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298話、火曜日

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いささか独創的に鳴る目覚ましに起こされ身を起こす。目覚ましを止めて体を伸ばし、心地よさにかまけてしまう前にベッド下りて身支度を整える。今日の朝食は何にしようか?冷蔵庫と相談してみないことには始まらないが、とりあえずキッチンへ行けば何とかなるはず。


「……我が家のエンゲル係数については気にしない方向で」


夕飯の残りをいい具合に朝食へ変換、って思ってもしっかり雲雀と鶲が食べてしまうのでそういうのは無いからな。冷蔵庫の中をサッと見渡してみると、隅の方に忘れられているヨーグルトを見つけたので取り出す。賞味期限はギリギリだけど大丈夫そうだ。

他にも忘れていた果物も混ぜ込んでデザートにするとして、今は主食をどうするか考えよう。ええと、パンを焼いたりベーコン焼いたりバター塗ったりジャム塗ったりサラダを作ったりスープ作ったり、若干迷走している気もするけど美味しいと思うので許してほしい。迷走していても美味しさと栄養バランスは大丈夫だから。

朝食の準備がある程度の目処が付くと、まるで朝食の匂いに誘われるように雲雀と鶲がリビングへ駆け込んできた。ご飯は逃げないからゆっくりと来て欲しいけど、お腹の空いた2人には無理なんだろうなと少し諦めモード。元気な朝の挨拶はとてもいいと思うけどな。


「おはよう。ついでにこれ運ぶの手伝ってくれたら朝ご飯を食べる時間が早くなると思うぞ~」

「もっちろん早くつぐ兄ぃのご飯を食べられるか食べられないかは、私達にとって死活問題へと発展しかねないからね!」

「ん、運ぶ。私達のせめてもの役割」


雲雀と鶲に朝の挨拶を返したあと、キッチンカウンターに乗せられた料理のことを大げさに言えば2人は任せろと言わんばかりに動いてくれた。大事な大事な朝食だから当たり前か。飲み物などの細々したものも用意し、3人で椅子に着席していただきます。

目に見えて失敗した料理以外は割りとなんでも美味しい美味しいと食べてくれるので、自分の舌を信じるしかないときの方が多い。カレーにコーヒーやチョコレートを隠し味にしても美味しいだったし、ハヤシライスもビーフシチューも同じだった。つまりなにが言いたいかと言うと、迷走気味の朝食でもキチンと美味しいってことだ。


「今日の部活は朝練だけだから早く帰ってこれるよ!つまり早くゲームが出来るってこと。やったね」

「早く帰ってきても宿題があるんだよ、雲雀ちゃん」

「ぐぐぐっ、宿題は悪い文明だと思うんだ……」


話ながらも手早く2人の口へと吸い込まれていく朝食を眺めつつ、放課後仲の良い友達と遊ばなくて良いのかと、そんな考えが頭を過ぎっていく。まぁ俺も割りと普通とはかけ離れた学生時代を送っていたので、色々と言うのはやめておこう。押しつけ良くない。


「さて、そろそろ学校に行こう」

「そうだね!行ってくるよつぐ兄ぃ!」

「あぁ、気をつけてな」


俺は食べ終わった食器をキッチンへ持って行ったり、2人はお腹がこなれるまでゆっくりしていたと思えば、チラリとリビングの時計を見て素早く立ち上がり学校へ向かう。いつもは玄関まで見送ったりするけど、今日の見送りは無し。

いつも通りだと思うんだけど細々したことも多いし、早速アレやコレに取りかかろう。朝食用に使った食器を洗って食器棚に片付け、ホッと一息した瞬間にゴミの日を思い出したのは内緒。さも知ってましたけど、と優雅にゴミ出しをすれば家の中で慌てたのなんて誤差さ。ぼんやりしてたら雲雀と鶲があっという間に帰ってきてしまうから、気を取り直して家事諸々やっていきますか。


「あ、アレ買ってない!……スーパー行かないとなぁ」


洗濯物をするために洗面所に来たついでに、色々と覗き込めば洗剤やら何やらが不足気味なことに気付く。スーパーの特売日はいつだったっけ?いつでもやっている気がするんだけど、少しでもお安い価格で買いたくなってしまう主夫心。仕方ない。

あとは流れ作業のように家事をこなしつつ、朝だろうと昼だろうとすぐに考えることは夕飯のこと。さっき話に出たカレーかシチューか、ルーの在庫と相談して決めよう。カレーもシチューも中身がオリジナリティ溢れても割りと許せる。我が家だけかもしれないけど。

そんなこんなしていると時間は無情に進んでいき、さっきまで朝だったのにもう夕飯の支度を始めないといけない。世の中の戦友と言う名の皆さん達はどのような時間配分をしているんだろうか?前も悶々と考えて保留にしてたな、これ。


「よし、今日の献立はなんちゃって具だくさんカレーだ」


よしと決まればすぐに行動だ。ボーッとしていたらあっという間に雲雀と鶲が帰ってきてしまうだろう。まずは汗と砂埃にまみれて帰ってくるだろうから、お風呂の準備をしてから夕飯の支度だな。

まぁ掃除をしてあるからお風呂はスイッチ1つで沸くけど、夕飯は俺が作らないと始まらないから手早くいこう。冷蔵庫の奥にひっそりとしていたウインナーと食品棚の隅に置かれたコーン缶、多分もらい物であろう瓶詰めグリンピースもノリで入れてカレーが完成。ちゃんと味見したから変ではない、はず。

カレーだけでも良いとは思うが、何となく卵とワカメのスープも作ろうと冷蔵庫に手をかけた瞬間、玄関の方が慌ただしくなり雲雀と鶲の帰宅を知らせる。そっと帰ってきて驚かされるよりは全然マシだ。


「ただいまからのお風呂直行でーす」

「ん、ただいま。仲良し姉妹で良かった良かった」

「なんかちょっと不安なんだけど……!」


俺に聞こえるように大声で帰宅してきた2人は仲良く、というより面白く?会話をしながらお風呂へと直行した。前に1人ずつ入らないのか聞いてみたけど、時間の節約やら効率やらのらりくらりと言い逃れをしていてよく分からん。あとたまに俺を誘わないでほしい。

雲雀と鶲がお風呂から上がったらすぐに夕飯が食べられるよう、さっさと仕上げてしまわないと。そしてちょうど良いくらいのときに雲雀と鶲が扉を開けてリビングに入り、カウンターの上に並ぶ料理を手分けして運んでくれた。大した数はないけどね。


「それでねぇー、美紗ちゃんがねぇー、早苗さんとねぇー、戦ってでもゲーム権を勝ち取るって言ってたんだー」

「傍目から見てて楽しかった」

「ナルホドナー」


美味しそうに夕飯を食べてくれる雲雀と鶲を眺めつつ、聞いた会話に乾いた笑いで雑に返す。さすがゲームに命をかけると豪語する美紗ちゃんは、お母さんである早苗さんと戦うことに躊躇ないらしい。でもまぁ、美紗ちゃんが勝ちそうかな。


「じゃ、ゲームしよっかつぐ兄ぃ!」


他愛のない会話で食卓を彩りながら食べ終わり、雲雀と鶲はゲームの準備、俺は食器をキッチンのシンクへ。リビングに戻れば目を輝かせた雲雀に声をかけられる。その隣にいる鶲は両手でグッジョブしてるんだけど、よく分からないからとりあえず頷いておく。

好きな場所に座ると雲雀から手渡されたヘッドセットを被り、スタートボタンを押す。あとは身を任せるだけでいいので楽チン。

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