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家族になりました。
日菜の苦悩
しおりを挟むお袋と連絡を取り合ってから大地くんのお姉さんが日菜を迎えに来るのは早かった。
「うちの日菜ちゃんを迎えに来ました。」
こいつ、正気か?と思いながらとりあえず話し合うために俺は部屋へと入れた。
「日菜ちゃんはどこ?連れて帰れれば、うちはそれでいいから。」
部屋をキョロキョロと見渡しながらそう言うそのおばさん。
こいつが日菜を……
腹が立って仕方がない。
「日菜は返せません。」
俺はそう言った。
それ以上の言葉は出てこなかった。
「あなた自分が何してるのか分かってるの!?誘拐よ!訴えたりしないからもう日菜ちゃんを返して。」
そのおばさんは少し声を荒げてそういった。
なぜそんなにこいつは日菜にこだわるんだ。
ここまで傷付けるほど恨んでるようなのに。
「日菜は高熱、低血糖、脱水症状…今動かすのは危険だと僕が判断しました。」
俺は正直にさっきの診断結果をその人に説明するとその人は顔色を変え、黙り込んだ。
「ついでに体中のあちこちにつけられた痣。それに関してお話を伺いたいと思っております。」
俺が話を聞こうとすると自分は何も知らなかったかのような振る舞い方で再びその人は口を開く。
「…私がやったとでも?そんな証拠どこにもないじゃないの!」
正直、日菜が真実で寝てるからあまりデカイ声を出すのはやめてほしい……。
「転んだりするには不自然な場所が多い。それにこんなになるまで何もしない時点で監督責任だってある。」
俺がそこまで言うとようやくその人は口を割った。
そして俺はその時初めて知った。
二人の命日が日菜の誕生日だったってこと。
プレゼントを買いに行く途中で事故に遭ったってこと。
その真実を日菜は知っていた。
それを誰にもぶつけることも出来ず一人で抱え苦しんでいたんだ。。
本当ならば家族三人で楽しく祝うはずだった誕生日なのに…
その日が日菜にとって忘れられない嫌な思い出になってるいるのだ……。
「……それなのに。あの子、葬儀でも全然泣くこともしないじゃない。あんな親不孝者いない方がいいのよ。大地じゃなくてあの子が死ねば良かったんだわ。」
そこまで聞いたところで俺のイライラはピークを迎え、バンッと思い切り机を叩いた。
その女は先程までの威勢とは違いビクリと体を強張らせた。
「…あいつがどんな思いでいたか、てめぇ知ってんのかよ。」
「……」
「あの日からずっと毎日思い詰めて、夜も眠れなくて、毎晩吐いて、うなされ……日菜が今までどんな気持ちで……」
感情的なあまりだんだんと込み上げてくる涙をグッと堪えて俺は日菜が寝てるのにも関わらず怒鳴り散らした。
「さっきからあなた日菜…日菜…ってあなた日菜ちゃんの父親にでもなったつもり??」
女は憎たらしささえ感じる顔でそう聞いてきた。
父親?何を言っているんだ、この人は…。
そんなのなれるわけがない。
「父親になんかなれねぇよ。日菜の父親は大地くんだけだ。でも…日菜は…」
日菜は……俺にとって特別な存在になりつつあるんだ。
そう言おうとしたその時
「パパ…みたいな…存在だよ。」
ドアの方からそう聞こえてきた。
「日菜……」
日菜はものすごい剣幕でそう言ってきたが恐怖からなのか体が小刻みに震えているのがわかる。
「あなた…本当になんて親不孝者なのかしら!」
パパみたいな存在だと言った日菜にその女は怒鳴りはじめた。
日菜は俺らの声が聞こえて慌てて寝室から飛び出てきたのか、さっきまでしてたはずの点滴が引っこ抜かれていた。
まだ完全に回復したわけではなく日菜はドアにしがみついたような状態でその女を睨んだ。
「いいわ。ならその子は三百万であなたに売ってあげる。」
「てめぇ人をモノみたいに扱うんじゃねぇよ。まぁいい。三百万…明日までに用意する。その代わり今日は日菜をこちらで預からせてもらう。」
三百万で日菜がこいつから解放されるなら安いモノだ。
にしてもこいつ…
本当に人間なのか疑いたくなるほど舐め腐ってやがる。
「分かったわ。」
「太陽、ダメだよ。そんなお金……」
日菜は心配そうな顔で俺の元へゆっくりと歩いてきた。
「大丈夫だ。日菜。…明日お金を受け取ったらもう日菜にちょっかいは出さないと約束してくれ。」
「ええ。分かったわ。」
そう言ってその女は出て行った。
女が立ち去るのを確認すると俺は日菜をゆっくりと抱き抱え、再び寝室のベッドへと横にさせた。
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