【完結】お嬢様を困らせる様な方はこのアメリアが許しません!〜侍女アメリアの秘密の日記帳〜

桐野湊灯

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憂鬱なパーティー

8.グラスの割れた音

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 大勢の悲鳴、割れたグラスの音、人の頭が割れる音。

 こんなことが起きるなんて、誰が予想できたと言うのでしょう。

 目の前に広がる地の海、何も移さなくなった瞳はじっと、降り注ぐシャンデリアを見つめているようでした。ガラス玉のような瞳に、無常に光の粒が注いでいます。

 彼女自身もこんなことになるなんて思っても見なかったのでしょう。口をぽっかりと開けて、まるで「どうして」と訴えかけているようです。

 全てがスローモーションのようでした。けたたましい悲鳴と、ドレスを翻しながら階段を転げ落ちていく。脱げたパンプスが階段の途中のあちこちに転がっていました。

 直前まで手にしていたであろうグラスは手から離れて、少し遠くで割れています。

「エミリア……!」

 ダン様は悲痛な声をあげてエミリア様に駆け寄っていました。その後すぐに、フレデリック様が大きな声で叫ぶように言いました。

「誰か医者を……! 医者を呼んでくれ」

 すぐに近くにいた侍女が医者をよびました。みんな呆然と彼女が横たわる姿を遠巻きに見ています。

 フレデリック様はしきりにエミリア様の呼吸を確かめていました。私もすぐに駆け寄りました。けれど、私にはもう彼女が息をしていないことに気づいていました。あんなに血を流しているのだもの。

「……可哀想に」

 私は思わず声に出してしまいました。だって、まだ彼女は若い。ダン様はエミリア様を抱き起こしてたので、スーツや両手、頬にも血がついていました。目には涙を浮かべて、痛々しい様子でした。フレデリック様は青ざめた顔をして、どこか一点を震えながら見ています。

 視線の先には、ジジ様が立っていました。

 目の前の状況は惨劇、というのに相応しいと思います。それなのに、ジジ様はなんてことないようにアップルパイを頬張っていらっしゃいました。それも、バニラアイスの上にミントが乗っています。

 私は背筋が凍るような思いでした。何より私が恐ろしかったのは、階段の上にいた人物が誰か、ということです。

 二つのグラスを手に持ったまま、可哀想なほど真っ白な表情でカタカタと震えています。目の前の出来事に頭が追いついていないようでした。瞳にいっぱい涙を浮かべて、今にも倒れてしまいそうです。

「クロエお嬢様……」

 今、そちらに行きます。そう声を掛けると、クロエお嬢様は糸の切れた人形のようにその場にぺったりと座り込んでしまいました。

 こんなことになるなんて、本当に誰が想像できたでしょうか。
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