おにぎりが結ぶもの ~ポジティブ店主とネガティブ娘~

花梨

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第五章

由加にもできること

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 おにぎり屋「結-musubu-」を繫盛させるにはなにをすべきか。SNSはあれからも継続している。時折「近所に住んでて気になっていたけど、どういうお店かわからなくて入りにくかった」といったお客さんが来店するきっかけになっているみたい。

 しかし、わざわざ遠方から人がくる、ということは無い。

 理一はお店に来ないし、SNSへのコメントもない。もう、一ヶ月くらい経ったか。

 朋子が変なお願いをしたせいで、お店に来にくくなっているのかもしれない。

「お母さんのせいじゃん……」

 ぼそり、と呟く。

 ゴールデンウイークに入り、お店はお休みになった。商売相手はカレンダー通りに休日がある会社がほとんどであるため、結もそれに則りカレンダー通りの休日になる。

 毎日、朝から晩まで朋子と行動を共にしているとやはりストレスもたまる。基本的に由加が朋子の言うことを聞いていれば丸く収まるのだが、時には言うことを聞けない内容もあるし、あえて反発したくなる時もある。もっとも、反発したところで朋子に勝てるわけでもないのだけど……。

 朋子は、ゴールデンウイークを利用して店舗の掃除をするらしい。由加は自由にしていいと言われたので、長期の休みであるゴールデンウイーク・お盆・年末年始は、貴重な息抜きの時間にすることにした。旅行に行こうかとも考えたが、春先に予約を取ろうとしてもどこも一杯で諦めてしまったのだけど。

 とりあえず、天気も良いからと散歩に出た。歩きながら、これからのゴールデンウイークの予定でも考えよう。

(お父さんに宅配ドライバーを頼むのは無理そうだし、あたしが免許を取るっていうのもありかな……)

 正直運転に自信がなく、運転免許を取ろうと思ったことはない。しかし、結で働いていてもできることはレジと品出しと掃除と調理器具洗いくらい。美味しい料理も作れないし、接客も朋子のようにお客を呼べるものでもない。

 それが、ずっと引っかかっていた。あいかわらず、なにもできずなにも努力していないことに。

 だったら、宅配くらい……。

 もんもんと考えていると、由加の横を自転車が通り過ぎた。背中に大きなリュックを背負った若い男性の背中は、あっという間に遠くなる。

(デリバリーの人か……そうか、自転車でも宅配はできるのか)

 あのリュックに、おにぎりセットはいくつくらい詰められるだろう? お弁当と違ってパッケージサイズが小さいから、結構な量が入るのではないだろうか。

 春の明るい陽射しの中、光明が見えた気がして世界に彩が加えられた気がした。
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