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39.陸上生活⑧
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今日のアルフレッドはいつもと違う表情ばかりだ。
挨拶みたいな口説き文句なら慣れているのに、これでは戸惑ってしまう。
どう反応するのが正解なのだろう。いつものように茶化したり受け流したりするのは違う気がした。
「……アルは、何を選んでくれたの」
だから私もちゃんと聞くことにした。
アルは少し目を瞬いて、それから髪飾りから手を離し、いつもの色男な笑みを浮かべた。
「これ。開けてみて」
渡された小箱は綺麗に包装されていて、それ自体がプレゼントみたいで開けるのがもったいないくらいだ。
そっと開けると、中には赤いピアスが鎮座していた。
「この町の特産品の珊瑚を加工したピアスなんだ。いい色だろう」
深紅のピアスは控えめな大きさで、シンプルな球体だった。
なんとなく派手なアクセサリーを想像していたから、少し意外な思いがした。
「うん……すごく綺麗……つやつやしてて質感もいいね……」
ぽうっとしながら手の平の小さなピアスを見つめて呟く。
宝石とは違って輝く美しさではないが、吸い込まれるような赤色だ。
そういえば、とふと思い出す。
現世の両親は、よく私に赤色を身につけさせたがった。
私のことは大嫌いだったが、私の外側は好きだったらしい。髪の色や瞳の色を称えた後で、だからお前は赤が似合うのだからとドレスもアクセサリーも赤いものを押し付けてきた。
それらの物を嬉しいと思ったことは一度もなかったが、このピアスには不思議と心を惹かれた。
贈ってくれた人の心遣いを感じるからかもしれない。
「つけてみてもいい?」
嬉しくなって聞くと、私の手からアルがピアスを取り上げた。
そのまま立ち上がるアルに、くれないの? と眉尻を下げて見上げると、なんとも言えない顔で目を逸らされた。
「いやうん……俺がつけてあげる」
「えっ、いいよ! 自分で出来る!」
「ダメ。つけさせて。お願い」
「でも……恥ずかしい、から」
男の人にピアスをつけさせるなんて。
そんなの、なんかちょっといかがわしい気がする。
「嬉しいな。少しは意識してくれた?」
「ええ……するよぉ普通に……アルかっこいいもん……」
また熱が上昇し始めた頬を押さえながら、今度は私が目を逸らしながら答えた。
改めて思うがアルフレッドの顔はとても整っている。至近距離で見るとなおさらだ。
少し垂れた目尻が造作の甘さを際立たせている。緩くウェーブした金髪は肩まで伸びて、まるでどこかの王子様みたいだ。
そんな人がすぐ目の前にいて、そのうえ私にピアスをつけてくれようとしている。
その事実から、目を逸らさずに受け止めるのなんて恥ずかしいことこの上ない。
誰にでも平等に優しいのは知っているが、それでも今まさにこの瞬間私に優しいという状況に対するトキメキは中和出来るものではない。
アルフレッドはピアスの留め具を外すと、一歩近寄って私の耳に触れた。
反射的にぎゅっと目を閉じる。
「……ふ、緊張してる」
嬉しくてたまらないみたいに、笑いを含んだ小さな声でアルが言う。
そろりと目を開けると、幸せそうな顔で微笑んでいた。それを見てさらに緊張が高まる。
逃げ出したい気持ちをこらえて身体を強張らせていると、外したままのピアスホールに珊瑚のピアスが通された。
留め具をつけるために、耳の後ろにアルの指が添えられる。
ぞわぞわと産毛が逆立っていく感覚があった。
「…………も、」
「も?」
「もうむり……げんかい……ゆるして……」
頭がグルグルしたまま、辛うじてそれだけ言って目の前に迫ったアルの身体を震える手で押し返す。
これ以上は耐えられそうになかった。
「……っっふ、……あははっ」
真っ赤になっている私を見て、とうとうアルが笑いだした。
あまりの恥ずかしさに泣きそうになりながらアルを見上げる。
それは馬鹿にしてるとかの嫌な感じではなく、いつものキザな感じでもなく、ただただ幸せそうな笑顔だった。
もしかしたらこれが素の笑い方なのかもしれない。
これも初めて見る表情だ。
気取った喋り方や笑い方より、こっちの方が好きかもしれない。
恥ずかしさも忘れて笑顔に見とれながら、そんなことを思う。
「……はー。ごめんねレーナ。からかったわけじゃないんだ」
「うん、わかってる……けどやっぱり恥ずかしいから、もう一個は自分でするね」
「ちょっと残念だけどわかった。諦めるよ」
そう言ってピアスの片割れを私にくれた。
酔いと動揺でおぼつかない手つきで、なんとか自分でピアスをつける。
アルがそれを夢見るような表情で見ていた。
挨拶みたいな口説き文句なら慣れているのに、これでは戸惑ってしまう。
どう反応するのが正解なのだろう。いつものように茶化したり受け流したりするのは違う気がした。
「……アルは、何を選んでくれたの」
だから私もちゃんと聞くことにした。
アルは少し目を瞬いて、それから髪飾りから手を離し、いつもの色男な笑みを浮かべた。
「これ。開けてみて」
渡された小箱は綺麗に包装されていて、それ自体がプレゼントみたいで開けるのがもったいないくらいだ。
そっと開けると、中には赤いピアスが鎮座していた。
「この町の特産品の珊瑚を加工したピアスなんだ。いい色だろう」
深紅のピアスは控えめな大きさで、シンプルな球体だった。
なんとなく派手なアクセサリーを想像していたから、少し意外な思いがした。
「うん……すごく綺麗……つやつやしてて質感もいいね……」
ぽうっとしながら手の平の小さなピアスを見つめて呟く。
宝石とは違って輝く美しさではないが、吸い込まれるような赤色だ。
そういえば、とふと思い出す。
現世の両親は、よく私に赤色を身につけさせたがった。
私のことは大嫌いだったが、私の外側は好きだったらしい。髪の色や瞳の色を称えた後で、だからお前は赤が似合うのだからとドレスもアクセサリーも赤いものを押し付けてきた。
それらの物を嬉しいと思ったことは一度もなかったが、このピアスには不思議と心を惹かれた。
贈ってくれた人の心遣いを感じるからかもしれない。
「つけてみてもいい?」
嬉しくなって聞くと、私の手からアルがピアスを取り上げた。
そのまま立ち上がるアルに、くれないの? と眉尻を下げて見上げると、なんとも言えない顔で目を逸らされた。
「いやうん……俺がつけてあげる」
「えっ、いいよ! 自分で出来る!」
「ダメ。つけさせて。お願い」
「でも……恥ずかしい、から」
男の人にピアスをつけさせるなんて。
そんなの、なんかちょっといかがわしい気がする。
「嬉しいな。少しは意識してくれた?」
「ええ……するよぉ普通に……アルかっこいいもん……」
また熱が上昇し始めた頬を押さえながら、今度は私が目を逸らしながら答えた。
改めて思うがアルフレッドの顔はとても整っている。至近距離で見るとなおさらだ。
少し垂れた目尻が造作の甘さを際立たせている。緩くウェーブした金髪は肩まで伸びて、まるでどこかの王子様みたいだ。
そんな人がすぐ目の前にいて、そのうえ私にピアスをつけてくれようとしている。
その事実から、目を逸らさずに受け止めるのなんて恥ずかしいことこの上ない。
誰にでも平等に優しいのは知っているが、それでも今まさにこの瞬間私に優しいという状況に対するトキメキは中和出来るものではない。
アルフレッドはピアスの留め具を外すと、一歩近寄って私の耳に触れた。
反射的にぎゅっと目を閉じる。
「……ふ、緊張してる」
嬉しくてたまらないみたいに、笑いを含んだ小さな声でアルが言う。
そろりと目を開けると、幸せそうな顔で微笑んでいた。それを見てさらに緊張が高まる。
逃げ出したい気持ちをこらえて身体を強張らせていると、外したままのピアスホールに珊瑚のピアスが通された。
留め具をつけるために、耳の後ろにアルの指が添えられる。
ぞわぞわと産毛が逆立っていく感覚があった。
「…………も、」
「も?」
「もうむり……げんかい……ゆるして……」
頭がグルグルしたまま、辛うじてそれだけ言って目の前に迫ったアルの身体を震える手で押し返す。
これ以上は耐えられそうになかった。
「……っっふ、……あははっ」
真っ赤になっている私を見て、とうとうアルが笑いだした。
あまりの恥ずかしさに泣きそうになりながらアルを見上げる。
それは馬鹿にしてるとかの嫌な感じではなく、いつものキザな感じでもなく、ただただ幸せそうな笑顔だった。
もしかしたらこれが素の笑い方なのかもしれない。
これも初めて見る表情だ。
気取った喋り方や笑い方より、こっちの方が好きかもしれない。
恥ずかしさも忘れて笑顔に見とれながら、そんなことを思う。
「……はー。ごめんねレーナ。からかったわけじゃないんだ」
「うん、わかってる……けどやっぱり恥ずかしいから、もう一個は自分でするね」
「ちょっと残念だけどわかった。諦めるよ」
そう言ってピアスの片割れを私にくれた。
酔いと動揺でおぼつかない手つきで、なんとか自分でピアスをつける。
アルがそれを夢見るような表情で見ていた。
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