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16.最後の日
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エリオットはポカンと口を開けたまま、呆けたようにリーゼの顔を見つめている。
「何を……? 」
「おっしゃってる意味がわからない、と言ったんです」
もう一度、気の抜けた彼にも分かるようにはっきりと口を動かす。
「どうしてこれからも二人で一緒にいられるなんて思えるのですか?」
息を深く吸い込んで、用意していた言葉を伝える。
「……貴方とは離婚します」
一瞬奇妙な間があって、エリオットは吹き出した。
「冗談言うな。女の君から離婚なんて……」
「ええ、そうね」
彼女がすっと扉の向こうに視線を向ける。そこには、神父と数人の記者と、鑑定士が揃っていた。それから何人かの領民も、騒ぎに便乗して野次馬に来ていた。
「私への愛は本物だなんて、どの口が言えたんでしょう。代々伝わるという指輪の偽物を作る前によく考えるべきだったわね」
記者はバシャバシャとエリオットを撮影しながら、熱心にメモを取っている。
「本物はこれから渡そうと思っていたんだ……やめろ……!撮るな、書くなよっ!」
紳士的で穏やかな、領民思いのエリオット・リドリー公爵はもういない。
「貴方が言ったんでしょう」
耳元で優しく教えてあげる。
「みんな、ゴシップに飢えているって。人々が飢えないようにするのも領主としての役目……でしたよね?」
「何を……!」
エリオットはリーゼに掴み掛かろうとして、何かに気付いたようにふっと意地悪そうに笑った。
「一度離婚したら、次の相手を見つけるのなんて難しいぞ、リーゼ」
「構いませんわ、それにもう一つ。貴方言ってましたよね」
リーゼは小さくなったエリオットを見下ろしながら言った。
「私は"理想の女とはほど遠いから、婚約は破棄したい"と」
エリオットはグッと言葉に詰まったようだった。明日の朝、この事件は公になるだろう。
エリオットは罪は犯していないものの、領民からは糾弾されるだろう。プティット国王の耳にでも入れば、爵位は剥奪される。
「良かったじゃありませんか。爵位も無くなれば貴方の理想通りの女の子、ティナと同格です。結婚するのにもピッタリなのでは?」
ーー私はしばらくの間は"可哀想な元妻"だ。
愛人との浮気、偽物の結婚指輪。正直悲劇のヒロインを気取っているようで嫌だったが、可哀想な妻女である方が後に有利だと助言してくれたのは神父様だった。
エリオットは今度こそ黙ったままだった。
「彼女、どこへ行ったのでしょうね。だから追いかけた方が良いと言ったのに……」
おそらく彼女はもう戻って来ない。ティナは結婚をしようと言わなかったかもしれないが、それは彼のことを心から愛しているからだった。困らせたりすることで愛情を測ったり、愛情表現の仕方は下手くそだったが、素直な子だった。
それが暴走してこんなことになってしまった訳だが、最初から大切にしてあげていたらこんなことにはならなかったはずだ。
「何を……? 」
「おっしゃってる意味がわからない、と言ったんです」
もう一度、気の抜けた彼にも分かるようにはっきりと口を動かす。
「どうしてこれからも二人で一緒にいられるなんて思えるのですか?」
息を深く吸い込んで、用意していた言葉を伝える。
「……貴方とは離婚します」
一瞬奇妙な間があって、エリオットは吹き出した。
「冗談言うな。女の君から離婚なんて……」
「ええ、そうね」
彼女がすっと扉の向こうに視線を向ける。そこには、神父と数人の記者と、鑑定士が揃っていた。それから何人かの領民も、騒ぎに便乗して野次馬に来ていた。
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「何を……!」
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「一度離婚したら、次の相手を見つけるのなんて難しいぞ、リーゼ」
「構いませんわ、それにもう一つ。貴方言ってましたよね」
リーゼは小さくなったエリオットを見下ろしながら言った。
「私は"理想の女とはほど遠いから、婚約は破棄したい"と」
エリオットはグッと言葉に詰まったようだった。明日の朝、この事件は公になるだろう。
エリオットは罪は犯していないものの、領民からは糾弾されるだろう。プティット国王の耳にでも入れば、爵位は剥奪される。
「良かったじゃありませんか。爵位も無くなれば貴方の理想通りの女の子、ティナと同格です。結婚するのにもピッタリなのでは?」
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エリオットは今度こそ黙ったままだった。
「彼女、どこへ行ったのでしょうね。だから追いかけた方が良いと言ったのに……」
おそらく彼女はもう戻って来ない。ティナは結婚をしようと言わなかったかもしれないが、それは彼のことを心から愛しているからだった。困らせたりすることで愛情を測ったり、愛情表現の仕方は下手くそだったが、素直な子だった。
それが暴走してこんなことになってしまった訳だが、最初から大切にしてあげていたらこんなことにはならなかったはずだ。
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