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それにしても、とシアは思う。

カダはいつから寝不足なのだろう。
金も地位もあるはずなのに、今までのどの客よりも寝落ちまでの時間が短い。

貧民街ではロクな仕事もなく、子供のお駄賃のような安い賃金を稼ぐために身を粉にして働いていた。
そんな彼らでも、たまのご褒美としてうちの店に来るときは十分以上お喋りに興じていた気がする。

王様の仕事ってなんなのだろう。
先王は遊び呆けて好き勝手やっていても許されていたのに、この人の顔にはいつも一切の余裕がない。
自由も遊びもなくて、なんのために王様なんてやっているのか。

うつぶせになっているせいか、寝息はどこか苦しげだ。
悪い夢を見ているのか眉間にシワが寄っている。

印堂という、ストレスに効く眉間のツボを押しながらついでにシワをグイグイ伸ばしてやる。
少し薄まった溝に満足しつつ、今度は顔全体のツボを刺激していった。

横を向いている状態だからやりづらいが、身体をひっくり返すだけの腕力はない。
次は仰向けでやらせてもらおうと思いつつ、頭痛がひどそうだったので頭痛解消のツボを中心に目の周りに力を込めていく。

眠っていても気持ちいいのか、苦しそうな表情が少しずつ緩んでいくのが楽しい。
それから小さく何事かを呟いて、むにゃむにゃと口を動かすのが少しかわいく思えた。

三十路前なのにすっかり疲れたおじさんといった風体のカダを、出来ることなら朝まで眠らせてやりたかった。けれどセックスする間も惜しむほど多忙ならばと、また三十分ほどで起こしてやることにした。
本当ならば一時間みっちりマッサージをしてやりたい。
それで明らかな違いを感じさせて、私の有難みを味わわせたかった。

「カダ様。お時間大丈夫ですか」
「……ああ、三十分が経ったか……助かる」
「もう少し寝かせておくべきでしたか?」
「いやこれでいい……しかし気付いたら寝ているな……」
「私の腕がいいので」

謙遜もせずに言うと、カダが小さく笑った。

「本当にそうだな。随分と調子がいい。ありがとうシア」

無警戒に眠ってしまったことを恥じつつも、頭も身体も軽くなったことに気付いてカダが律儀に礼を言う。
王様というのは下々の者に頭を下げるのを苦に思わないものらしい。
それともカダが特別なのだろうか。

「規則正しい睡眠時間を確保しても日中眠くなる時はあります。そういう時は無理せず三十分のお昼寝をされてください。寝る前に覚醒作用のあるお茶を飲むのがオススメです」
「心得ておこう」
「仮眠の際は罪悪感を抱かないように。ストレスの元になります。カダ様が眠ることで国が良くなると割り切ってください」
「あいわかった」

私の偉そうな講釈にいちいち素直に頷く。
寝起きというのもあって目はショボショボしているし、威厳らしきものはこれっぽっちもなかった。

「もしどうしても上手く仮眠が出来ないならここにいらしてくれて構いません。特別にマッサージ付きでベッドをお貸しします」
「覚えておこう」

社交辞令を笑顔で言って、ひらひらと手を振りながらカダが出ていくのを見送る。
ドアが完全に閉まるのを待ってから伸びをした。

次の訪問はまた一週間後。
それまでに、睡眠だけでどれだけ改善されるか楽しみだ。
仮眠は眠れなくても目を閉じるだけで効果はあるし、あれだけ疲れていればそう難しいことでもないはずだ。
ちゃんと私の言うことを守ってくれるのならば、そう悪いようにはならない。

けど、本当に昼寝をしに来たらどうしよう。
王様が昼寝のためだけにここに来るなんて、想像したらちょっと面白い。

だけどまぁ、こっちに来るのにもそれなりに時間かかるし、どうせ来ることはないだろうな。
馬鹿な想像をしてしまったことに気付き、短く嘆息した。
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