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6.迎え

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「そろそろ準備はいいかな、シャロン王女様」

 時間通りに現れたオーウェンは、シャロンをマジマジと見つめたか思うと素直に感心しているようだった。

「綺麗じゃないか……」

「ありがとう」

 金色に輝く髪を丁寧に編み緩く纏めている。あの日と同じスズランの髪飾りを挿してもらった。ドレスは黒のシルクのドレスだ。体にピッタリと沿いながら、裾は人魚の様に広がっている。
 これは前回フローレアが最後まで悩んだドレスの内の一着だった。少し動きにくいことと、座ると少し窮屈だという難点があるが、立っているとそのシルエットが美しいという。
 
「なんだ、もう支度出来たのか」

「お兄様、行ってまいりますわ」

 スペンスもドレスアップされたシャロンをしげしげと見ていた。

「オーウェン、妹を頼むぞ。シャロン、あまり遅くなるんじゃないぞ。帰りは迎えを出すから」

「いいよ、帰りは俺が送る」

「いいや、こちらから迎えを出す」

 スペンスは頑なに譲らなかった。未だにシャロンのことを子ども扱いしているのだ。普段あまり心配している素振りを見せないから、こう言う時に大事にされているのだと実感する。

 いいな、と真面目な顔で念を押されるので思わず笑ってしまう。

「ええ、わかった。ありがとう、お兄様」

「それじゃあ、スペンス王子。シャロン王女を責任持ってご案内致します」

 オーウェンは恭しく頭を下げた。

「ああ、気をつけて。……シャロン、それは……?」

 スペンスは何か気付いた様にシャロンの髪飾りを指差した。

「そんな髪飾り持っていたか?」

「ああ、フローレアに借りたのよ。お兄様にも見せたでしょう、前回の晩餐会でもつけていたのよ」

 そう言われてみると、フローレアとシャロンが楽しそうに何かを見せてきた。でも、あの時は色んな物を見過ぎてしまっていた。ナントカというネックレスとか、ナントカで出来たブローチだとか、髪飾りだとか。

 マルセルのように違いの分からない男だと言われるのが
怖くて、全て分かった様に聞いていたが、あまりにもたくさんの物を見させられてどれが何のことなのかもよく分かっていなかった。

「……それ、スズランか?」

「……他に何に見えるのよ。帰ったらフローレアに言いつけてやるわ」

 フローレアの手作りなんだからね、そう言うと、いつもの如く悪魔のような笑顔を浮かべていた。スペンスが困っているのを見るのが楽しくて仕方ないのだ。

 あの夜、フローレアは髪飾りをつけていなかった。纏めた髪にリボンを結んでいたからだ。

ーーそれならあの夜、マルセルが心を奪われた御令嬢というのは……?

「思ったより身近にいたんだな……」

 正体が分かってスッキリした反面、スペンスは少しだけ複雑な気持ちになっていた。
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