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15.また逢えたら

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 お気に入りの淡い水色のドレスを着たエミリアは期待に胸をふくらませていた。新しい出会いを期待しながらも、心のどこかでクラウスとの再会を望んでいた。

 運命的で、刺激的な出会いだった。

 遠く離れたこの町で、いるはずもない彼の姿を探してしまう。自分の当てずっぽうな占いを、運命だと言ってくれた人。

 もしもまた会えたら、本当に運命だと思う。

「やぁ、エミリア、私と踊っていただけますか」

 まさか、とエミリアの胸が高鳴った。懐かしい声に振り返る。

「……公爵、光栄ですわ。もちろん」

「クラウスと呼んで、あの日みたいにね」

 差し伸べられた手を取ると、初めて触れ合った気持ちがしなかった。

「……まさか、また会えるなんて思わなかったわ」

「君を探しに来たんだよ、あの小さな帽子とタロットカードは置いてきたの?」

 クラウスが悪戯っぽく笑った。

「意地悪ね」

 クラウスは穏やかに微笑んでいる。くるくると回るたびに、全員の視線を受けていることに気付く。それもそのはずだ、この場にいる女性全員が彼と踊りたがっているのだから。

「君とまた話がしたいと思った、運命なら必ず見つけられると信じていたよ。思ったよりも早く見つかった」

「運命かしら……」

 そう言うと、クラウスは胸のポケットから一枚のハンカチを取り出した。それは失くしていたと思っていたハンカチだった。薔薇の模様が付いていて、"エミリア・ソーン"と刺繍がされている。

「ああ、運命だ。必死に探したんだぞ、"このハンカチ、見たことありませんか"って」

「まさか……冗談でしょう?」

 そんなこと、本当にあるのだろうかと俄かに信じられす、エミリアは思わず笑った。
 クラウスは否定するでもなく、意味ありげに微笑んでいる。

「もしかして、と思ったが……まさかソーン家の御令嬢だったとはね」

「驚いた?」

「ああ、驚いたよ」

 二人で踊っていると、まるで時間を忘れてしまいそうだった。息が合うとはまさにこのことで、二人で一つの生き物になったようだった。

「なんだか夢みたいだわ、貴方とこうして会えるなんて……」

 エミリアは夢見心地で呟いた。これが果たして運命なのか、彼の努力の賜物なのかは分からないが、こんなに嬉しいことはない。

「エミリア、君のことをもっとよく知りたい」

 クラウスはエミリアの目を真っ直ぐに見つめていた。優しい瞳が揺れている。繋いだ手は温かく、お互いの体温が溶け出しているようだった。

 クラウスはしばらくエミリアを見つめると、柔らかい頬にそっとキスをした。
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