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【樹玄海暴走編】
第33話 アトリエ
しおりを挟む翌日。
巡とカーヤは、大老に指定された【漆魔】が住みかにしていると記された樹玄海を目指すこととなった。
まずは、カーヤの移動魔法で樹玄海の近くまで二人は移動するのだった。
そして、場面は桟橋の上の二人へと戻る。
「だぁぁぁぁ!!今度は雷かよっ!!どうなってんだここの天気は!!新世界か!?」
巡は桟橋のロープを握り、叫ぶ。
樹玄海は暴風時々落雷という天候になっていたのだった。
「とりあえず、この橋だけでも渡っちゃいましょ!!」
カーヤはそう言って巡の背中を押す。
「押すなってばっ!!わかった!歩く!歩くから!!」
こうして、揺れる桟橋を少しずつ歩き、何とか渡り切った二人は地面に膝をつき息を切らしていた。
「はぁ…はぁ…。なんとか、渡れたな…」
「えぇ…。死ぬかと思ったけど…」
巡は切れた息を整え、ゆっくりと立ち上がり、カーヤを見る。
「あー、えっと…その、さっきは言い過ぎた…かも。ごめん」
そう言って、巡はカーヤに手を差し伸べる。
カーヤはその手を少し笑い握る。
「私もごめん。私もムキになっちゃって。でも…そうやって思ってること、声に出して言ってくれて嬉しい」
カーヤは巡の手を引き、立ち上がりながら続ける。
「これから一緒に生きていくんだから、言い合いも喧嘩もたくさんするかもしれないけど、その度にこうやってお互い悪かった所を認めて仲直りしていけばもっと分かり合えるでしょ?あなた」
その言葉を聞いて、巡は答える。
「…おうっ!」
しかし、そんな二人の雰囲気をかき消すように、近くの森に雷が落ちる。
「のわぁっ!!?おい、カーヤ!とりあえず行こう!ここにいたら流石に危ない!」
巡はカーヤの手を引っ張り、その場を後にする。
しばらく森を進むと、さっきまでの悪天候が嘘のように晴れ渡った薄紅色の空になった。
「マジでなんなんだ、ここ…」
次々と移り変わる天候に、疲労困憊の巡。
すると、カーヤは足を止める。
「あなた。あれ…」
カーヤはそう言って、目線の先を指差す。
巡が指差された先に視線を向けると、そこには木を組み合わせて作られた小屋のようなものが立っていた。
「あれが…【漆魔】の家…?」
巡はそう呟き、カーヤの方を振り向く。
「いいか、行くぞ?」
「ええ」
二人は意を決し、その小屋へと近づく。
入り口と思われる扉の前に二人は立ち、巡は息を長めに吐いてノックをした。
「あ、あの!大老様の紹介で来ました!風弦の魔法術士カーヤ・エヴェル・トラーラとその魔導志【颯魔】麻道巡です!」
中から返事はない。
「えっと…大老様からお話があったと思います!憂弦の魔導志、【漆魔】であるあなたのところで魔法に関することを教えてもらいに来ました!」
やはり中からは返事がない。
「いないのかしら」
カーヤはそう言って、巡を押しのけドアノブに手をかける。
「ちょっ!カーヤ、なにしてんの?勝手に開けちゃダメだろ!」
しかし、カーヤは聞かずに扉を開ける。
中は木でできたイスとテーブルがあり、壁につけられた棚には分厚い小難しそうな本が敷き詰められていた。
家というよりアトリエと言った方が差し支えないような部屋だった。
しかし、やはり中には誰の姿もなかった。
「なんだ、やっぱり誰もいないのね」
そう言ってカーヤはズカズカと中に入っていく。
「だから勝手に入っちゃまずいって!」
躊躇のないカーヤを引き戻すため、巡も中に入る。
すると、入り口の扉がバタンとしまった。
「!?」
巡が驚き、入り口の方へ視線を向けると、そこには一人の男が立っていた。
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