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「あのですね、義務的なつまらない子作りじゃなくて、明るく楽しいセックスを目指そうと思うんですけど」
ベッドの上で向かい合って、そんな提案をしてみる。
お互いかしこまったように正座して、ピンと姿勢を伸ばしているのが少しおかしかった。
「と、いうと」
「私もカダ様以外としたことないから、聞きかじりの知識しかありませんが」
養父の店で働いてた時の客層は、主に働き盛りのおっちゃんたちだ。
彼らは基本的に気のいい人たちだったけれど、壮年の男性特有の、セクハラまがいの下ネタが大好きだった。
もちろん若い娘相手だから、初めのうちは遠慮があった。
私が恥ずかしがったり委縮したりすればそこでやめてくれただろう。
だが残念ながらこんな性格だ。適当にスルーしたり言い返したりしているうちに、すっかり下ネタオッケーだと思われて無駄に性知識が増えてしまった。
「一説によると、気持ち良ければ気持ちいいほど授かる確率が上がるらしいです。もちろん片方だけがじゃなくて、お互いに。身も心も満たされて初めて子が出来るのだとか」
「だとすると今までの私の行いは」
「無駄そのものですね」
歯に衣着せずに言うと、カダががくりと肩を落とした。
完全に俗説ではあるが、信憑性は高い気がしてしまう。
妻とは身体の相性が悪いと言っていた客には子供がいなかったし、セックス大好きと豪語していた客は子沢山なことが多かった。
もちろん全家庭がそうだとは思わないけれど、心情的にも楽しんでヤれた方がいい。
「気持ちのいいセックスはストレス解消にもなるそうです。翌日の仕事の効率も上がるとか言ってました」
「いいことづくめだな」
「そうなんです。私もどうせなら楽しくて気持ちいい方がいいですし、一緒に頑張りましょう」
「最大限の努力を約束しよう……それでまず何をすればいい」
こくりと頷いて、真っ直ぐに私を見る。
変に知ったかぶってリードしようとしないのはいいことだ。
「とりあえず、服を脱ぎましょうか」
「……私はそんなことすらも怠って」
苦笑交じりに基礎の基礎を言うと、カダが申し訳なさそうに頭を抱えた。
「ドンマイ!」
ポンと肩を叩いて慰めてやる。
あの頃は死なないのが不思議なくらいの寝不足と過労ぶりだった。
命を削りながらの子作りだ、頭もロクに回っていなかっただろうし、今更責める気は無い。
「あとは実践しながら説明しますね」
言って率先して服を脱ぎ始める。
追従して一緒に脱いでくれると思っていたのに、何故かカダは動かずに私を見ていた。
下着を晒す寸前になって手を止める。
なんだかめちゃくちゃ恥ずかしい。
局部丸出しで待つよりも、よっぽどだ。
「……あの、見られてると、恥ずかしいんです、けど」
「っ、ああ、すまないっ、つい、」
脱ぎかけていた服ごとぎゅっと自分の身体を抱きしめながら言うと、カダが焦ったように目を逸らしてようやく脱ぎ始めた。
一度も見たことのない彼の身体が少しずつ露わになっていく。
ヤることはヤっているというのに、初めて見るそれらに思わず釘付けになってしまった。
「……恥ずかしいのだが」
視線に気付いたカダが、私の真似をするように身体をぎゅっと縮めた。
思わず噴き出して、それから私もまた手を動かし始めた。
部屋の中は暗くしていたけれど、やはりどうにも恥ずかしい。
妙な気まずさの中、軽口を叩くことも出来ず無言で服を脱いだ。
静かな部屋に、衣擦れの音だけが響く。
胸が痛いくらいに鳴っていて、息もまともに出来なかった。
本当は偉そうにセックス指南をするほどの余裕なんてない。
一から手順を考えて喋っていたわけではないし、次に何をすればいいかすら考えられない。
「それから、キスを」
だから。
ただ私がしたいと思ったことを口にした。
ベッドの上で向かい合って、そんな提案をしてみる。
お互いかしこまったように正座して、ピンと姿勢を伸ばしているのが少しおかしかった。
「と、いうと」
「私もカダ様以外としたことないから、聞きかじりの知識しかありませんが」
養父の店で働いてた時の客層は、主に働き盛りのおっちゃんたちだ。
彼らは基本的に気のいい人たちだったけれど、壮年の男性特有の、セクハラまがいの下ネタが大好きだった。
もちろん若い娘相手だから、初めのうちは遠慮があった。
私が恥ずかしがったり委縮したりすればそこでやめてくれただろう。
だが残念ながらこんな性格だ。適当にスルーしたり言い返したりしているうちに、すっかり下ネタオッケーだと思われて無駄に性知識が増えてしまった。
「一説によると、気持ち良ければ気持ちいいほど授かる確率が上がるらしいです。もちろん片方だけがじゃなくて、お互いに。身も心も満たされて初めて子が出来るのだとか」
「だとすると今までの私の行いは」
「無駄そのものですね」
歯に衣着せずに言うと、カダががくりと肩を落とした。
完全に俗説ではあるが、信憑性は高い気がしてしまう。
妻とは身体の相性が悪いと言っていた客には子供がいなかったし、セックス大好きと豪語していた客は子沢山なことが多かった。
もちろん全家庭がそうだとは思わないけれど、心情的にも楽しんでヤれた方がいい。
「気持ちのいいセックスはストレス解消にもなるそうです。翌日の仕事の効率も上がるとか言ってました」
「いいことづくめだな」
「そうなんです。私もどうせなら楽しくて気持ちいい方がいいですし、一緒に頑張りましょう」
「最大限の努力を約束しよう……それでまず何をすればいい」
こくりと頷いて、真っ直ぐに私を見る。
変に知ったかぶってリードしようとしないのはいいことだ。
「とりあえず、服を脱ぎましょうか」
「……私はそんなことすらも怠って」
苦笑交じりに基礎の基礎を言うと、カダが申し訳なさそうに頭を抱えた。
「ドンマイ!」
ポンと肩を叩いて慰めてやる。
あの頃は死なないのが不思議なくらいの寝不足と過労ぶりだった。
命を削りながらの子作りだ、頭もロクに回っていなかっただろうし、今更責める気は無い。
「あとは実践しながら説明しますね」
言って率先して服を脱ぎ始める。
追従して一緒に脱いでくれると思っていたのに、何故かカダは動かずに私を見ていた。
下着を晒す寸前になって手を止める。
なんだかめちゃくちゃ恥ずかしい。
局部丸出しで待つよりも、よっぽどだ。
「……あの、見られてると、恥ずかしいんです、けど」
「っ、ああ、すまないっ、つい、」
脱ぎかけていた服ごとぎゅっと自分の身体を抱きしめながら言うと、カダが焦ったように目を逸らしてようやく脱ぎ始めた。
一度も見たことのない彼の身体が少しずつ露わになっていく。
ヤることはヤっているというのに、初めて見るそれらに思わず釘付けになってしまった。
「……恥ずかしいのだが」
視線に気付いたカダが、私の真似をするように身体をぎゅっと縮めた。
思わず噴き出して、それから私もまた手を動かし始めた。
部屋の中は暗くしていたけれど、やはりどうにも恥ずかしい。
妙な気まずさの中、軽口を叩くことも出来ず無言で服を脱いだ。
静かな部屋に、衣擦れの音だけが響く。
胸が痛いくらいに鳴っていて、息もまともに出来なかった。
本当は偉そうにセックス指南をするほどの余裕なんてない。
一から手順を考えて喋っていたわけではないし、次に何をすればいいかすら考えられない。
「それから、キスを」
だから。
ただ私がしたいと思ったことを口にした。
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