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それから魔王様に問われるままこの世界について答えていく。

この世界には勇者も魔王もなくて魔族も存在しない。
知的生物は人間だけとされていて、戦争はこの国ではなく、そのおかげで様々なものが発展している。
割と平和な世界であると説明すると、魔王様は興味深げに聞いていてくれた。

「魔王が存在しない世界なのに俺が魔王だと言うのは理解できるのか」
「そういった伝承はたくさんありますので」
「多数あるのか。主にどういう存在なのだ?」
「うーんだいたいは人間の敵だったり、恐怖の対象として描かれていますねぇ」

正直に伝えると、魔王様が眉を顰めた。

「……何故それで俺のことを怖くないと言える」

全く納得がいかないという表情に思わず笑ってしまう。

「だって魔族のことだけじゃなく人族のことも考えてる人ですよ? 怖がる必要がどこにありますか」

もちろんビジュアルが好みなのもあるが、中身が死ぬほど好きなのだ。

あの世界でも魔王様は人族にとって恐怖の対象として語り継がれているから、疑う気持ちもわかる。
だけど実際の魔王様は全然好戦的な人ではなく、人族の領地への侵略なんて考えていないのだ。
彼は魔族が穏便に暮らせるように、人族の侵略回避のため境目である森に方向感覚を狂わす魔法をかけて無駄な争いを起こさないようにしている。
怖い顔や暴虐な行いはあくまでも威嚇で、実際に人族に危害を加えたりはしなかった。
魔族や魔物を守りたいだけの心優しい人なのだ。
あくまで牽制のために恐怖の魔王を演じているだけ。

まぁもちろん勇者視点で描かれている漫画なので、時折挿入される魔王様サイドのちょっとしたエピソードから妄想捏造深読みしまくった上での魔王様像なのだけど。
私は確信をもってそう信じている。

それなのに国王に魔王討伐をそそのかされた転生クソチート勇者にはその魔法が効かず、侵入を許してしまったのだ。

「怖いと言うのなら自分達の利益のために魔族の領域を侵そうとする人族の王と、疑問も持たずに従う勇者の方です」

事情も知らず、国王からの一方的な情報だけで魔王を悪と決めつけて魔族領に踏み入る勇者にイライラしていた。

けれど魔王様は死の間際に追いやられても、勇者を責めずに魔物や魔族を迫害しないでくれと懇願して息絶えたのだ。

思い出して滂沱の涙が垂れ落ちる。
魔王様はビクッと肩を跳ねさせた。

「ど、どうした急に」

焦った声で心配そうに私の顔を覗き込む。

本当はこんなところでのんびりしている場合ではないはずだ。
魔族たちの行く末が気になって仕方ないに違いない。
だけど別世界ではどうするつもりもなく、現状では巻き込まれただけという立場の私に気遣って優しさを向けてくれて。

「うっ、ひぅっ、ぅぐぅ……っ、」

魔王様の心中を想像して辛くなる。
だけどただの行きずりの私では相談相手になんてしてもらえない。
愚痴や不安を打ち明けてもらうことすら出来ないのだ。

「大丈夫か……?」

オロオロとスウェットの袖で涙を拭われる。

なんて優しい人だろう。
急に泣き出した薄気味悪い女のことなんて放っておけばいいのに。

自分のことでいっぱいいっぱいになるだろうこの状況で、人を気遣ってばかりのこの魔族の王を。

私は心の底から推している。
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