淳悟には言わないからさ。こういう恋バナ? っていうのも、お泊まり会の醍醐味だと思うわけ。ねーねー教えてよー。私の結婚の話も聞いたんだから、言いなさいよー」
「しつこい。ウザい! だから友達出来ないんでしょうが!」
 本当に思ったことを言ったけれど、瑠々はまったく気にしなかった。それが凄く楽に感じる。
「梨緒子っていう友達が出来たんだから結構よ。教えなさいよ。想い出作りに協力してちょうだい」
 ねぇねぇ、と子どもっぽくおねだりしてくる。そうなると、なんだか断りにくくなるから不思議だ。
「別に話してもいいけど。そんな、本気で好きってわけじゃないし。年だって離れてるから現実的でもない」
 自分に言い訳をするように、指で水面を波立たせながら話す。それを、瑠々は嬉々とした目で見ていた。
「さすがに十三と二十三じゃ犯罪だものね。もし淳悟が梨緒子のことを……ってなったら、軽蔑するわ」
「だよね……」
「けれど、あと五年。十八と二十八ならギリギリいけるんじゃない?」
「うーん、まぁたまに聞く話にはなるかな」
 従兄が、十代と二十代で出会った人と、五年後くらいに結婚したと聞いたことがある。
 十八になった自分を想像する。どんな人になっているのか想像つかない。
 淳悟さんの二十八才は、きっと素敵なんだろうな。
「年齢で諦めても仕方ないわ。とはいえ、今黙っていたら、後からきた女に掻っ攫われる。ちゃんと、伏線張っておくのよ」
 掻っ攫われるとか、伏線とか、不思議な単語が出てくる。これはミステリードラマ? 穏やかじゃない。
 しかし、人生の先輩の言う事だ。
 旅館で色々な人間ドラマを見てきたのだろうから、参考になる情報はいくらでもありそう。
「伏線、ってどうやるの」
 瑠々は肩をすくめた。
「私は親に決められた人と結婚して、それだけだから。恋愛事情に詳しくはないわね。一般論としては、好きだってアピールはしておいたほうがいいんじゃないかしら、ってこと。言わなきゃわかんないんじゃないかな。後は適当に頑張りなさい」
「何よ口ばっかり。頼りにならないんだから」
 期待して損した。私が口を尖らせると、瑠々は目を吊り上げた。この顔、怖い。
「聞きたいとは言ったけど、適切なアドバイスをするとは言ってないわ」
 好き勝手なことを。私は疑わしい目で瑠々を見る。
「本当に旅館の女将さんだったの? なんか、ガサツだし適当だし、怪しいなぁ。お客様へのおもてなし精神はどこ行ったの」
「あなたはお金払って泊まりに来たお客様じゃなくて、友達だから」
 瑠々から友達、って言ってほしくて、つい突っかかってしまっている。瑠々もそれに気がついてか、顔を柔らかいものに戻した。
 笑うと、とんでもなく可愛い。この顔でも、怒ると怖いというのは中身がよっぽどなんだろう。
 あーあ、と瑠々は照れ隠しのように伸びをした。
「夏場にお風呂場で語り合うもんじゃないわね。暑い! 先に上がるわ」
 瑠々はまた勢い良く湯船から出た。私は慌てて目をそらした。本物の瑠々に会ったら、この裸を思い出してしまうかもしれない。それは申し訳ない。
「ドライヤーは脱衣場にあるから使って。申し訳ないけど私はもう寝るから、また明日ね。お風呂に入ることも淳悟の静止を振り切ってきたの。まったく過保護よねぇ。予定もかなり変更せざるを得なくなったし」
 そう言い残し、瑠々は風呂場を出た。
「マイペースなんだから」
 サイダーを飲み干すと、私も浴槽から出た。淵にはトレイとコップが置いたまま。
 そっか。これ、片付けるのは私か。
 最初はお客様扱いだったのに、段々雑になってきたなぁと思いつつ、私はトレイを持って風呂場を出た。
 だって、友達だもん。おうちのことを手伝うのは当然。
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