7 / 13
7.
しおりを挟む
「レオ様、お客様でございます」
「客? 誰だ」
レオは訝しげに眉を顰めた。今日は一日人と会う約束など入っていないはずだった。約束もなしにレックスが招き入れるような人物とは誰だろう。
「アッシャー様でございます」
「通してくれ」
そう言うと、待ち構えていたようによく見知った男が部屋に入ってきた。
「久しぶりだな、レオ」
両手を広げて近づいてくるので、レオもそれに答える。二人は熱い抱擁をして、固く握手をした。
「ああ、アッシャー」
柔らかくてふわふわとした髪が特徴のアッシャー•トンプソンはレオと古くからの友人だ。小さな山を越えた隣町に住んでいる。
「最近見かけないから思わず訪ねてきてしまったよ」
彼が最近見ないというのは、夜に酒場で見ないという意味だろう。
「ああ、あまり家を開けるのは妻に申し訳ないからな」
「随分と人は変わるものだな」
アッシャーは目を丸くして心の底から驚いているようだ
った。
「昔のレオからは想像出来ない言葉だ 」
「確かにな、昔の私はそうだった。でも今は違う」
レオは決まり悪そうに笑った。
「そうか、レオにそこまで言わせるなんて、さぞ素敵な女性なんだろうな。町で一番の美人を嫁に貰ったんだろう」
「ただ美しいだけじゃないんだ。彼女は」
「心底惚れてるんだな」
アッシャーは楽しそうに笑った。
「夫人は出掛けているようだな、レックスに聞いた。是非お会いしたかったのに」
「アッシャーが来ることを知っていたら、妻もきっと会いたかったはずだ」
「……レオ、雰囲気が変わったな」
アッシャーはまじまじとレオの顔を覗き込んだ。
「昔に比べると随分と顔色がいい。目元のクマもないし、肌ツヤもいい。髪もさらさらじゃないか」
「ああ、デイジーが食事と睡眠にかなり気を遣ってくれてな、最近は体も軽いような気がする」
レックスからも同じようなことを指摘された。元々レオは自分に頓着がない男だったし、レックスからの忠告も今までは右から左に受け流していた。
デイジーの言うことをきちんと聞くようになってみたら体の調子が随分と良くなった。
美人の凄む顔は怖いからな。
自分と頭一つ分以上身長が違うのに、彼女は怯むことなくまっすぐ目を見てレオに意見する。
顔だけの女だと思っていたが、実際の彼女は賢くて強い女性だった。
あんなに真っ直ぐに自分のことを考えてくれる女性はいなかった。
「大事にしろよ」
「言われなくてもそうするさ」
彼女を大事にしたい、こんな気持ちになるなんて想像もしていなかった。もっと冷め切った関係になると思っていたのだ、父と母のように。
「それより本題はなんだ? 急ぎの用事でもあるのか」
「ああ、最近金持ちを狙った輩が町出ているらしい」
「物盗りか?」
「いや、石を投げたり矢を射ったり……嫌がらせのつもりかもしれない。だが怪我人も出ているからな、いずれも軽い怪我だ。お前も気を付けろよ。昨夜も誰かが襲われたと、酒場で話しているのを聞いた」
「物騒だな……、最近国の情勢も傾いてる。こういう時はみんな荒むものだからな」
「みんな鬱憤が溜まってるんだろう。数は増えてるようだ。いずれこの町も危険になるだろう」
アッシャーの表情は暗く沈んでいる。子爵と言っても何も行動を起こそうともしない者もいるが、彼は町をより良くしようと考えている。だからこそ、今の状況を憂いているのだろう。
「ありがとう。お前も暗くなる前に山を越えろ、気を付けろよ」
「ああ、またな。式の日取りが決まったら教えてくれよ。
次は是非、ヴァンダー夫人もご一緒に食事でもしよう。」
「ああ、もちろんだ」
アッシャーは用事が済むと、ひらひらと手を振って部屋を出て行った。
「客? 誰だ」
レオは訝しげに眉を顰めた。今日は一日人と会う約束など入っていないはずだった。約束もなしにレックスが招き入れるような人物とは誰だろう。
「アッシャー様でございます」
「通してくれ」
そう言うと、待ち構えていたようによく見知った男が部屋に入ってきた。
「久しぶりだな、レオ」
両手を広げて近づいてくるので、レオもそれに答える。二人は熱い抱擁をして、固く握手をした。
「ああ、アッシャー」
柔らかくてふわふわとした髪が特徴のアッシャー•トンプソンはレオと古くからの友人だ。小さな山を越えた隣町に住んでいる。
「最近見かけないから思わず訪ねてきてしまったよ」
彼が最近見ないというのは、夜に酒場で見ないという意味だろう。
「ああ、あまり家を開けるのは妻に申し訳ないからな」
「随分と人は変わるものだな」
アッシャーは目を丸くして心の底から驚いているようだ
った。
「昔のレオからは想像出来ない言葉だ 」
「確かにな、昔の私はそうだった。でも今は違う」
レオは決まり悪そうに笑った。
「そうか、レオにそこまで言わせるなんて、さぞ素敵な女性なんだろうな。町で一番の美人を嫁に貰ったんだろう」
「ただ美しいだけじゃないんだ。彼女は」
「心底惚れてるんだな」
アッシャーは楽しそうに笑った。
「夫人は出掛けているようだな、レックスに聞いた。是非お会いしたかったのに」
「アッシャーが来ることを知っていたら、妻もきっと会いたかったはずだ」
「……レオ、雰囲気が変わったな」
アッシャーはまじまじとレオの顔を覗き込んだ。
「昔に比べると随分と顔色がいい。目元のクマもないし、肌ツヤもいい。髪もさらさらじゃないか」
「ああ、デイジーが食事と睡眠にかなり気を遣ってくれてな、最近は体も軽いような気がする」
レックスからも同じようなことを指摘された。元々レオは自分に頓着がない男だったし、レックスからの忠告も今までは右から左に受け流していた。
デイジーの言うことをきちんと聞くようになってみたら体の調子が随分と良くなった。
美人の凄む顔は怖いからな。
自分と頭一つ分以上身長が違うのに、彼女は怯むことなくまっすぐ目を見てレオに意見する。
顔だけの女だと思っていたが、実際の彼女は賢くて強い女性だった。
あんなに真っ直ぐに自分のことを考えてくれる女性はいなかった。
「大事にしろよ」
「言われなくてもそうするさ」
彼女を大事にしたい、こんな気持ちになるなんて想像もしていなかった。もっと冷め切った関係になると思っていたのだ、父と母のように。
「それより本題はなんだ? 急ぎの用事でもあるのか」
「ああ、最近金持ちを狙った輩が町出ているらしい」
「物盗りか?」
「いや、石を投げたり矢を射ったり……嫌がらせのつもりかもしれない。だが怪我人も出ているからな、いずれも軽い怪我だ。お前も気を付けろよ。昨夜も誰かが襲われたと、酒場で話しているのを聞いた」
「物騒だな……、最近国の情勢も傾いてる。こういう時はみんな荒むものだからな」
「みんな鬱憤が溜まってるんだろう。数は増えてるようだ。いずれこの町も危険になるだろう」
アッシャーの表情は暗く沈んでいる。子爵と言っても何も行動を起こそうともしない者もいるが、彼は町をより良くしようと考えている。だからこそ、今の状況を憂いているのだろう。
「ありがとう。お前も暗くなる前に山を越えろ、気を付けろよ」
「ああ、またな。式の日取りが決まったら教えてくれよ。
次は是非、ヴァンダー夫人もご一緒に食事でもしよう。」
「ああ、もちろんだ」
アッシャーは用事が済むと、ひらひらと手を振って部屋を出て行った。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~
Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!?
公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。
そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。
王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、
人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。
そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、
父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。
───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。
(残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!)
過去に戻ったドロレスは、
両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、
未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。
そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる