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翌日も高熱が続いていた。

ノクトはベッドを譲ってくれて、床で毛布にくるまるのみの夜を明かした。
だというのに私の身体はちっとも良くならないどころか、悪化の一途を辿っている。

申し訳なさで死にそうだった。

「苦しいか。必要なものがあれば遠慮なく言え」

汗で貼り付く前髪をかきあげながら、ノクトが心配そうに言う。
呼吸すらままならない状態では謝罪の言葉も上手く出てこない。
悪寒と咳で体力を消耗していく私を見て、ノクトの方が辛そうな顔をするのが居た堪れなかった。

「びょういん……いく……」
「わかった。タクシーを呼ぶから寝ていろ」

わぁ、タクシーの呼び方まで心得てる魔王様最高。

不明瞭な頭ですらそんなことを思う私は、別の意味でも病気だ。


気付いた時には近所の内科待合室にいて、まともに座っていることも出来ない私の身体をノクトが支えていてくれていた。
パジャマのままなことを恥じらう余裕もない。
ノクトは私の肩をしっかりと抱きとめてくれて、時折安心させるように頭を撫でてくれた。

目を開けているのも辛くて、その心地よさに誘われるように目を閉じた。

「若宮様、お入りください」
「あかり、行くぞ」

名前が呼ばれるのと同時にノクトが短く言って、立ち上がる気配がした。
それから間を置かずふわりと身体の重さが消える。
違和感に目を開けると、どうやら抱き上げられているらしかった。

なるほど、病院までの道のりもこうしてノクトが。

茫洋とした思考でそんなことを思う。

浮かれる体力は残っていないはずなのに、しんどさが少し減った気がした。
推しの存在は万病に効くらしい。


検査を終えて診察してくれたお医者さん曰く、どうやら私はインフルエンザらしい。

どうりで他の患者さん達から離れた場所で待たされたわけだ。
理解するのと同時に、慌ててノクトから身体を離す。
うつしたら大変だ。

「馬鹿者。寄り掛かっていろ」
「でっ、でも、」
「いいから」

抵抗も虚しくすぐに抱き寄せられる。
少し怒った口調に、そんな場合ではないというのに胸がきゅんとしてしまった。

もしノクトにうつしてしまったら、その時は全力で看病しよう。

そう心に決めて、今は甘えさせてもらうことにした。


薬を処方されて帰宅する。
すぐにベッドに戻って震える私を、ノクトが不安そうな顔で覗き込む。

「入院しなくて本当に大丈夫なのか」
「うん……薬飲んで寝てれば回復するよ」

物凄くしんどいけれど死ぬほどではない。

安心させるように顔で微笑むと、ノクトがよりいっそう心配そうな表情になった。
よほど弱々しい笑みだったらしい。

「あのね、うつっちゃうから、まど開けて、なるべくはなれててね」
「わかった」

素直に頷いてくれたくせに、ノクトは換気だけしてあとは私の側から離れてくれなかった。
魔族に比べたら人族というものは弱いから、それだけ不安も大きいのかもしれない。

ノクトにこんなに心配してもらえるなんて。
不謹慎にも喜んでしまって、また叱られるだろうか。

一刻も早く回復して安心させてあげなくては。
とにかく今は少しでも多く寝て早く元気になろう。

そう決意して、ぎゅっと目を閉じた。
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