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25.守られるだけのお姫様

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侮られたのは悔しかった。
何も出来ないお嬢様と思われるのは腹立たしかった。
けれど何より許せなかったのは、衝撃からすぐに立ち直ることが出来ず思考を止めてしまった自分だ。

ウィルはわざとあんなふうに言ったのだろう。
私の戦場への怯えを見抜いて、恐れや忌避感が船員たちに向かわないようにした。
そうして船員達との間に溝を作らずに済むように、怒りの感情を自分に引き寄せた。

それくらいわかる。
あれはあの人なりの優しさなのだ。

私に後ろめたさを覚えさせないように。船員達が私に同情してくれるように。

解りづらくて、ともすれば誤解を受けそうな気遣いだ。
けれどきっとそれも承知の上でのことだろう。
自分が嫌われても、私を含めた船員たちが円満ならばそれで構わないのだ。

「レーナ、どこ行くの」

追いかけてきたアランが隣に並び、心配そうな表情で私の顔を覗き込む。
申し訳なくなるくらいに気遣ってくれているのがわかった。

「大丈夫? ごめんね、先に言っておけばよかった。あんなとこ見せちゃって、本当にごめん。気分悪くなってない? 晩御飯の準備はオレがやっておくから、部屋戻って休んでて」

私が勝手にアランの制止を振り切って暴走した結果だと言うのに、アランは本心から謝ってくれる。
荒事に慣れていないお嬢様に大変なことをしでかしてしまったというように。

「お頭もサボりなんて言わないよ。女の子にはつらいよね」
「……医務室に行きたいわ」
「そうか。そうだよね。なんか気分が落ち着くような薬もらってこよう。あ、でもワイアットも上にいるからどの薬かわからないやごめん……」

船医であるワイアットも、重要な戦闘員の一人であるのは知っている。
スマートな身体と、眼鏡の似合う理知的な顔をしているのに、なかなか強いのだと聞いたことがある。
この船に闘えない人間など一人もいないのだ。

「ううん。そうじゃない」

首を振る私に、アランが不思議そうな顔をする。

「そうなの? あっ、もしかしてどこか怪我した⁉ 甲板メチャクチャだったもんね、何か踏んじゃった?」

慌てて私の足元を見る。
もちろん怪我なんてしていない。
ひとつも痛いところなんてないのに、なんでこんな被害者みたいに気を遣わせてしまっているのだろう。
自分が恥ずかしかった。

「違うよアラン。救急キットを取りに行きたいの」

言って、少し無理をして笑ってみせる。
暗い顔をしていたらいつまでもアランが気に病んでしまうから。

アランはホッとした顔をしたあとで、言葉の真意を測りかねたように顔をしかめた。
そのくるくると変わる表情が、私の心を浮上させてくれた。
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