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第三章
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「泣きそうな顔しないで。だって、表に出てから梨緒子が来るまで五分と経っていないはずよ」
「瑠々さん、昨日からほとんど寝ていないからですよ」
諌めるような淳悟さんの言葉に、瑠々は大げさに肩をすくめた。
「どうして寝ないの」
まさか、お泊り会にわくわくして、というわけではないだろう。
「別に。何もしてないわ」
ふん、と顔を背ける。
瑠々の代わりに淳悟さんが答えた。
「嘘ですよ。昨日から、梨緒子さんに食べてもらうんだってはりきって料理していたんです。ワインで肉を煮込んで。あと、お部屋のインテリアとか色々」
瑠々を見ると、さっきまで青白かった顔が赤くなっていた。
「余計なこと言わなくていい」
濡れタオルを広げて、顔を覆ってしまった。
「息できなくなるよ」
私がぴらっとタオルをはがすと、口を尖らせた瑠々は、大きな瞳で私を見た。
「絞ってあるから平気よ」
潤んだ瞳が可愛らしさを倍増させていて、同じ女の子ながらドキドキしてしまう。
「私のために、色々用意してくれていたの?」
ワインで肉を煮る、とはどういうことなのかよくわからないけれど、時間がかかりそうだ。インテリアまで気にして。色々手の込んだことをしてくれていたのだろう。
「ああ、うるさいうるさい」
手をひらひらさせ、私をしっしっと避けようとする。
ともかく、元気そうでよかった。私はほっと体の力を抜く。
「私、今日は家に帰ったほうがいいね」
寂しいけれど、瑠々に負担をかけさせたくない。しかし、瑠々は私の手首を力強く握った。随分パワーが戻ってきたものだ。さっきのか細い声が懐かしい。具合の悪い子に対して悪いけど、可愛かった。
「平気だって。お願い、帰らないで」
お願い!?
瑠々が、私にお願いだって。
別れを惜しむ子犬のような顔。そんな顔されたら帰れない。助けを求めるように、淳悟さんの顔を見る。困ったように眉を下げている
「瑠々さんは一度言ったら聞かないですからね。夕方まで大人しくしていて、体調が戻ったら、でどうですか?」
それまで眠っていてくださいよ、と淳悟さんが念を押すと、瑠々は笑顔で頷いた。
「わかった。眠たくなってきたし、大人しくしているわ。その代わり淳悟がちゃんと梨緒子をもてなすのよ。出来るわね?」
挑戦的な言葉に、淳悟さんははいはい大丈夫ですよ、と受け流した。
「お願いよ、梨緒子。眠っている間に帰らないでね」
「わかったって。いいから寝て」
淳悟さんは冷えすぎた室内のエアコン温度をあげ、瑠々の体にタオルケットをかける。そして飲みかけのスポドリをベッドサイドの小さな棚の上に置いた。
「じゃあ、後でね」
私の言葉に、瑠々は頷いて目を閉じた。私と淳悟さんはそっと部屋を出る。廊下が少し暖かく感じる。
「とりあえず、ダイニングへ」
促され、二人でダイニングへ向う。
淳悟さんは、ちらりと私の足元を見る。
「膝、汚れてしまいましたね」
さっきまで、ずっとベッドの脇で膝立ちをしていたからだ。いや、その前に瑠々を担ごうと地面に膝をついたから、その汚れか。私が手で払おうとしたその前に、淳悟さんがさっと手を伸ばして私の膝の汚れを払った。
「瑠々さんのために、綺麗な膝を汚してしまいましたね」
言っている言葉が頭に入らない。
淳悟さんが、私の膝に触った! 綺麗な膝って言っていたのは幻聴?
恥ずかしさで顔が熱い。何も言い返せないでいると、淳悟さんは私の顔を見てはっとした。
「すみません、足に触れるなんて。大変失礼しました」
「だ、大丈夫です」
私のことを、子どもだと思っているから出来るんだろうな。
大人の女の人には、絶対やらないだろう。そう考えると少し悲しい。
とはいえ、中学生は大人じゃないけど子どもでもないから、取り扱い注意ですよ、淳悟さん。
「瑠々さん、昨日からほとんど寝ていないからですよ」
諌めるような淳悟さんの言葉に、瑠々は大げさに肩をすくめた。
「どうして寝ないの」
まさか、お泊り会にわくわくして、というわけではないだろう。
「別に。何もしてないわ」
ふん、と顔を背ける。
瑠々の代わりに淳悟さんが答えた。
「嘘ですよ。昨日から、梨緒子さんに食べてもらうんだってはりきって料理していたんです。ワインで肉を煮込んで。あと、お部屋のインテリアとか色々」
瑠々を見ると、さっきまで青白かった顔が赤くなっていた。
「余計なこと言わなくていい」
濡れタオルを広げて、顔を覆ってしまった。
「息できなくなるよ」
私がぴらっとタオルをはがすと、口を尖らせた瑠々は、大きな瞳で私を見た。
「絞ってあるから平気よ」
潤んだ瞳が可愛らしさを倍増させていて、同じ女の子ながらドキドキしてしまう。
「私のために、色々用意してくれていたの?」
ワインで肉を煮る、とはどういうことなのかよくわからないけれど、時間がかかりそうだ。インテリアまで気にして。色々手の込んだことをしてくれていたのだろう。
「ああ、うるさいうるさい」
手をひらひらさせ、私をしっしっと避けようとする。
ともかく、元気そうでよかった。私はほっと体の力を抜く。
「私、今日は家に帰ったほうがいいね」
寂しいけれど、瑠々に負担をかけさせたくない。しかし、瑠々は私の手首を力強く握った。随分パワーが戻ってきたものだ。さっきのか細い声が懐かしい。具合の悪い子に対して悪いけど、可愛かった。
「平気だって。お願い、帰らないで」
お願い!?
瑠々が、私にお願いだって。
別れを惜しむ子犬のような顔。そんな顔されたら帰れない。助けを求めるように、淳悟さんの顔を見る。困ったように眉を下げている
「瑠々さんは一度言ったら聞かないですからね。夕方まで大人しくしていて、体調が戻ったら、でどうですか?」
それまで眠っていてくださいよ、と淳悟さんが念を押すと、瑠々は笑顔で頷いた。
「わかった。眠たくなってきたし、大人しくしているわ。その代わり淳悟がちゃんと梨緒子をもてなすのよ。出来るわね?」
挑戦的な言葉に、淳悟さんははいはい大丈夫ですよ、と受け流した。
「お願いよ、梨緒子。眠っている間に帰らないでね」
「わかったって。いいから寝て」
淳悟さんは冷えすぎた室内のエアコン温度をあげ、瑠々の体にタオルケットをかける。そして飲みかけのスポドリをベッドサイドの小さな棚の上に置いた。
「じゃあ、後でね」
私の言葉に、瑠々は頷いて目を閉じた。私と淳悟さんはそっと部屋を出る。廊下が少し暖かく感じる。
「とりあえず、ダイニングへ」
促され、二人でダイニングへ向う。
淳悟さんは、ちらりと私の足元を見る。
「膝、汚れてしまいましたね」
さっきまで、ずっとベッドの脇で膝立ちをしていたからだ。いや、その前に瑠々を担ごうと地面に膝をついたから、その汚れか。私が手で払おうとしたその前に、淳悟さんがさっと手を伸ばして私の膝の汚れを払った。
「瑠々さんのために、綺麗な膝を汚してしまいましたね」
言っている言葉が頭に入らない。
淳悟さんが、私の膝に触った! 綺麗な膝って言っていたのは幻聴?
恥ずかしさで顔が熱い。何も言い返せないでいると、淳悟さんは私の顔を見てはっとした。
「すみません、足に触れるなんて。大変失礼しました」
「だ、大丈夫です」
私のことを、子どもだと思っているから出来るんだろうな。
大人の女の人には、絶対やらないだろう。そう考えると少し悲しい。
とはいえ、中学生は大人じゃないけど子どもでもないから、取り扱い注意ですよ、淳悟さん。
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