11 / 19
11.
しおりを挟む
「うちの親が本当にごめん」
「ううん、うちも似たような感じだったし、ごめんなさい」
庭のベンチに腰を下ろした途端、頭を下げ合う。
それからしばらく、なんとも気恥ずかしい沈黙が落ちた。
手は繋がれたままで、意識がそこにばかり集中してしまう。
「……あの、ね。さっきアーロンのお母様に言ったこと、本当だから」
それでもきちんと言いたくて、私から口を開いた。
「私の態度が変だった時があったでしょう。あの時からずっと、好きだったの」
全身に変な汗を掻きながら、それでも懸命に伝える。
アーロンが私のために急いで帰ってきてくれたのを嬉しいと思ったように、私も彼に嬉しいと思ってもらいたかった。
「だから、ミュスカーが冷たくなったのは私のせいで、アーロンは何も悪くないのよ」
「それは違う」
繋いでいた手が一瞬ほどかれて、それから寂しさを感じる間もなく指先が絡んだ。
心臓が変な音を立てる。
「嘘をついてまでアメリアを手に入れたんだ。あいつはアメリアを大切にする義務があるのに、それを放棄した。許せないよ」
厳しい口調と表情に驚く。
私のために怒ってくれているのだ。こんなに嬉しいことがあるだろうか。
アーロンは私が困っていると思ったのか、ハッとしたあとで表情をやわらげた。
「ごめん。せっかく二人きりなんだ、楽しい話をしよう」
「……そうね。会えなかった間のこととか聞きたいわ」
「はは、仕事と勉強ばかりだったからつまらないよ?」
「それでもいいの。アーロンがどんなことを考えて、どんなものを見てきたのか知りたい」
アーロンのことならなんだって。
自分が向き合うことを放棄してしまったあの日から、無理やりアーロンのことを考えないようにしていた。
最後に話せて良かったなんて、それだけのことを心の支えにして。
「それに昔のことも。アーロンがいつから私のことを好きだったのかとか。是非知りたいわ」
「……まともに顔を見ながら話せる気がしないな」
アーロンが少し頬を赤らめてまぶたを伏せる。
その仕草がとても可愛らしくて、胸がじわりと温かくなる。
かっこいいアーロンももちろん好きだけど、こういう顔も好きなのだと今更気付く。
これからもっと色んな顔が見られるのかと思うと幸せだった。
「ふふ、私も。さっきからずっと恥ずかしくって逃げ出したい気持ち。けど、前にそれで大失敗してるから」
「じゃあ、逃げられないようにずっと捕まえとかなくちゃ」
アーロンが冗談めかして笑い、繋いだ手に力を込める。
私も同じだけの力を返して、お互い赤い顔のまま笑い合った。
それから思い出話に花が咲き、いつから好きだったのとか、どれくらい好きなのかとか、子供みたいに競い合って話をした。
自然に距離が縮まり腕が触れ合って、また沈黙が落ちる。
今度は気まずいものではなくて、心が満たされていく感覚があった。
アーロンの肩に頭を乗せると、手がほどかれてそっと肩を抱き寄せられた。
風がそよいで、葉擦れの音だけが静かに聞こえてゆっくりと目を閉じる。
心臓がとくとくと心地よいリズムを刻んでいた。
「……アメリア、」
「アーロン兄様ぁ!」
アーロンが私に呼びかけた瞬間、静寂を破るような声が響き渡る。
ばちりと目を開けて、声のした方を見る。
そこにはとても嬉しそうな笑みを浮かべて、息を切らせて走ってくるリリィがいた。
「ううん、うちも似たような感じだったし、ごめんなさい」
庭のベンチに腰を下ろした途端、頭を下げ合う。
それからしばらく、なんとも気恥ずかしい沈黙が落ちた。
手は繋がれたままで、意識がそこにばかり集中してしまう。
「……あの、ね。さっきアーロンのお母様に言ったこと、本当だから」
それでもきちんと言いたくて、私から口を開いた。
「私の態度が変だった時があったでしょう。あの時からずっと、好きだったの」
全身に変な汗を掻きながら、それでも懸命に伝える。
アーロンが私のために急いで帰ってきてくれたのを嬉しいと思ったように、私も彼に嬉しいと思ってもらいたかった。
「だから、ミュスカーが冷たくなったのは私のせいで、アーロンは何も悪くないのよ」
「それは違う」
繋いでいた手が一瞬ほどかれて、それから寂しさを感じる間もなく指先が絡んだ。
心臓が変な音を立てる。
「嘘をついてまでアメリアを手に入れたんだ。あいつはアメリアを大切にする義務があるのに、それを放棄した。許せないよ」
厳しい口調と表情に驚く。
私のために怒ってくれているのだ。こんなに嬉しいことがあるだろうか。
アーロンは私が困っていると思ったのか、ハッとしたあとで表情をやわらげた。
「ごめん。せっかく二人きりなんだ、楽しい話をしよう」
「……そうね。会えなかった間のこととか聞きたいわ」
「はは、仕事と勉強ばかりだったからつまらないよ?」
「それでもいいの。アーロンがどんなことを考えて、どんなものを見てきたのか知りたい」
アーロンのことならなんだって。
自分が向き合うことを放棄してしまったあの日から、無理やりアーロンのことを考えないようにしていた。
最後に話せて良かったなんて、それだけのことを心の支えにして。
「それに昔のことも。アーロンがいつから私のことを好きだったのかとか。是非知りたいわ」
「……まともに顔を見ながら話せる気がしないな」
アーロンが少し頬を赤らめてまぶたを伏せる。
その仕草がとても可愛らしくて、胸がじわりと温かくなる。
かっこいいアーロンももちろん好きだけど、こういう顔も好きなのだと今更気付く。
これからもっと色んな顔が見られるのかと思うと幸せだった。
「ふふ、私も。さっきからずっと恥ずかしくって逃げ出したい気持ち。けど、前にそれで大失敗してるから」
「じゃあ、逃げられないようにずっと捕まえとかなくちゃ」
アーロンが冗談めかして笑い、繋いだ手に力を込める。
私も同じだけの力を返して、お互い赤い顔のまま笑い合った。
それから思い出話に花が咲き、いつから好きだったのとか、どれくらい好きなのかとか、子供みたいに競い合って話をした。
自然に距離が縮まり腕が触れ合って、また沈黙が落ちる。
今度は気まずいものではなくて、心が満たされていく感覚があった。
アーロンの肩に頭を乗せると、手がほどかれてそっと肩を抱き寄せられた。
風がそよいで、葉擦れの音だけが静かに聞こえてゆっくりと目を閉じる。
心臓がとくとくと心地よいリズムを刻んでいた。
「……アメリア、」
「アーロン兄様ぁ!」
アーロンが私に呼びかけた瞬間、静寂を破るような声が響き渡る。
ばちりと目を開けて、声のした方を見る。
そこにはとても嬉しそうな笑みを浮かべて、息を切らせて走ってくるリリィがいた。
282
お気に入りに追加
6,810
あなたにおすすめの小説
言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。
紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。
学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ?
婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。
邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。
新しい婚約者は私にとって理想の相手。
私の邪魔をしないという点が素晴らしい。
でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。
都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。
◆本編 5話
◆番外編 2話
番外編1話はちょっと暗めのお話です。
入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。
もったいないのでこちらも投稿してしまいます。
また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
「真実の愛と出会ったから」と王子に婚約を解消されましたが、私も今の夫と出会えたので幸せです!
kieiku
恋愛
「メルディこそが我が真実の相手。私とメルディは運命で結ばれた、決して離れられない二人なのだ」
「は、はあ」
これは処置なしです。私は婚約解消を受け入れて、気持ちを切り替え愛しい今の夫と結婚しました。
私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
彼女は彼の運命の人
豆狸
恋愛
「デホタに謝ってくれ、エマ」
「なにをでしょう?」
「この数ヶ月、デホタに嫌がらせをしていたことだ」
「謝ってくだされば、アタシは恨んだりしません」
「デホタは優しいな」
「私がデホタ様に嫌がらせをしてたんですって。あなた、知っていた?」
「存じませんでしたが、それは不可能でしょう」
【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?
にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会
この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです
ふんわり設定です。
※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる