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2.彼女のこと

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「彼女って本当にすごいんだ」

 興奮気味にシルヴェスタは友人二人に聞かせている。彼らはシルヴェスタの幼馴染で、ほとんどの毎週末にこうして集まっては朝まで語り合うのだ。仕事のこと、将来のこと、分かり合えるのはやはり男同士が一番だ。

 本当ならもう一人、一緒に朝まで騒いでくれる仲間がいたのだが、彼は結婚してこの町を出て行ってしまった。結果、残るこの三人で"独り身同盟"を結成したと言う訳だ。なにも寂しいからではない、仲間は大切だという決意表明みたいなものだ。

「俺がバーチ家の長男だってことを当てたんだ」

「……お前のこと知ってたんじゃないか?」

 友人の一人、オーランド・ブランシェは、アルコールで頬を染めながらヘラッと笑った。背が高くて男の目から見ても大層な色男なのだが、何せ恋人と長続きしない。

「そもそも、シルヴェスタだって占いなんて信じてないだろう? まったく、お前は美人に弱いから……まさかもう壺を買わされたなんて言うなよ?」

「確かに、何度も言った通り彼女は美人だ。それに、彼女はワンコインで視てくれる」

「なかなか良心的じゃないか」

「オーランド、お前も彼女に視てもらったらどうだ?」

 そう言うと、オーランドは肩を竦め無言で首を横に振った。

「……そう言うところだぞ、きっと」

 彼が振られる理由はいつも"おもしろくないから"だ。優しくて気が利くし、話のネタだって面白いものをたくさん持っているはずなのに、何故かそれを女性の前では生かせない。旅行好きだから、今まで行った国の話なんてネタの宝庫のはずなのに、「それで、貴方はその国で何をしたの?」なんて女性に熱っぽく聞かれたら、黙って微笑むことしかできない。

 いつも自分たちに話すみたいに、葉っぱ一枚を身に付けて川に飛び込んだといえば女性はイチコロなのにな、ともう一人の友人は心底残念そうに言うのだ。

「……俺は占いなんて信じない」

 それが本日ようやく口を開いたのウェス・ジェームズだ。伯爵家の長男で、八年付き合った彼女と婚約していた。彼は冬に婚約者と別れたばかりだ。その後の恋人とも続かず、このところは塞ぎ込んでいる。
 伯爵家という肩書きだけでなく、話も面白いし容姿も整っている。がっしりした体格で俺様気質、それなのに婚約者に一途、というギャップだらけなところが魅力的に映るのか、仲間内では老若男女問わず一番モテると言ってもいい。
 顔を上げていればいいこともある、と言っているのだが、未だに元婚約者を忘れられないらしい。

「第一、お前が食べることが好きだなんて見りゃ誰でもわかる。お前、パーティーに参加すると必ずポケットに何かしら食べ物詰めてるだろう? そもそも、食べることが嫌いだって奴の方が稀だ」

 ウェスは久しぶりに話したと思ったらすでに呂律が回っていなかった。

「それからさみしがりやだって? 人間誰だってさみしがりやさ。優しい人ですって? そりゃ誰でも優しいさ」

 フンっと鼻で笑うと、隣に座るオーランドの飲みかけの酒を一気に飲み干した。

 以前のウェスは占いを信じている方だったが、こうもツイていないことが続くと心も荒んでいるのだろう。

 側から聞いたらギョッとするかもしれないが、ウェスがこうしてどんな形でも怒りを吐き出しているのを見ると安心する。

「そうだな、でもさ彼女本当に美人なんだよ。話も面白いし、みんなも気に入ると思う」

「美人なら仕方がないよ……」

 ウェスは途端にジルヴェスタにしなだれかかった。まったく情緒不安定な奴だ。オーランドも少し困ったような、それでいてホッとしたような表情を浮かべていた。

「文句が出るのは元気な証拠だな……おかえり独り身同盟、さよなら独り身同盟」

 そう言って、オーランドはちらりとシルヴェスタを見た。

「まだそんなんじゃないよ、それに次にいつ会えるかも分からない」

 寝息を立てるウェスに気遣いながら、二人は囁くように会話をする。

「パーティーの余興で金を稼いでいるなら、意外とすぐに会えるかもしれないぞ。もうすぐメレデス夫人のガーデンパーティーがあるだろう、あの招待状を見ると春だなぁって思うよ」

 いつもだったら憂鬱でしかないのに。パーティーが待ち遠しいなんて、こんな社交的な気持ちになるのは初めてだ。

「……次に会ったらデートに誘おうと思う」

「頑張れよ」

 オーランドは気合を入れるように、シルヴェスタの肩を叩く。アルコールが回って加減を知らない檄が痛かった。
 
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