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全くの盲点。
灯台下暗しとはまさにこのこと。

「することが多すぎて時間が足りないのだ」
「なるほど。それでいつも手早く済ませて行ってしまうのですね」

確かにそれなら納得がいく。
先王の時代から国は荒れ放題だ。
未だに何も良くなっていないところを見ると、荒廃は根深く、この国は腐り落ちる寸前に近いのではないだろうか。
新しい王であるカダが睡眠時間を削って、後宮に通う時間を削って、それでも全然間に合っていないのだ。

「それもあるが……」

そりゃ五十歳に見えるほどに老けこむわけだ。
肌も髪もカッサカサでしょうがない。

なんだ好き放題遊び呆けてたわけじゃないのね。
誤解しててごめんね王様。

心の中で手の平を返して詫びていると、カダが言いづらそうに口をモゴモゴさせた。

「どうされました?」
「その、だな。国を良くするためには、大規模な粛清を行わなければならない」
「粛清、ですか」

相変わらず顔色は悪く、感情の読みにくい変化の無さだが、なぜか申し訳なさそうな感じは伝わってくる。

「つまり、いつかここにいる娘たちの敵に回るということだ」
「……?」

どういう意味か考える。
この後宮にいる娘。
たぶん主にカダが相手をする「部屋付き」たちのことを言っている。
その娘たちへの態度が事務的な理由、についてということでいいのか。
単純に時間がないということの他に、そうなるべき理由。
粛清。
部屋付きの女性の地位。立場。

「粛清対象は、主にここに住まう娘たちの後ろ盾となっている貴族たちだ」

やはりとても申し訳なさそうに、けれどきっぱりした語調で告げた。

つまり、将来的に彼女たちの家を潰すことになるから情が移らないようにしているということだろうか。
後宮は一見華やかだが、中にいるのは先王に取り入って好き放題やってきた貴族家の娘たちばかり。先王を裏切らないように人質として入れられたというのは暗黙の了解で。

「……ということは?」

さっきまでのどこか気安い雰囲気から一変して、カダの身体から炎の揺らめきのような圧を感じる。
私の無礼な態度は許せても、これに関しては一歩も譲れないという気迫が在った。

「もちろんレゾナント侯爵家もその対象となる」
「うっそマジですかやったぁ!」

歓喜した瞬間、かくんとカダの肩が落ちた。
今たしかに存在した気迫はあっさりと霧散してしまったようだ。

「…………や、やったぁ??」
「え、だってカダ様がやらなくてもいつか自分でぶっ潰してやろうと思っていたので。面倒ごとが勝手に片付いてラッキー」

あざまーす、と軽い調子で言うと、脱力したようにカダの頭が傾いた。
いっぱいしゃべったから疲れたのかもしれない。
体力なさそうだもんなこの人。
でもそれじゃ困る。
貴族粛清大いに結構。是非ともやり遂げてほしい。
そのためにはなんとしてでも長生きしてもらわなくてはならない。

「よーっし俄然やる気出てきた! 私、カダ様に全面協力します! えっとなんでしたっけ、よく眠れる秘訣でしたっけ!?」
「え? ああ、うん。そう……」

私の勢いに呑まれたように、カダが反射的に頷く。

さっきは正直めんどくせーなとか思っちゃったけどそんなことを言っている場合ではない。
彼には確実に着実に我が実家を、ついでに言うならトーザの家も丁寧にまっさらに潰していただかねば。

健康管理ならば私の得意分野だ。
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