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4.もう一度会えたら
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メレデス夫人のガーデンパーティーは、主にみんなで花を愛でることに重きを置いている。出されるお菓子も、紅茶にも庭で咲いた花が使用されている。花を見て、花を食べる。
「まるで兎になった気分だ」
オーランドはそう言って顔を顰めた。
「そうか? 俺は結構好きだけど……。ところで、ウェスは?」
「ああ、まだ無理だって」
恋人と別れてから、ウェスはすっかり社交界に顔を出さなくなった。少しは傷も癒えたかと思ったが、まだもう少し時間が掛かりそうだ。
「まぁ、復帰初めてのパーティーがメレデス夫人主催では気が重いよな」
春の恒例行事である彼女のパーティーは退屈なことで有名だ。特に、まだ花に興味を持てないシルヴェスタやオーランドにのような若い男性には甘ったるい花の浮かんだ紅茶も苦痛だった。
「まぁ、オーランドにシルヴェスタ。楽しんでる?」
メレデス夫人は頭に鮮やかな花の冠を載せてにこやかに歌うように声を掛けた。
「メレデス夫人、もちろんです」
そう答えると、満足そうに笑ってまた軽やかに去っていった。
「あれ、本物かな」
オーランドは花の冠に興味津々のようだった。
ーーああ、こんな日に彼女に会えたら。
シルヴェスタはふと、周りを見回してみた。次に会えたら、絶対にデートに誘うんだ。
「ええ、そうよ。お代はワンコインよー!」
よく通る声が風に乗って聞こえてくる。
「聞こえるか、オーランド」
シルヴェスタは声のする方へ導かれるように歩き出した。
「チップは別よー!」
人集りを掻き分けていく。彼女の周りには真っ白な花が咲いていて、彼女の可愛らしい声に応えるように揺れている。
「……可憐だ」
ドレスと同じ色のショールで口元を覆いながら、何やら女性を励ましているようだった。
「いいのよ、気にしないで。また話を聞かせてね、大丈夫よ。貴方ならきっと上手くいくわ」
女性は感激したように何度も頷き、彼女に握手を求めていた。彼女は穏やかに微笑みながら丁寧にそれに応えている。
近くで様子を見ていた二人組の女性が何やらひそひそと囁いているのが聞こえた。
「あの子、この前のパーティーでも見たわ」
「結構評判良いみたいよ、話し相手としてね。占いは……てんで当たらないみたいだけど」
口元を隠しながらくすくすと笑う。そんなこと、エミリアの耳には一切届いていないようだ。
「さぁ、お次はどなた?」
彼女が元気よく手を上げる。
「あら……」
彼女がこちらを見て、挑戦的な目をして笑った。
ーー覚えていてくれたのか。
シルヴェスタは感激の余り涙が出そうだった。ウェスやオーランドならともかく、女性にこうして覚えてもらっていたのは初めてかもしれない。
「そこの背の高いお兄さんね、こっちへ来て」
……背の高い?
ハッと隣を見ると、オーランドが小さく手を上げていた。指名されたことに、素直に喜んでいるようだった。
「オーランド?」
「まるで兎になった気分だ」
オーランドはそう言って顔を顰めた。
「そうか? 俺は結構好きだけど……。ところで、ウェスは?」
「ああ、まだ無理だって」
恋人と別れてから、ウェスはすっかり社交界に顔を出さなくなった。少しは傷も癒えたかと思ったが、まだもう少し時間が掛かりそうだ。
「まぁ、復帰初めてのパーティーがメレデス夫人主催では気が重いよな」
春の恒例行事である彼女のパーティーは退屈なことで有名だ。特に、まだ花に興味を持てないシルヴェスタやオーランドにのような若い男性には甘ったるい花の浮かんだ紅茶も苦痛だった。
「まぁ、オーランドにシルヴェスタ。楽しんでる?」
メレデス夫人は頭に鮮やかな花の冠を載せてにこやかに歌うように声を掛けた。
「メレデス夫人、もちろんです」
そう答えると、満足そうに笑ってまた軽やかに去っていった。
「あれ、本物かな」
オーランドは花の冠に興味津々のようだった。
ーーああ、こんな日に彼女に会えたら。
シルヴェスタはふと、周りを見回してみた。次に会えたら、絶対にデートに誘うんだ。
「ええ、そうよ。お代はワンコインよー!」
よく通る声が風に乗って聞こえてくる。
「聞こえるか、オーランド」
シルヴェスタは声のする方へ導かれるように歩き出した。
「チップは別よー!」
人集りを掻き分けていく。彼女の周りには真っ白な花が咲いていて、彼女の可愛らしい声に応えるように揺れている。
「……可憐だ」
ドレスと同じ色のショールで口元を覆いながら、何やら女性を励ましているようだった。
「いいのよ、気にしないで。また話を聞かせてね、大丈夫よ。貴方ならきっと上手くいくわ」
女性は感激したように何度も頷き、彼女に握手を求めていた。彼女は穏やかに微笑みながら丁寧にそれに応えている。
近くで様子を見ていた二人組の女性が何やらひそひそと囁いているのが聞こえた。
「あの子、この前のパーティーでも見たわ」
「結構評判良いみたいよ、話し相手としてね。占いは……てんで当たらないみたいだけど」
口元を隠しながらくすくすと笑う。そんなこと、エミリアの耳には一切届いていないようだ。
「さぁ、お次はどなた?」
彼女が元気よく手を上げる。
「あら……」
彼女がこちらを見て、挑戦的な目をして笑った。
ーー覚えていてくれたのか。
シルヴェスタは感激の余り涙が出そうだった。ウェスやオーランドならともかく、女性にこうして覚えてもらっていたのは初めてかもしれない。
「そこの背の高いお兄さんね、こっちへ来て」
……背の高い?
ハッと隣を見ると、オーランドが小さく手を上げていた。指名されたことに、素直に喜んでいるようだった。
「オーランド?」
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