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なんだかめちゃくちゃ深く眠っているみたいだけどどうしよう。

所在なく、枕元に三角座りで待機する。

気持ちよさそうな顔で寝てるし、夜だし、この部屋でこのまま寝かせてやるのも有りと言えば有りだ。
一応王様だし、後宮内で一番偉い人だし、物凄く邪魔だということを除けばここで一晩過ごすのはおかしいことではない。
本当に、メチャクチャに、心の底から邪魔ではあるけれど。

ただ、なんだかいつもさっさと出ていくところを見るに、このあと用事があるのかもしれない。
そういえばさっきも時間がないみたいなことを言っていた気がする。
勝手な判断で寝かせ続けてあとで打首なんて事態は絶対に避けたい。

チラリと時計に目をやる。
寝落ちしてから三十分ほど経っていた。

はあ、とため息をついて膝を崩す。

「陛下。陛下、お時間大丈夫ですか」

めんどくせーなと思いつつ、そっと声を掛けた瞬間、カッと目が見開かれた。

「びゃっ」

初めて見る俊敏な動きで起き上がられて、思わず仰け反る。

焦ったように時計を見るさまにたじろいでいると、こちらにギッと視線を向けられて肩が跳ねた。

「どれくらい寝ていた」
「さ、三十分ほどです」

やはりもっと早く起こすべきだったか。
勢いに呑まれて正直に答えたてから後悔する。

「三十分……」

けれど王様はなんだかぽかんとした顔になったあとで、額の辺りを押さえた。

「……妙に頭がすっきりしている」
「ええ、あの、お昼寝に三十分は最適ですので」

もう夜だから昼寝というのはおかしいけれど。
眠くて眠くて仕方ない、でもどうしても長く睡眠をとれないという時の仮眠ならば三十分にとどめるのが良い。

「肩も軽い……」

肩をグルグル回しながら呟くのを見て、こっそり得意な気分になる。
そうだろうそうだろう。
寝ている間ずっとマッサージしてやったから、当然のことだ。
王様なんて大嫌いだけど、これはプロ意識の問題だ。
目の前に弱っている人間がいたら施術せずにはいられない。
ものすごく不本意ではあったが、客に貴賤はないのだ。
まぁこいつが客かどうかは置いといて、気まぐれにでも始めてしまった以上手抜きは出来ない。

私の腕が良かったおかげですと声高に主張してやりたかったが、なんだか底の知れない男だ、何が逆鱗に触れるかわからない。
間抜け面で眠りこけている間に、好き放題しやがったなんて思われたらたまったものではなかった。

「頭痛もいくらかマシになっているような……」

最低限の仮眠と肩周辺のマッサージだけじゃそんなもんかもね。
でもなんかちょっとだけ顔色が良くなったような。
あくまでも誤差範囲だけども。

ほんの少し手を出しただけで改善を実感できるなんて、普段どれだけ不健康な生活を送っているのやら。
これだから王様というやつは。

「ぴっ」

こっそり呆れたため息を吐こうとした瞬間、唐突に肩をガシッと掴まれて変な声が出る。

「時間は惜しいが助かった」

正面から見据えて王様が言う。
いつも淀んだ黒い目に、ほんの少しだけ光が宿ったような気がした。

「急ぐのでこれで」

短く告げて、嵐のように去っていく。

ホントなんなんだあいつ。
たぶんちんこ出しっぱで行ったけど大丈夫か。
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