2 / 16
2.彼女のこと
しおりを挟む
「彼女って本当にすごいんだ」
興奮気味にシルヴェスタは友人二人に聞かせている。彼らはシルヴェスタの幼馴染で、ほとんどの毎週末にこうして集まっては朝まで語り合うのだ。仕事のこと、将来のこと、分かり合えるのはやはり男同士が一番だ。
本当ならもう一人、一緒に朝まで騒いでくれる仲間がいたのだが、彼は結婚してこの町を出て行ってしまった。結果、残るこの三人で"独り身同盟"を結成したと言う訳だ。なにも寂しいからではない、仲間は大切だという決意表明みたいなものだ。
「俺がバーチ家の長男だってことを当てたんだ」
「……お前のこと知ってたんじゃないか?」
友人の一人、オーランド・ブランシェは、アルコールで頬を染めながらヘラッと笑った。背が高くて男の目から見ても大層な色男なのだが、何せ恋人と長続きしない。
「そもそも、シルヴェスタだって占いなんて信じてないだろう? まったく、お前は美人に弱いから……まさかもう壺を買わされたなんて言うなよ?」
「確かに、何度も言った通り彼女は美人だ。それに、彼女はワンコインで視てくれる」
「なかなか良心的じゃないか」
「オーランド、お前も彼女に視てもらったらどうだ?」
そう言うと、オーランドは肩を竦め無言で首を横に振った。
「……そう言うところだぞ、きっと」
彼が振られる理由はいつも"おもしろくないから"だ。優しくて気が利くし、話のネタだって面白いものをたくさん持っているはずなのに、何故かそれを女性の前では生かせない。旅行好きだから、今まで行った国の話なんてネタの宝庫のはずなのに、「それで、貴方はその国で何をしたの?」なんて女性に熱っぽく聞かれたら、黙って微笑むことしかできない。
いつも自分たちに話すみたいに、葉っぱ一枚を身に付けて川に飛び込んだといえば女性はイチコロなのにな、ともう一人の友人は心底残念そうに言うのだ。
「……俺は占いなんて信じない」
それが本日ようやく口を開いたのウェス・ジェームズだ。伯爵家の長男で、八年付き合った彼女と婚約していた。彼は冬に婚約者と別れたばかりだ。その後の恋人とも続かず、このところは塞ぎ込んでいる。
伯爵家という肩書きだけでなく、話も面白いし容姿も整っている。がっしりした体格で俺様気質、それなのに婚約者に一途、というギャップだらけなところが魅力的に映るのか、仲間内では老若男女問わず一番モテると言ってもいい。
顔を上げていればいいこともある、と言っているのだが、未だに元婚約者を忘れられないらしい。
「第一、お前が食べることが好きだなんて見りゃ誰でもわかる。お前、パーティーに参加すると必ずポケットに何かしら食べ物詰めてるだろう? そもそも、食べることが嫌いだって奴の方が稀だ」
ウェスは久しぶりに話したと思ったらすでに呂律が回っていなかった。
「それからさみしがりやだって? 人間誰だってさみしがりやさ。優しい人ですって? そりゃ誰でも優しいさ」
フンっと鼻で笑うと、隣に座るオーランドの飲みかけの酒を一気に飲み干した。
以前のウェスは占いを信じている方だったが、こうもツイていないことが続くと心も荒んでいるのだろう。
側から聞いたらギョッとするかもしれないが、ウェスがこうしてどんな形でも怒りを吐き出しているのを見ると安心する。
「そうだな、でもさ彼女本当に美人なんだよ。話も面白いし、みんなも気に入ると思う」
「美人なら仕方がないよ……」
ウェスは途端にジルヴェスタにしなだれかかった。まったく情緒不安定な奴だ。オーランドも少し困ったような、それでいてホッとしたような表情を浮かべていた。
「文句が出るのは元気な証拠だな……おかえり独り身同盟、さよなら独り身同盟」
そう言って、オーランドはちらりとシルヴェスタを見た。
「まだそんなんじゃないよ、それに次にいつ会えるかも分からない」
寝息を立てるウェスに気遣いながら、二人は囁くように会話をする。
「パーティーの余興で金を稼いでいるなら、意外とすぐに会えるかもしれないぞ。もうすぐメレデス夫人のガーデンパーティーがあるだろう、あの招待状を見ると春だなぁって思うよ」
いつもだったら憂鬱でしかないのに。パーティーが待ち遠しいなんて、こんな社交的な気持ちになるのは初めてだ。
「……次に会ったらデートに誘おうと思う」
「頑張れよ」
オーランドは気合を入れるように、シルヴェスタの肩を叩く。アルコールが回って加減を知らない檄が痛かった。
興奮気味にシルヴェスタは友人二人に聞かせている。彼らはシルヴェスタの幼馴染で、ほとんどの毎週末にこうして集まっては朝まで語り合うのだ。仕事のこと、将来のこと、分かり合えるのはやはり男同士が一番だ。
本当ならもう一人、一緒に朝まで騒いでくれる仲間がいたのだが、彼は結婚してこの町を出て行ってしまった。結果、残るこの三人で"独り身同盟"を結成したと言う訳だ。なにも寂しいからではない、仲間は大切だという決意表明みたいなものだ。
「俺がバーチ家の長男だってことを当てたんだ」
「……お前のこと知ってたんじゃないか?」
友人の一人、オーランド・ブランシェは、アルコールで頬を染めながらヘラッと笑った。背が高くて男の目から見ても大層な色男なのだが、何せ恋人と長続きしない。
「そもそも、シルヴェスタだって占いなんて信じてないだろう? まったく、お前は美人に弱いから……まさかもう壺を買わされたなんて言うなよ?」
「確かに、何度も言った通り彼女は美人だ。それに、彼女はワンコインで視てくれる」
「なかなか良心的じゃないか」
「オーランド、お前も彼女に視てもらったらどうだ?」
そう言うと、オーランドは肩を竦め無言で首を横に振った。
「……そう言うところだぞ、きっと」
彼が振られる理由はいつも"おもしろくないから"だ。優しくて気が利くし、話のネタだって面白いものをたくさん持っているはずなのに、何故かそれを女性の前では生かせない。旅行好きだから、今まで行った国の話なんてネタの宝庫のはずなのに、「それで、貴方はその国で何をしたの?」なんて女性に熱っぽく聞かれたら、黙って微笑むことしかできない。
いつも自分たちに話すみたいに、葉っぱ一枚を身に付けて川に飛び込んだといえば女性はイチコロなのにな、ともう一人の友人は心底残念そうに言うのだ。
「……俺は占いなんて信じない」
それが本日ようやく口を開いたのウェス・ジェームズだ。伯爵家の長男で、八年付き合った彼女と婚約していた。彼は冬に婚約者と別れたばかりだ。その後の恋人とも続かず、このところは塞ぎ込んでいる。
伯爵家という肩書きだけでなく、話も面白いし容姿も整っている。がっしりした体格で俺様気質、それなのに婚約者に一途、というギャップだらけなところが魅力的に映るのか、仲間内では老若男女問わず一番モテると言ってもいい。
顔を上げていればいいこともある、と言っているのだが、未だに元婚約者を忘れられないらしい。
「第一、お前が食べることが好きだなんて見りゃ誰でもわかる。お前、パーティーに参加すると必ずポケットに何かしら食べ物詰めてるだろう? そもそも、食べることが嫌いだって奴の方が稀だ」
ウェスは久しぶりに話したと思ったらすでに呂律が回っていなかった。
「それからさみしがりやだって? 人間誰だってさみしがりやさ。優しい人ですって? そりゃ誰でも優しいさ」
フンっと鼻で笑うと、隣に座るオーランドの飲みかけの酒を一気に飲み干した。
以前のウェスは占いを信じている方だったが、こうもツイていないことが続くと心も荒んでいるのだろう。
側から聞いたらギョッとするかもしれないが、ウェスがこうしてどんな形でも怒りを吐き出しているのを見ると安心する。
「そうだな、でもさ彼女本当に美人なんだよ。話も面白いし、みんなも気に入ると思う」
「美人なら仕方がないよ……」
ウェスは途端にジルヴェスタにしなだれかかった。まったく情緒不安定な奴だ。オーランドも少し困ったような、それでいてホッとしたような表情を浮かべていた。
「文句が出るのは元気な証拠だな……おかえり独り身同盟、さよなら独り身同盟」
そう言って、オーランドはちらりとシルヴェスタを見た。
「まだそんなんじゃないよ、それに次にいつ会えるかも分からない」
寝息を立てるウェスに気遣いながら、二人は囁くように会話をする。
「パーティーの余興で金を稼いでいるなら、意外とすぐに会えるかもしれないぞ。もうすぐメレデス夫人のガーデンパーティーがあるだろう、あの招待状を見ると春だなぁって思うよ」
いつもだったら憂鬱でしかないのに。パーティーが待ち遠しいなんて、こんな社交的な気持ちになるのは初めてだ。
「……次に会ったらデートに誘おうと思う」
「頑張れよ」
オーランドは気合を入れるように、シルヴェスタの肩を叩く。アルコールが回って加減を知らない檄が痛かった。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
【完結】予定調和の婚約破棄~コリデュア滅亡物語~
愛早さくら
恋愛
「アサニファティス・モニエステ! 俺はこの時をもってお前との婚約を破棄する!」
本来なら輝かしいはずの夜会の席で、私にそう言いつけてきたのはここ、コリデュアの第二王子であり、王太子でもあるシュネアムセス殿下だった。
「かしこまりました、謹んでお受けいたします」
私は粛々とそれを受ける。この後どうなるのか、わかっていながら。
きっと、わかっていないのだろう殿下に、心の中でそっとさよならを告げた。
夜会の場で告げられた婚約破棄。それは果たして誰にとっての予定調和だったのか。
二人の少女の想いが錯綜し、一つの結末へと導いた。
・以前から言っていた、よくある婚約破棄物の皮をかぶった、別名「コリデュア滅亡物語」です。
・さっと短く終わる予定。
・ざまぁは主に王太子と王妃に対して。主人公は婚約破棄された侯爵令嬢とそのきっかけの一つとなったテンプレヒロイン的成り上がり令嬢の二人です。
・いつもの世界観だけど、「魔法がある異世界」ぐらいの認識でOKですし、他作品(BL)ともリンクしていますが、そちらは読まなくても大丈夫なように書く予定です。
たとえこの想いが届かなくても
白雲八鈴
恋愛
恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。
王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。
*いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。
*主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
【完結】双子の国の行く末〜女王陛下になるべく育てられたはずの王女が見た景色〜
まりぃべる
恋愛
姉ヴァレリアと妹ヴェロニカは双子の王女。
長子が、身分や仕事や財産を継承するのが当たり前の思想が浸透している国であったから、その双子の長女ヴァレリアが国を継ぐと思われていました。
しかし、それは変化し、次の陛下は…?
☆姉ヴァレリアが主人公です。
☆現実世界に似たような名前、思想などがありますが、全く関係ありません。
☆カラーが異なる為、ヴェロニカの過ごした日々とは別の作品にしました。
そちらを読まなくても分かると思います。思い掛けず長くなりましたがこちらはショート寄りです。
☆全19話です。書き上げていますので、随時投稿していきます。
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です
朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。
ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。
「私がお助けしましょう!」
レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる