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「……アーロン。お帰りなさい」
ぎこちなく笑って挨拶をする。
二年ぶりに会う彼は男らしさを増して、ますます素敵になっていた。
「いつ帰ってきたの? 知っていたらもっと早く会いに来たのに」
声が掠れそうになるのをなんとか堪えて、応接室の中へと足を踏み入れる。
「今朝だよ。すごく急いで仕事を片付けて、ようやく帰れた」
まるで二年間のブランクなんてなかったみたいにアーロンは笑う。
その懐かしい笑みに、心臓が引き絞られるように痛んだ。
私とミュスカーの婚約が決まってすぐ、アーロンは国外視察という名の留学のために旅立つことになった。
同じ研究分野で学んでいたデイジーを連れて。
ああ、本当に彼らは結婚するのだな。
そう思い知って、アーロンへの恋心は胸の奥底に封印した。
馬鹿みたいな話だけど、それでようやくアーロンと普通に喋れるようになった。
今まで嫌な態度だったことを謝って、最後の挨拶と、それから元気でいてほしいと告げることが出来て、それだけでもう幸せだった。
アーロンは以前のように喋れるようになったことを喜んでくれたあと、「婚約おめでとう」と祝福の言葉をくれた。
それでけじめをつけたつもりだった。
だけど今再びアーロンの姿を前にして、私の胸は苦しいくらいに高鳴っている。
もう忘れたと思っていた恋心が、強く息づいているのを感じた。
「デイジーは一緒じゃないの……?」
こんな想いは無駄なのだと、自分に言い聞かせるために問う。
なぜ急ぐ必要があったのか。
それは彼女との結婚が正式に認められたからではないのかと。
「デイジー? 彼女とは国を出てからずっと別行動だよ」
「そうなの!?」
「……っと、これは秘密にしててくれるかい」
言ってはいけないことだったらしい。
アーロンはまずいことをしてしまったと顔を顰めたあと、人差し指を口許に当てて苦笑した。
国を出てからずっと。
なぜ別行動だったのだろう。
理由はわからないけれど、そんなことで嬉しくなる自分が浅ましく思えて恥ずかしかった。
「……弟とのこと、聞いたよ」
俯いてしまった私に、アーロンが気の毒そうな声を掛ける。
そのことで落ち込んでいるわけではなかったけれど、本当のことを言えるわけもなく小さく頷いた。
「本当に、愚弟が申し訳ないことをした」
「いいの。アーロンは何も悪くないでしょう?」
「リリィへの執着は昔からだったから。アメリアと婚約した時に忠告はしたんだけどね」
「忠告?」
「ああ。結婚するのだからリリィではなくアメリアを大切にしろと」
意味はなかったみたいだな、とアーロンが苦い顔をする。
「ありがとう。そんな風に気にかけてくれていたのね」
それだけで充分に嬉しかった。
私の恋は叶わなかったけれど、妹みたいに大切には思っていてくれるのだ。
「だが結局言葉が足りなかったばかりに辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」
「もう、だからアーロンのせいじゃないったら。私に魅力がなかっただけ」
「そんなことはない」
苦笑しながら言うと、思いのほか強い言葉が返ってきて目を瞠る。
「あ、いや、すまない。こわがらせるつもりでは、」
「怖くなんかないわ」
慌てるアーロンに思わず笑みがこぼれる。
彼は気恥ずかしそうに口許を押さえた。
「……まさか私を慰めるために急いで帰ってきたの?」
冗談交じりに、揶揄うように言う。
そんなことありえないことくらい解っている。
だけど二年ぶりのアーロンは相変わらず優しくて、それで少しだけ浮かれてしまった。
「いや、それもあるけどそうじゃなくて……」
私の言葉にアーロンは姿勢と表情を改めた。
「このタイミングで言うべきじゃないとわかってる。けど、どうしても伝えたかった」
それから真っ直ぐに私の目を見てこう言った。
「――必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」
ぎこちなく笑って挨拶をする。
二年ぶりに会う彼は男らしさを増して、ますます素敵になっていた。
「いつ帰ってきたの? 知っていたらもっと早く会いに来たのに」
声が掠れそうになるのをなんとか堪えて、応接室の中へと足を踏み入れる。
「今朝だよ。すごく急いで仕事を片付けて、ようやく帰れた」
まるで二年間のブランクなんてなかったみたいにアーロンは笑う。
その懐かしい笑みに、心臓が引き絞られるように痛んだ。
私とミュスカーの婚約が決まってすぐ、アーロンは国外視察という名の留学のために旅立つことになった。
同じ研究分野で学んでいたデイジーを連れて。
ああ、本当に彼らは結婚するのだな。
そう思い知って、アーロンへの恋心は胸の奥底に封印した。
馬鹿みたいな話だけど、それでようやくアーロンと普通に喋れるようになった。
今まで嫌な態度だったことを謝って、最後の挨拶と、それから元気でいてほしいと告げることが出来て、それだけでもう幸せだった。
アーロンは以前のように喋れるようになったことを喜んでくれたあと、「婚約おめでとう」と祝福の言葉をくれた。
それでけじめをつけたつもりだった。
だけど今再びアーロンの姿を前にして、私の胸は苦しいくらいに高鳴っている。
もう忘れたと思っていた恋心が、強く息づいているのを感じた。
「デイジーは一緒じゃないの……?」
こんな想いは無駄なのだと、自分に言い聞かせるために問う。
なぜ急ぐ必要があったのか。
それは彼女との結婚が正式に認められたからではないのかと。
「デイジー? 彼女とは国を出てからずっと別行動だよ」
「そうなの!?」
「……っと、これは秘密にしててくれるかい」
言ってはいけないことだったらしい。
アーロンはまずいことをしてしまったと顔を顰めたあと、人差し指を口許に当てて苦笑した。
国を出てからずっと。
なぜ別行動だったのだろう。
理由はわからないけれど、そんなことで嬉しくなる自分が浅ましく思えて恥ずかしかった。
「……弟とのこと、聞いたよ」
俯いてしまった私に、アーロンが気の毒そうな声を掛ける。
そのことで落ち込んでいるわけではなかったけれど、本当のことを言えるわけもなく小さく頷いた。
「本当に、愚弟が申し訳ないことをした」
「いいの。アーロンは何も悪くないでしょう?」
「リリィへの執着は昔からだったから。アメリアと婚約した時に忠告はしたんだけどね」
「忠告?」
「ああ。結婚するのだからリリィではなくアメリアを大切にしろと」
意味はなかったみたいだな、とアーロンが苦い顔をする。
「ありがとう。そんな風に気にかけてくれていたのね」
それだけで充分に嬉しかった。
私の恋は叶わなかったけれど、妹みたいに大切には思っていてくれるのだ。
「だが結局言葉が足りなかったばかりに辛い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない」
「もう、だからアーロンのせいじゃないったら。私に魅力がなかっただけ」
「そんなことはない」
苦笑しながら言うと、思いのほか強い言葉が返ってきて目を瞠る。
「あ、いや、すまない。こわがらせるつもりでは、」
「怖くなんかないわ」
慌てるアーロンに思わず笑みがこぼれる。
彼は気恥ずかしそうに口許を押さえた。
「……まさか私を慰めるために急いで帰ってきたの?」
冗談交じりに、揶揄うように言う。
そんなことありえないことくらい解っている。
だけど二年ぶりのアーロンは相変わらず優しくて、それで少しだけ浮かれてしまった。
「いや、それもあるけどそうじゃなくて……」
私の言葉にアーロンは姿勢と表情を改めた。
「このタイミングで言うべきじゃないとわかってる。けど、どうしても伝えたかった」
それから真っ直ぐに私の目を見てこう言った。
「――必ず幸せにすると約束する。どうか俺と結婚して欲しい」
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