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30.本人の許可を得たので犯罪ではありません

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赤くなった頬を押さえている私に、ウィルが顔だけ振り向いて声を上げて笑った。

「おまえ顔真っ赤」
「うるさい知ってる」
「普通男の背中見ただけでそんななるか?」
「ほっといてよ免疫ないのよ」
「ったくこれだから処女は」
「処女で何か悪いことあるんですかー」
「別にないですー」

子供みたいに言い合いながら、ようやく手当てに取り掛かる。
まだ顔は熱いままだ。
そのうえ処置のためとは言え、触れるたびにウィルの背中に触れる指先が熱を持った。

「まーそこらの金持ち連中のたるんだ身体ばっか見てりゃしょうがねぇか」
「だからお金持ちの人の身体だって見たことないんだってば」
「マジかよ。もっと色々見て男見る目養っとけよ」
「どうやって見るのよ。裸見せてくださいお願いしますって?」
「変態じゃねぇか」
「ホントよ。ウィルって最低」
「俺はそんなこと言ってねぇ!」
「ほら終わったわ。早く服着てよ変態」

手早く処置を終えて、目に毒なものをしまってもらおうと脱いだシャツを押し付ける。
ウィルは「変態じゃねぇし」とかなんとかぶつくさ言って、片腕を袖に通したところで動きを止める。

「……お子様のレーナにこの逞しい背中に抱き着くチャンスをやろうか」
「え、いいの? やったぁ」

ウィルは完全に私をからかう気満々の口調だったが、反射的にそう答える。
だってこんな機会二度とない。
正直この身体にもっと触れてみたいと思っていたのだ。

予想外だったのか、ウィルが面食らった顔で再び振り返る。

「おまえマジで言ってんの……?」
「あ、ちょっと恥ずかしいから前向いててよ」
「いや、俺冗談で言ったんだけど……」
「ええ? ダメなの?」
「ダメってわけじゃねーけど……」
「じゃ前向いててってば。いくよ?」
「いやもうわけわかんねー女だな」

ぼやきながらも視線を前に戻してくれたのを見計らって、思い切ってぺたりと背中に抱きつく。

ウィルが自称したとおりに逞しいその背中にくっつくと、なんだか身体中がざわざわと騒めく感じがした。
もっと密着できるように腹に手を巻き付けると、手の平を伝う腹筋の感触にさらに胸がざわついた。

「……あーこれは……ちょっといい……」
「ちょっとかよ。てかいいのかよ」
「うんごめん……うそついた……かなりいい……」
「おまえ結構オープンなスケベだな……」
「いや処女なんですけど」
「関係ねぇよ処女でもスケベはスケベ」

「……何やってんのお頭たち」

唐突に声を掛けられて、ちらりと見上げると、何とも言えない微妙な顔をしたアランが立っていた。
処置を終えたのだろう、私たちに気付いたアランが、少し引き気味で私たちを見下ろしている。

「おうアラン。何やってんのか俺にもよくわからん」

ウィルがどこかヤケクソ気味に答える。
だから仕方なく私がきちんと現状の説明をすることにする。

「男の人の身体を堪能させてもらってるの」
「ばかおまえその言い方やめろ」

うっとり目を閉じながら質問に答えると、ウィルが焦ったように遮るのが面白かった。
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