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4.運命

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 真っ白な城壁に囲まれた城は最近改築されたばかりらしい。近代的でどこか上品なその城に、リーゼは目を奪われていた。

 手入れの行き届いた広い庭に、満開の薔薇が鮮やかに咲いている。それも何種類もあって、リーゼがまだ見たこともないような縞模様の薔薇まであった。

「美しいわ……」

「お気に召していただけましたか?」

 穏やかで優しい声に振り向く。

「貴方は……」

「初めまして、ミス・リーゼ・ブレアム。私はエリオット・リドリー。どうかエリオット、と呼んでください」

 お会い出来て嬉しい、彼はそう言うと丁寧にお辞儀をした。

「エリオット、お招きいただけて光栄です」

 裾を摘んで、同じようにこちらも丁寧に膝を折ってお辞儀をする。

「良かったらパーティーがはじまるまでの間少し散歩でもしませんか?」

「ええ、喜んで。それから、私のこともリーゼと呼んでください」

 リーゼ、彼は温かい声で囁いた。胸の奥がむず痒くなるような感覚だった。

 エリオットがそっと、腕を差し出した。思っていたよりも逞しい腕にリーゼは寄り添った。

 エリオットは背はすらっと高いが随分と華奢に見えた。ピッタリと体に沿った燕尾服が、彼の細い腰を一層際立たせていた。柔らかそうな茶色い髪と、同じ色の瞳。想像していたよりも上品で儚げな青年だった。

「素敵なお庭ですね、なんだか空気も澄んでいるようだわ」

「田舎ですからね、レーヴ国と比べたら何もない」

「そんなことないわ、自然が沢山あって美しい国です。長閑で憧れるわ」

 エリオットは優しく微笑んだまま、薔薇を一本手折ってリーゼに差し出した。

「……いい香り」

 顔を近付けると、甘い香りがした。

「……リーゼは薔薇が好き?」

「ええ、とても」

 エリオットから貰った一輪の薔薇は、鮮やかなピンクで花弁も艶やかだった。

「そう、リドリー家の家紋には薔薇があしらわれているんだ。これは母から譲って貰った。家に代々伝わるものらしい」

 エリオットがポケットから古い指輪を取り出した。紋章と、アクセントにルビーが施されている。

「……素敵ね」

 エリオットは跪いて、そっとリーゼの手を取ると、左手の薬指にそっと嵌めてしまった。それは緩くもなくきつくもない、まるで最初からリーゼのものだったように馴染んでいた。

「君とは初めて会った気がしないな、運命みたいだ」

 それに気付いたエリオットが嬉しそうに笑った。

「この指輪は君に持っていて欲しい……私と結婚してくれないか」

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