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「……実は、過去に何度か、リリィに告白されたことがある」
「ええ!?」

屋敷に戻って廊下を歩きながらアーロンが申し訳なさそうに言う。

「言う必要もないかと思ったんだけど。あの様子じゃ今日の夕食に割り込んできて、あることないこと騒ぎ立てるだろうから。先に言っておこうと思って」
「こ、断ったのよね……?」

ごくりと喉を鳴らして尋ねる。
あの様子では心配はないと思うけれど、リリィが強引に何かしてくることがなかったとは言えない気がした。

「もちろん。どう頑張っても妹としか見られないし、実はちょっと苦手なんだ」

肩を竦めてバツの悪そうな顔でアーロンが言う。

誰とでも仲良くなれて、人に好かれやすいアーロンがこんなことを言うなんて珍しい。
余程合わないのだろう。

「デイジーが親に疎まれていたのを、あの子が意図的に増長させていたから余計にね」
「意図的に……」

思い出したのかアーロンが不快そうなため息をつく。
デイジーから相談を受けていたと言っていたから、憶測や邪推の類ではなく事実なのだろう。

「あれは無邪気なんてものじゃない。悪意の塊だよ」
「それは……ちょっとわかるかも」

もっともな言い分に同意する。
思い当る節はいくらでもあった。

ミュスカーを何度も呼び出していたのだって、絶対に悪意だ。
だって私との約束の日ばかり、狙ったように呼び出していたから。

「ミュスカーを見て確信したよ。あいつはもう以前の弟じゃない」
「やっぱり、変わってしまったのだと思う……?」

私にだけ冷たくなったわけではない。
アーロンに対してさえおかしな態度をとるミュスカーは、もう友人として好きだった頃の彼とは違うのだ。

その原因が何なのか。
さっきの二人を見ていれば答えがわかるような気がした。

客間に戻ると、飲み会を切り上げたらしい両親たちが使用人たちと片付けをしているところだった。

「父に話がある。ここで待っていてくれるかい」
「ええ。私もアーロンとのこと、ちゃんと両親に伝えてくるわ」

もちろんこれからきちんとした話し合いも必要だし、書類関係や対外的なお知らせ手続き等大変なことは山積みだ。だけど少しも苦に思えなかった。
だってこれからはアーロンと一緒に居られるのだ。

「アーロン、私を選んでくれてありがとう」

別れ際に改めて言うと、アーロンが一瞬泣きそうな顔になった。

「……俺の方こそ」

言って頬に手を添え額に口付けられた。

「じゃあ、またあとで」

愛しいものを見るみたいに目を細めて、真っ赤になってしまった私に笑いかける。

本当にアーロンと結婚して、この先やっていけるのだろうか。
不安になるくらいに私の心臓は傍若無人に暴れまわっていた。


その後酔いの覚めた父達と真面目に話をした。

ミュスカーとは正式に婚約を解消すること。
アーロンと結婚したいこと。
それからこのあとの夕食でもしかしたら揉めるかもしれないことを伝えた。

父も母もしっかりと話を聞いてくれて、私にかけられる迷惑など迷惑とは思わないと言ってくれた。

そうして迎えた両家合同での夕食会の場に。

私達が席に着いたあと、ミュスカーにくっついて当然の顔をしてリリィが入ってきた。
しかも、私への敵意をむき出しにして。

その視線を正面から受け止めて、キッと睨み返す。

負ける気はもうなかった。
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