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 ーー本当にいいのか?

 町まで共に下りていくと言って聞かないレオを振り切って、レックスはそっと屋敷を出た。

 あれほど心配するレオも珍しい。ギリギリまでレックスの後ろをついて歩いていたので、レックスは気が気ではなかった。ヴァンダー家の隠し部屋の秘密が明るみにでるのも、いずれ時間の問題かもしれない。それはきっといいことなのだろう。

「デイジー様、おはようございます」

 扉を優しくノックしてから声を掛けると、部屋の奥から快活な声で返事をするのが聞こえた。

 ドアを開くと、デイジーの支度はすっかり終わっていた。部屋は出るばかりになっていて、ベッドも綺麗に片付けられている。

「おはよう、レックス。支度は出来てるわ」

 彼女の足元を見ると、持ってきた荷物がコンパクトに収められていた。

「お早いですね、流石です。気分は落ち着きました?」

 レックスは心配そうに訊ねる。

「ええ、何から何まで本当にありがとう」

 デイジーはさっぱりした顔で笑った。

「いいえ、では家に帰りましょう。レオ様がお待ちです」

「……彼、怒っているかしら」

「いいえ、でもとても心配しています」

 手紙を見つけるや否や取り乱していたこと、一時間毎に迎えに行こうと言い出すことをこっそり教えると、デイシーは照れたように笑った。

「帰ったらレオとちゃんと話をするわ。手紙を書いてみたけど、渡さないままかもしれない。みんな口で言ってしまいそうだもの」

 握られた手紙は、内容までは読み取れなかったが、何度も書き直した跡があるようだった。

「良いのです、紙に書き出すことで気持ちが落ち着くと言いますからね」

 これはシャーリーン夫人からの受け売りだ。私生活でレックスも真似ているが効果がある。

 デイジーは再び、持っていた手紙に目を遣った。シャーリーン夫人のお気に入りだった小さな青い花が散らされている。

「……シャーリーン夫人、お会いしてみたかったわ」

 細い傷が薄く残る机を撫でて、デイジーは呟いた。

「この紙に字を書いているとね、不思議と誰かに暖かく見守られているような、そんな気持ちになるのよ」

 デイジーはシャーリーンが見守ってくれていたのではないかと言う。

「きっと、すぐにお二人は親しくなったでしょうね」

 お世辞でも何でもなく、レックスは心からそう思っていた。二人はとても気が合っただろう。それを微笑ましそうに見守る旦那様の優しいお顔が目に浮かぶ。

「帰りましょう」

 はっとレックスが顔を上げると、デイジーは穏やかに笑っていた。

 
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