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「ではとりあえず横になってください」
「だがまず責務を果たさねば」
「そんなうっすい水みたいな精子じゃヤってもヤらなくても大差ないですって。無駄撃ちやめましょ」
「無駄撃ち……」
呆れながら言えば、カダが言葉に詰まる。
デリカシーゼロだが仕方ない。事実だ。
睡眠不足に疲労困憊。見た目に如実に現れるくらいに不健康では、排卵日にヤったところで子は授かれないだろう。
「だいたいそんなまともに寝てないと、体調崩して子をなす前に死んでしまいますよ」
顔色だけではない。全体的にくたびれた印象は初対面から変わらないし、むしろ酷くなっている。
目の下の隈はこびりつくように黒く、目が落ちくぼんで見える。
老けて見える原因のほとんどがそれだろう。
「それは確かに……しかしどうしても時間が足りないのだ。長時間寝ている場合ではない」
「何にどれだけ時間を使っているのかわかりませんけど寝ない方がずっとやばいですって」
「だが、」
「睡眠が足りていないと集中力が落ちて生産性が下がります。起きている時間が長ければいいわけではありません。最低でも六時間は寝てください」
「六時間も……」
「もちろん徹夜明けの朝から六時間とかは駄目ですよ!? ちゃんと夜に寝て朝起きる生活に戻してください」
「その日のうちにすべきことが終わらない場合は?」
「そんなの明日のご自分にぶん投げてください。どうせ国中ぐちゃぐちゃなんですもん。数時間遅れたところで一緒です」
「くっ……」
私の言うことが的を射たのだろう、言い返せないのが悔しいのか、カダが歯噛みした。
表情の動きは少ないが案外感情表現は豊からしい。
「ほらほらいいからとっとと寝てください」
「……扱いがぞんざい過ぎやしないか」
せめてもの反抗なのか、今更なことを言ってくる。
そんなのここに来た初日からずっとで、なんならお互い様だ。
「それでは国王陛下、うつぶせにおなりあそばしやがりください」
うるせー早くしろという気持ちを隠しもせずに、晴れやかな笑顔で言う。
カダは呆気にとられたように口を開けたあとで、小さく笑いを漏らした。
「では、おおせのままに」
観念したように言ってようやく寝そべる。
すかさず遠慮の欠片もなくどすんとカダの腰に乗った。
思い切り呻いた気がするけど気にしない。
「三十分だけでも休息を取ればそれだけ頭がすっきりして思考力が高まるので、少しでも寝た方が捗ります。今日はそれで目をつぶりますけど、明日からはきちんと決まった時間に寝起きしてください」
「そうなのか……だが仮眠をとってもここでのようにはいかなかった」
「そりゃ私がマッサージをしましたので」
「マッサージ」
まるで初めて聞いた言葉みたいにオウム返しされてちょっと引く。
まさか経験がないとでも言うのか。
王様権限を使ってもう少しくらいは良い思いをしてもいいのではないか。
寝ることも休憩することも出来ず、労わってももらえないなんて。
さすがに少し不憫になってくる。
「……ちょっと失礼しますね」
「ああ。頼む」
同情心を抱きつつ背中に触れる。
前回も思ったけれどバッキバキだ。
どこもかしこも凝り固まって、長時間机に貼りついているだろうことが容易に窺えた。
頭皮もカチカチだし腰も腕もパンパンでやばい。
頭痛がひどいと言っていたから、まずは頭のツボと首筋にかけてを入念にほぐしてあげよう。
そう決めて重点的に攻める。
慢性的に睡眠不足なカダは案の定すぐに眠りに落ちて、仮眠についてのレクチャーをする事も出来なかった。
しょうがない、起きてから少し時間を作ってもらおう。
そう諦めて、マッサージを続けることにした。
「だがまず責務を果たさねば」
「そんなうっすい水みたいな精子じゃヤってもヤらなくても大差ないですって。無駄撃ちやめましょ」
「無駄撃ち……」
呆れながら言えば、カダが言葉に詰まる。
デリカシーゼロだが仕方ない。事実だ。
睡眠不足に疲労困憊。見た目に如実に現れるくらいに不健康では、排卵日にヤったところで子は授かれないだろう。
「だいたいそんなまともに寝てないと、体調崩して子をなす前に死んでしまいますよ」
顔色だけではない。全体的にくたびれた印象は初対面から変わらないし、むしろ酷くなっている。
目の下の隈はこびりつくように黒く、目が落ちくぼんで見える。
老けて見える原因のほとんどがそれだろう。
「それは確かに……しかしどうしても時間が足りないのだ。長時間寝ている場合ではない」
「何にどれだけ時間を使っているのかわかりませんけど寝ない方がずっとやばいですって」
「だが、」
「睡眠が足りていないと集中力が落ちて生産性が下がります。起きている時間が長ければいいわけではありません。最低でも六時間は寝てください」
「六時間も……」
「もちろん徹夜明けの朝から六時間とかは駄目ですよ!? ちゃんと夜に寝て朝起きる生活に戻してください」
「その日のうちにすべきことが終わらない場合は?」
「そんなの明日のご自分にぶん投げてください。どうせ国中ぐちゃぐちゃなんですもん。数時間遅れたところで一緒です」
「くっ……」
私の言うことが的を射たのだろう、言い返せないのが悔しいのか、カダが歯噛みした。
表情の動きは少ないが案外感情表現は豊からしい。
「ほらほらいいからとっとと寝てください」
「……扱いがぞんざい過ぎやしないか」
せめてもの反抗なのか、今更なことを言ってくる。
そんなのここに来た初日からずっとで、なんならお互い様だ。
「それでは国王陛下、うつぶせにおなりあそばしやがりください」
うるせー早くしろという気持ちを隠しもせずに、晴れやかな笑顔で言う。
カダは呆気にとられたように口を開けたあとで、小さく笑いを漏らした。
「では、おおせのままに」
観念したように言ってようやく寝そべる。
すかさず遠慮の欠片もなくどすんとカダの腰に乗った。
思い切り呻いた気がするけど気にしない。
「三十分だけでも休息を取ればそれだけ頭がすっきりして思考力が高まるので、少しでも寝た方が捗ります。今日はそれで目をつぶりますけど、明日からはきちんと決まった時間に寝起きしてください」
「そうなのか……だが仮眠をとってもここでのようにはいかなかった」
「そりゃ私がマッサージをしましたので」
「マッサージ」
まるで初めて聞いた言葉みたいにオウム返しされてちょっと引く。
まさか経験がないとでも言うのか。
王様権限を使ってもう少しくらいは良い思いをしてもいいのではないか。
寝ることも休憩することも出来ず、労わってももらえないなんて。
さすがに少し不憫になってくる。
「……ちょっと失礼しますね」
「ああ。頼む」
同情心を抱きつつ背中に触れる。
前回も思ったけれどバッキバキだ。
どこもかしこも凝り固まって、長時間机に貼りついているだろうことが容易に窺えた。
頭皮もカチカチだし腰も腕もパンパンでやばい。
頭痛がひどいと言っていたから、まずは頭のツボと首筋にかけてを入念にほぐしてあげよう。
そう決めて重点的に攻める。
慢性的に睡眠不足なカダは案の定すぐに眠りに落ちて、仮眠についてのレクチャーをする事も出来なかった。
しょうがない、起きてから少し時間を作ってもらおう。
そう諦めて、マッサージを続けることにした。
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