上 下
57 / 91

57.私は戦うことを選んだ

しおりを挟む
まぶたの向こう側が明るい。
どうやら朝が来たらしい。
少し寝坊してしまったようだ。
頭が重く、まぶたがなかなか開けられない。
いつもより疲れが残っているみたいだ。

どうしてだっけ、と寝ぼけた頭で考えて、少しずつ昨日の出来事を思い出していく。

ああそうか、昨日はいろんなことがあった。
海軍が来て、問答無用で襲われて、応戦して、それで。

それにしてもなんだかいつもよりベッドが狭い気がする。
漫画みたいに、酔っぱらって何か大きい荷物でも拾ってきてしまったのだろうか。
そのうえ謎の拘束感があって身動きが取りづらい。

一体どういう状況なの?
ぼんやりした頭のまま、薄く目を開ける。

「起きたか」
「ひぃっ」
「ひぃっておまえな……」

若干傷付いたようなリアクションで、目の前の男がぼやく。

「なっ、ななな、なんで」
「どっかの誰かさんがしがみついて離してくれなかったもんで」

疲れたように言ってあくびをする。
言われてみれば私の腕はウィルの背中に回されていた。
どうやらあのまま寝てしまったらしい。
一気に昨夜のことを思い出して全身が熱くなる。

「ごっ、ごめん!」

慌てて手を離しウィルを解放しようとするが、背中にウィルの腕が回されていて思うように動けなかった。
なるほど謎の拘束感の正体はこれか。
気付いたところで、それで落ち着けるわけもないのだけど。
その上もう片方の腕は何故か私の首の下で腕枕状態になっている。
これで動揺するなという方が間違っている。

「おめー力つえーよ」

深いため息とともに、呆れたように言いながら何故かウィルが私の頭を撫でる。
げんこつでも食らうならまだしも、優しく触れられたら混乱が深まるばかりだ。
顔を真っ赤にして戸惑っていると、ウィルの手が私の頬に触れた。

「元気になったか」
「……うん」

問われて自分の状態を確認してみれば、震えは止まって心はすっきり整理できていることに気付く。
全ての不安がなくなったわけではないけれど、ウィルのおかげでだいぶ心が軽くなっていた。

「もう大丈夫」
「無理してねぇか」
「してない。心配?」
「そらそうだろ……」

人を殺すということに、完全に開き直ることはまだ出来なさそうだ。
だけどこの船が襲われたらきっとまた同じことをする。
相手が強くなくても、みんなが苦戦しなくても、次からは積極的に戦闘に参加するだろう。

いつかはそれを後悔する日が来るかもしれない。
血で汚れた手を見て、絶望するときがあるかもしれない。
でも、もうそれでいい。
そんな日が来ても、私はきっとそれを受け止められる。
ウィルがこうやって私のために心を砕いて、心配してくれるなら。

「ありがとう、ウィル」

素直に微笑んで言うと、なんとも言えない顔をされる。
なんか変なこと言ったかしら、と焦りかけたがすぐに安心したような表情になった。

「なら、いい」

言って抱きしめられる。
それにどんな意味があるかは分からないが、どぎまぎしながら抱き返した。

トクトクと、ウィルの心臓の音が聞こえる。
それに聞き入るようにうっとり目を閉じる。


「……おし、メシにすっか」
「うん!」

ずっとこのままでいたかったけれど、名残を惜しむ気持ちを押さえて元気に返事をした。

ウィルのおかげで、今日も一日元気に過ごせることだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。 令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。 しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。 『骨から始まる異世界転生』の続き。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました

古森きり
恋愛
産後の肥立が悪いのに、ワンオペ育児で過労死したら異世界に転生していた! トイニェスティン侯爵令嬢として生まれたアンジェリカは、十五歳で『神の子』と呼ばれる『天性スキル』を持つ特別な赤子を処女受胎する。 しかし、召喚されてきた勇者や聖女に息子の『天性スキル』を略奪され、「用済み」として国外追放されてしまう。 行き倒れも覚悟した時、アンジェリカを救ったのは母国と敵対関係の魔人族オーガの夫婦。 彼らの薦めでオルゴール職人で人間族のルイと仮初の夫婦として一緒に暮らすことになる。 不安なことがいっぱいあるけど、母として必ず我が子を、今度こそ立派に育てて見せます! ノベルアップ+とアルファポリス、小説家になろう、カクヨムに掲載しています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

処理中です...