【完結】精神的に弱い幼馴染を優先する婚約者を捨てたら、彼の兄と結婚することになりました

当麻リコ

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「あなたは何も関係ないんだから帰ったら?」

リリィが当然のようにアーロンの隣に座ろうとするのを、侯爵夫人が阻止してくれる。
彼の逆隣にはすでに私が座っていて、リリィが悔しそうに私を睨みつけた。

「勝手に入り浸っていたから迷うことはないわね。お帰りはあちらよ」

綺麗な手で玄関方面を指し示す。
もともとリリィに対して物凄く優しいというわけではなかったけれど、私とミュスカーの話を聞いたあとだからかいつもよりも手厳しい。

「おばさまったらひどいわ! リリィはいつもみたいにみんなとお話したいだけなのに」

けれどリリィは帰ろうとせず、じわりと目に涙を浮かべて被害者ぶってみせる。
これだけ冷たい視線を受けてもめげないのは素直にすごいと思う。

「……まぁいい。多少はリリィにも関わる話だ。そこに座らせておけ」

ハノーヴァー卿が冷たい口調で言って、ミュスカーの隣を示す。
リリィはやや不服そうにミュスカーの隣に座って、ジッとアーロンに熱い視線を送っていた。

「では、食事を始めようか」

ハノーヴァー卿の言葉を合図に給仕達が一斉に動き出す。
もちろんリリィに食事を出さないという意地の悪いことはしない。

祝い事だとすぐに分かる豪勢なメニューが次々に並べられていき、食欲を刺激する香りが漂いだす。
ハノーヴァー卿の短い口上のあとで、食事会が始まった。

「わぁ! すごーい! もしかして今日はアーロン兄様の帰国のお祝い? もうあっちには行かないの? ずーっとリリィの側にいてくださるの?」

リリィが無邪気にはしゃいで見せる。
その隣でミュスカーが暗い表情になった。

「リリィが寂しがるから帰ってきてくださったのね。嬉しい!」
「キミのためじゃない」

アーロンが静かに言って、それからハノーヴァー卿に視線を向けた。
心得たように頷いて、食事の手を止めたハノーヴァー卿が注目を集めるように咳ばらいをした。

「さて、いくつか報告がある。食べながらでいいから聞きなさい。まずミュスカー、アメリア」
「はい」
「……はい」

私の返事のあとで、ミュスカーが遅れて反応する。
あまり食欲はないようで、お皿の上の料理はほとんど減っていなかった。

「本日付でお前たちの婚約を解消する」
「ご対応いただきありがとうございます」
「そんなっ!」

感謝に頭を下げると、ミュスカーが悲痛な声を上げた。
何故驚くのか分からない。
あれだけ言ったのに、今ここに至るまで、まだ婚約解消が冗談か何かだと思っていたのだろうか。

「何故だ! そんなこと許されないはずだ! だってうちとブランドン家の関係はどうなるんです!?」
「そんなことお前が気にすることではない」

にわかに取り乱すミュスカーに、ハノーヴァー卿が冷静に言い返す。

「と、言いたいところだが。私もブランドン家との関係は大事にしたいと思っている。だからもう話はつけてある」

それから私とアーロンに視線を向けてにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「新たな婚約が決まった。全員が同意しておる。こちらは正式な書類が揃い次第の話になるがな」
「新たな……婚約……?」

ミュスカーが眉根を寄せて呟く。
それは話が見えないからというよりは、嫌な予感がしているという表情だった。

「もしかしてリリィとアーロン兄様!?」
「そんなわけなかろう。話の邪魔をするなら出て行きなさい」

空気の読めないリリィの発言に、氷よりも冷ややかな口調でハノーヴァー卿が言う。
さすがにリリィもシュンとして、立ち上がりかけた腰を再び椅子に落ち着けた。

「もったいぶる必要もあるまいな。アーロンとアメリアだ」
「何だって!?」
「なんで!?」

あっさり告げたハノーヴァー卿の言葉に、ミュスカーとリリィが同時に立ち上がる。

目は驚愕に見開かれていて、どちらの顔にも怒りの感情がハッキリと滲んでいた。
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