上 下
6 / 15

6.リアムの憂鬱

しおりを挟む
「まぁ、これを私に?」

 コレットは大きな目をさらに大きくさせて、少女のようなあどけなさでにっこりと微笑んでいた。

 リアムはパン屋の店の外から、そんなコレットの様子を隠れて盗み見ていた。

ーーどうして私が隠れなければいけないのか。

 店の外の大きな木の陰は、かろうじてベルを鳴らさずに中の会話を盗み聞くことが出来る。
 店に入ろうといた瞬間、コレットとレミが親しそうに話しているのを見つけてしまい、自然と身を隠してしまったのだ。
 堂々と入ればいいじゃないか、男らしくない。そう自らを奮い立たせてみても、その場から足が動かなかった。

「ああ、本当は上手い魚でも持って来れたら良かったんだけど」

 レミは照れ臭そうに俯いていた。
 背ばっかり高くてほっそりと頼りない。ふわふわとした髪は少年のようだし、顔立ちだって優しそうだが男らしくない。
レミの横を通って、中から若い女性が二人外に出てきた。リアムは慌ててその身を隠した。

「彼、いい男だったわね。見ない顔だけど」

「この前コレットに町に来たばかりだと言っていたのを聞いたわ」

「まあ、そうなの。彼もコレット目当てなのかしらね」

 二人は楽しそうに笑いながら、リアムのすぐ横を通り過ぎて行った。

 あんな男のどこがいいのだろう。

 レミはどうやら大きな貝殻を土産に持ってきたらしい。コレットは愛おしそうに貝殻を撫でた。

「とても綺麗ね」

「こうすると波の音が聞こえる」

 レミがその貝殻をコレットの耳に当てると、コレットの顔がパッと輝いた。

「本当だわ……素敵ね、ありがとう。大切に飾るわ」

 その嬉しそうな笑顔を見て、リアムの気持ちは複雑だった。コレットの幸せそうな笑顔を見るのは嬉しい。でも、彼女を幸せにするのはいつだって自分でありたい。

 自分はいつからこんなに心の狭い人間になってしまったのだろうか。

 誰にでも優しい君を好きになったのに、今では誰にでも同じように優しい君に腹が立ってしまう。

 大切に飾るわ、なんてあんな風に微笑まれて落ちない男なんていないだろう。

「あのさ、コレットもし良かったら今週末に良かったら食事でもどうかな?」

「今週末?」

 断るよな、断るだろう?

 よく知らない男だぞ、コレット。と、リアムは心の中で祈るように語り掛けていた。

 どうやらコレットはデートに誘われているらしい。当然断ると思っていたのに、なんだかとんとん拍子で進んでいくではないか。

「そうね、少し待ってね……あら、リアム」

 耐えきれずにドアを開けると、案の定ベルが鳴る。レミは心なしか気まずそうな表情を浮かべている。

 最近コレットはリアムを見つけると嬉しそうに手を振ってくれる。それは紛れもなくリアムへ向けられた"好意"の目で、それに仄暗い喜びを感じていた。

「やあ、コレット」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レンタル悪女を始めましたが、悪女どころか本物の婚約者のように連れ回されています。一生独占契約、それってもしかして「結婚」っていいませんか?

石河 翠
恋愛
浮気相手の女性とその子どもを溺愛する父親に家を追い出され、家庭教師として生計を立てる主人公クララ。雇い主から悪質なセクハラを受け続けついにキレたクララは、「レンタル悪女」を商売として立ち上げることを決意する。 そこへ、公爵家の跡取り息子ギルバートが訪ねてくる。なんと彼は、年の離れた妹の家庭教師としてクララを雇う予定だったらしい。そうとは知らず「レンタル悪女」の宣伝をしてしまうクララ。ところが意外なことに、ギルバートは「レンタル悪女」の契約を承諾する。 雇用契約にもとづいた関係でありながら、日に日にお互いの距離を縮めていくふたり。ギルバートの妹も交えて、まるで本当の婚約者のように仲良くなっていき……。 家族に恵まれなかったために、辛いときこそ空元気と勢いでのりきってきたヒロインと、女性にモテすぎるがゆえに人間不信気味だったヒーローとの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】出戻り令嬢の奮闘と一途な再婚

藍生蕗
恋愛
前夫との死別で実家に帰ったブライアンゼ伯爵家のレキシーは、妹ビビアの婚約破棄の現場に居合わせる。 苦労知らずの妹は、相手の容姿に不満があると言うだけで、その婚約を望まないようだけど。 ねえ、よく見て? 気付いて! うちの家、もうお金がないのよ?? あなたのその、きんきらきんに飾り立てられたドレスもアクセサリーも、全部その婚約相手、フェンリー様の家、ラッセラード男爵家から頂いた支度金で賄っているの……! 勘違いな妹に、貴族の本分を履き違えた両親。 うん、何だか腹が立ってきたぞ。 思い切ったレキシーは、フェンリーに別の相手を紹介する作戦を立てる。 ついでに今までの支度金を踏み倒したいなんて下心を持ちつつ。 けれどフェンリーは元々ビビアと結婚する気は無かったようで…… そうとは知らずフェンリーの婚活に気合いを入れるレキシーは、旧知の間柄であるイーライ神官と再会する。 そこでイーライとフェンリーの意外な共通点を知り、婚約者探しに一役買って貰う事にしたのだが…… ※ 妊娠・出産に対するセンシティブな内容が含まれます ※ 他のサイトでも投稿しています

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

公爵閣下の契約妻

秋津冴
恋愛
 呪文を唱えるよりも、魔法の力を封じ込めた『魔石』を活用することが多くなった、そんな時代。  伯爵家の次女、オフィーリナは十六歳の誕生日、いきなり親によって婚約相手を決められてしまう。  実家を継ぐのは姉だからと生涯独身を考えていたオフィーリナにとっては、寝耳に水の大事件だった。  しかし、オフィーリナには結婚よりもやりたいことがあった。  オフィーリナには魔石を加工する才能があり、幼い頃に高名な職人に弟子入りした彼女は、自分の工房を開店する許可が下りたところだったのだ。 「公爵様、大変失礼ですが……」 「側室に入ってくれたら、資金援助は惜しまないよ?」 「しかし、結婚は考えられない」 「じゃあ、契約結婚にしよう。俺も正妻がうるさいから。この婚約も公爵家と伯爵家の同士の契約のようなものだし」    なんと、婚約者になったダミアノ公爵ブライトは、国内でも指折りの富豪だったのだ。  彼はオフィーリナのやりたいことが工房の経営なら、資金援助は惜しまないという。   「結婚……資金援助!? まじで? でも、正妻……」 「うまくやる自信がない?」 「ある女性なんてそうそういないと思います……」  そうなのだ。  愛人のようなものになるのに、本妻に気に入られることがどれだけ難しいことか。  二の足を踏むオフィーリナにブライトは「まあ、任せろ。どうにかする」と言い残して、契約結婚は成立してしまう。  平日は魔石を加工する、魔石彫金師として。  週末は契約妻として。  オフィーリナは週末の二日間だけ、工房兼自宅に彼を迎え入れることになる。  他の投稿サイトでも掲載しています。

私も一応、後宮妃なのですが。

秦朱音@アルファポリス文庫より書籍発売中
恋愛
女心の分からないポンコツ皇帝 × 幼馴染の後宮妃による中華後宮ラブコメ? 十二歳で後宮入りした翠蘭(すいらん)は、初恋の相手である皇帝・令賢(れいけん)の妃 兼 幼馴染。毎晩のように色んな妃の元を訪れる皇帝だったが、なぜだか翠蘭のことは愛してくれない。それどころか皇帝は、翠蘭に他の妃との恋愛相談をしてくる始末。 惨めになった翠蘭は、後宮を出て皇帝から離れようと考える。しかしそれを知らない皇帝は……! ※初々しい二人のすれ違い初恋のお話です ※10,000字程度の短編 ※他サイトにも掲載予定です ※HOTランキング入りありがとうございます!(37位 2022.11.3)

猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない

高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。 王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。 最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。 あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……! 積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ! ※王太子の愛が重いです。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました

葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。 前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ! だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます! 「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」 ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?  私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー! ※約六万字で完結するので、長編というより中編です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...