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あの日から一週間、カダは昼寝をしに来なかった。
それどころか、毎週必ず来ていた金曜日にさえ顔を出さない。
何か悪いことをしてしまったのだろうか。
こちらから会いに行くことは許されず、自室で一人、悶々と考える。
気に障ることをした記憶はない。
いや、むしろ常に王様に対する態度では全くないので、我ながら思い当たる節だらけではあるけれど。
カダにとっては今更だろう。
ではあのセックスを後悔しているのだろうか。
あるいは、解放的になってあれこれ喋ってしまったことを。
もしかしてセックスの気持ち良さに目覚めて、他の令嬢たちの身体を楽しんでいるのだろうか。そのついでにそこで寝ているのかもしれない。
だから私が不要になった。
ここには私より顔も身体も段違いに上の娘たちで溢れている。
性の喜びを知ってしまった若い男が、極上の女たちを前に我慢できるとは思えなかった。
思い至って重いため息が出た。
胸が苦しかった。
人を好きになるということはこんなにつらいのか。
初恋の相手が、よりにもよって王様なんて。
パブリックな人を好きになるもんじゃないな。
彼の相手はいくらでもいる。それこそ掃いて捨てるほどに。
今頃他の娘の部屋にいるのか。
そんなことを思ってはつらさに泣きそうになった。
とうとう耐えきれず、大浴場で月曜日の部屋付き御令嬢に声を掛けた。
「え~? 私のとこにも来てないからわからないわ~」
おっとりした喋り方で、どうでも良さそうにリーシャが言う。
彼女の取り巻きたちも話に加わって、知っている情報を口々に教えてくれる。
娯楽の少ない後宮で、暇を持て余しているのだろう。
彼女たちによると、どうやら他の部屋付きのところにも来ていないし、中級妃以下の呼び出しもないようだ。
少しホッとする。
彼女たちはカダの訪問がないことに特に疑問もないようだ。
ただ、どうでもいいと言う割にリーシャはどこか不機嫌そうに見える。
「でもリーシャ、何も言われてないの? 忙しいとか、体調が悪いとか」
「知らないったらぁ。体調が悪いのはいつものことでしょ?」
「でも……最近は顔色も良かったし、律儀に毎日部屋付きを回ってたのがぱったりなんておかしくない?」
「さぁ。何考えてるのかわからない人だもの」
「でも最近、ちょっとかっこよくないですか王様」
「わかる! なんかキリっとして若返ったよね!」
「前は勘弁してくれって感じだったけど、今ならちょっと抱いて! ってなる」
「目元が涼しげなのに実際には冷たいわけじゃないのがいいよね。ああ、いつか私のこと呼び出してくれないかしら」
リーシャの取り巻きたちがはしゃぎ始める。
その様子を見て、リーシャがますます不機嫌そうな顔になった。
「はしたないわよあなたたち」
「す、すみませんっ」
「お許しくださいリーシャ様!」
「あのお方は貴女達ごときにどうにかできる方ではないの」
ぺこぺこと頭を下げる取り巻きの娘たちをリーシャが冷めた目で見る。
ふわふわとした雰囲気のわりに苛烈なことを言う人だ。
どこか八つ当たり染みて見えるのは気のせいだろうか。
「……とにかく。陛下が何をお考えなのかなんて私にはわからないわぁ~」
「そうですか……」
取り付く島もなくリーシャが背を向け行ってしまった。
取り巻きたちが慌てて後を追う。
それ以上の質問は諦めるしかなくて肩を落とす。
もしかしたら今週もこないかもしれない。
そんな予感を胸に、重い足取りで自分の部屋に戻った。
そんな心配をよそに、二日後の金曜日。
弱々しいノックに扉を開けると、カダが疲れ切った顔で壁に凭れるように立っていた。
それどころか、毎週必ず来ていた金曜日にさえ顔を出さない。
何か悪いことをしてしまったのだろうか。
こちらから会いに行くことは許されず、自室で一人、悶々と考える。
気に障ることをした記憶はない。
いや、むしろ常に王様に対する態度では全くないので、我ながら思い当たる節だらけではあるけれど。
カダにとっては今更だろう。
ではあのセックスを後悔しているのだろうか。
あるいは、解放的になってあれこれ喋ってしまったことを。
もしかしてセックスの気持ち良さに目覚めて、他の令嬢たちの身体を楽しんでいるのだろうか。そのついでにそこで寝ているのかもしれない。
だから私が不要になった。
ここには私より顔も身体も段違いに上の娘たちで溢れている。
性の喜びを知ってしまった若い男が、極上の女たちを前に我慢できるとは思えなかった。
思い至って重いため息が出た。
胸が苦しかった。
人を好きになるということはこんなにつらいのか。
初恋の相手が、よりにもよって王様なんて。
パブリックな人を好きになるもんじゃないな。
彼の相手はいくらでもいる。それこそ掃いて捨てるほどに。
今頃他の娘の部屋にいるのか。
そんなことを思ってはつらさに泣きそうになった。
とうとう耐えきれず、大浴場で月曜日の部屋付き御令嬢に声を掛けた。
「え~? 私のとこにも来てないからわからないわ~」
おっとりした喋り方で、どうでも良さそうにリーシャが言う。
彼女の取り巻きたちも話に加わって、知っている情報を口々に教えてくれる。
娯楽の少ない後宮で、暇を持て余しているのだろう。
彼女たちによると、どうやら他の部屋付きのところにも来ていないし、中級妃以下の呼び出しもないようだ。
少しホッとする。
彼女たちはカダの訪問がないことに特に疑問もないようだ。
ただ、どうでもいいと言う割にリーシャはどこか不機嫌そうに見える。
「でもリーシャ、何も言われてないの? 忙しいとか、体調が悪いとか」
「知らないったらぁ。体調が悪いのはいつものことでしょ?」
「でも……最近は顔色も良かったし、律儀に毎日部屋付きを回ってたのがぱったりなんておかしくない?」
「さぁ。何考えてるのかわからない人だもの」
「でも最近、ちょっとかっこよくないですか王様」
「わかる! なんかキリっとして若返ったよね!」
「前は勘弁してくれって感じだったけど、今ならちょっと抱いて! ってなる」
「目元が涼しげなのに実際には冷たいわけじゃないのがいいよね。ああ、いつか私のこと呼び出してくれないかしら」
リーシャの取り巻きたちがはしゃぎ始める。
その様子を見て、リーシャがますます不機嫌そうな顔になった。
「はしたないわよあなたたち」
「す、すみませんっ」
「お許しくださいリーシャ様!」
「あのお方は貴女達ごときにどうにかできる方ではないの」
ぺこぺこと頭を下げる取り巻きの娘たちをリーシャが冷めた目で見る。
ふわふわとした雰囲気のわりに苛烈なことを言う人だ。
どこか八つ当たり染みて見えるのは気のせいだろうか。
「……とにかく。陛下が何をお考えなのかなんて私にはわからないわぁ~」
「そうですか……」
取り付く島もなくリーシャが背を向け行ってしまった。
取り巻きたちが慌てて後を追う。
それ以上の質問は諦めるしかなくて肩を落とす。
もしかしたら今週もこないかもしれない。
そんな予感を胸に、重い足取りで自分の部屋に戻った。
そんな心配をよそに、二日後の金曜日。
弱々しいノックに扉を開けると、カダが疲れ切った顔で壁に凭れるように立っていた。
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